第6話

「これってどういうこと?」

「失敗しちゃったのよ。うまくいかなかったわね」

「ええっ。やったら貰えるんじゃないの?」

「上手な人は取っちゃうけど、私はそんなにうまくないのよ。取れるまで頑張るか、あきらめるかね」


 するとライナスが口を挟んできた。


「ずっと取れなかったら、金がかかるんじゃないのか?」


「そうですね。でもそれがこのゲームの特長なんです。一回か二回で取れる場合もあるし、どうしても欲しい商品は取れるまで頑張ったり、取れる取れないではなくてちょっと遊んで満足したり。人それぞれ」


「なるほど。だが……子ども用の遊びにしては、ずいぶんギャンブル性が高いな」

「そうですね。だから保護者と一緒を推奨しています。アイシス、やってみる?」


 アイシスは多希とライナスの顔を何度か交互に見、それから少し考えたようにクレーンゲームの台を見ている。


「取れなかったら悔しい」

「お金を出したら必ず貰えるゲームもあるわよ。こっち」


 多希が次に連れて行ったのはカプセルトイが並んでいる場所だった。


「ここのゲームはお金を入れて、このレバーを回したら、玩具が出てくるのよ。どんな玩具が出てくるかは、正面にあるこの紙にあるものなの。だけど、この中でどれが出てくるかは運しだい」

「……これも必ず欲しいものが出てくるとは限らないってこと?」

「そうよ。だけど、必ずこの中のどれかが出てくるから、なにが欲しいかよく吟味して選ぶのよ」


 ズラリと並んでいるカプセルトイをすべて確認してから、アイシスは猫の玩具のものを選んだ。


 六種類ある猫は、寝ころんでいるもの、のびをしているものとすべて動作が違う。


 種類は三毛猫、黒猫、白猫、茶トラ猫、黒と白のハチワレ猫、キジトラソックス猫だ。


 どれもアイシスの琴線に触れたようで、全部欲しいと言いながら、まずは一回目にトライする。


「ここにお金を入れる」

「そうそう。で、玩具が出てくるまでレバーを回すのよ」


 アイシスは緊張したように百円玉を三枚入れ、レバーを掴んだ。そしてゆっくりと一回、二回と回転させる。三回目が終わった時、ガタンと音がして、取り出し口に半透明のボールが出てきた。


「あ!」

「なにが入ってるかなぁ~?」


 プラスチックのカプセルを捻って開けて中のものを取り出すと、アイシスの顔がパッと明るくなった。


 多希は屈み腰にアイシスの手元を覗き込んだ。


「あ、三毛猫ね」

「こんな柄、見たことない」

「この国では珍しくないんだけどね。どう?」

「かわいい!」


 アイシスの目がキラキラと輝いている。


「アイシスは王子様だったのだから、欲しいって言ったら貰えたんじゃないの?」

「こういうかわいい玩具を欲しいって言ったら、母上に怒られるから、言えなかった。男の子だから、強くなれるものを欲しがりなさいって叱られた」

「……そう」


 多希の声のトーンが下がるが、アイシスは気にした様子はない。それよりも手に入れた三毛猫の玩具がうれしくて仕方がないようだ。


 そんなアイシスを見つめ、多希は彼女の前で片膝をつき、顔を見上げた。


「猫が入っていたケースは、この回収ボックスに入れるのよ。ねぇ、アイシス、これから私といっぱい遊ぼう」

「いっぱい遊ぶ?」

「そ。私、アイシスがしたいことにとことんつきあうから、かわいい服を着て、かわいい玩具をいっぱい買って、たくさん遊ぼう」

「…………」


 アイシスが多希の隣に立っているライナスを見上げる。ライナスの反応が気になるようだ。


「ライナスさんもよ」


 突然強い口調で話を振られたライナスは、目を丸くしたものの多希の意図を察し、頷いた。


「そうしよう」

「兄上、本当?」


「本当だ。ここでは王族としての仕事はまったくないし、我々はそのように振る舞う必要はない。むしろそれはこの世界にはふさわしくない行動のようだ。我々がすべき大切なことは、世話になるタキさんの役に立つことだ」


「わかった!」


 アイシスがまた多希に顔を向けたので、二人の目がバッチリと合った。多希は思いっきり笑って頷いた。


「じゃあ、次に行こうか」

「はい!」


 元気いっぱいのアイシスの返事を合図に、三人は次のゲーム機に向かった。


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