第10話 今日が終わる


 

 「ふふへっお前らに恨みはねぇーが、ここで会っちまったことを恨むんだなぁ」

 

 そう言ってじわじわ近づいてくる盗賊たちに注意を向けながら周りの様子を確認する。俺の近くにヂェメケとエルが居て、コームさんを挟んだ奥にジュールさん。ジュールさんと俺を曲線でつないだ間にゾハさんとエミールさんが居る。俺たちは7人で向こうはざっと見たところ10人とちょっと居そうだ。

 足が竦む。多分、ヂェメケは戦えない、ゾハさんもそうだ。コームさんは分からない。とりあえず一旦俺の荷物はヂェメケに預けることにしてハンティングナイフを構える。

 

 「ヂェメケ!これ持ってて絶対離すなよ!!」

 

 「えっ!!わ、わかった!」

 

 目の前にいた男がすごい気迫で迫ってくる。手加減なんかしていたらきっと俺らが殺される。本気で殺ったってきっと俺だけじゃ勝てない。恐怖で動けなくなりそうな体を必死で動かす。

 ナイフを突き刺そうとしてくるので俺は、右手に持ったナイフで軌道をそらすように合わせてみる。そのまま相手の懐に入り、右手のナイフを持ち直して相手の腹を抉る。嫌な感触とぐしゃっという音が五感を刺激し、吐き気がするがなんとか堪えて相手の腹を蹴ることで距離をとる。ヂェメケの背後に向けて口早に魔法を放つ。

 

 「シーラジエンルゥイ」

 

直ちに鋭い風が盗賊を襲う。

 

 「ヴぅっ!!ィってぇな!ガキが調子乗んじゃねーよクソッ!」

 

 幸い俺らはガキだと舐められているのか手薄で3人が常についてる状態だ。でもどうしたって勝てる気がしない。ナイフを両手でしっかり掴み一か八かで精一杯叫びながら突進する。

 

 「うあああぁぁぁ゛ーーーッ!!」

 

 突進はもちろん避けられるが構わず今度はナイフを右上から斜めに振り下ろし、一旦後ろに引いて立て直す。

 

 「ヂェメケ、獣が寄ってくるような何かいい方法はない!?」

 

聞くだけ聞いて盗賊の1人がこちらへ迫ってくるので応戦する。でも私が勝てるわけない。ナイフもど素人だし所詮14のガキだ。負けるのはきっと時間の問題だろう。

 

 「シス!馬車にいいものがある!」

 

 ヂェメケの近くに寄った時そう声がかかった。

 

 「分かった!俺との距離を見つつ少しずつ移動してくれ俺も近くで行動する!」

 

エルの様子を伺うと2人を相手取っていてやや危なそうだ。竜巻の魔法を飛ばす。

 

 「シーフナス!」

 

呪文を唱えるとたちまち3m近い竜巻が発生して1人の盗賊を襲う。

 

 「あり!!」

 

 「いーえっ!」

 

近くの盗賊からも狙われるので皆を気にしてばかりでは居られない。飛んでくるナイフや棍棒を避けてできる限りカウンターを狙うが難しそうならすぐに引く。相手を傷つけることよりもヂェメケと自分の身を守ることに集中しよう。

 

 魔法も使いつつ盗賊と応戦していると密かに馬車の中に入っていくヂェメケが横目に映った。その後を追って馬車に入ろうとするコームさんが居たので止めに入る。

 

 「シスくんなんのつもり?」

 

 「それはこっちのセリフです」

 

 「へ〜把握力が高いことで」

 

コームさんが周りの盗賊に合図をしたことで盗賊はエミールさん達の方へ行ってしまった。


 「っ!!本当にあなたが…」

 

 「あ〜カマ?カマかけちゃうんだ。僕はシスくんのこと信じてたのにシスくんは僕のこと疑ってたんだ。へ〜…かなしーな〜…」

 

 

 全然悲しくなさそうに彼は言う。

 

 「最初に裏切ったのはあなたじゃないか!」

 

 「仕方ないだろ」


 「仕方ない?」

 

 「盗賊生まれの僕じゃ、どう頑張ったって普通の人にはなれないんだよ」

 

 「なにそれ。そんな理由で…」

 

 「そんな!?…そうだよね。君にとっては、理由だよ。そんな理由で、僕はっ!!そんな理由で耐えられなかった。異物との共生をしんから受け入れられる君には分からない感覚だろうね」

 

 「でも!盗賊生まれが理由でコームさんの価値が下がることなんてないじゃん!」

 

 「下がるよ!下がる下がる下がる…!信頼が下がる!!大体の人間はそうなんだ!生まれで価値を測る!俺は、盗賊として生きるしかいんだ…!!」

 

 「…そうだね。ゾハさんがくれたせいを棒に振ったコームさんには、盗賊として生きるしかないのかもね」

 

 「ッ…!!」

 

 コームさんが怒りの形相で襲いかかってくる。速い。頑張って避けるがナイフが頬や腕を掠っていく。コームさんの顔には嘲笑が広がっていく。遊ばれてる。イラ。

 

 「ぷぅッ!」

 

 「なめやがってガキがっ!」

 

 「う゛っぅぅッ!!」

 

 あまりにもうざくて口内に広がっていた血を吹きかけたところ逆上され、腹を思いっきり蹴られた。足が縺れ後ろに倒れたところにコームさんが乗り上げ、右腹を一指した後、首に手をかけ持ち上げられる。

 

 「本気で殺すぞっ!」


 「ぅ、で…ない…しょ」

 

 「あぁ゛!!?いつまで舐めた口きくつもりだよ!立場わかってんのか?おい」

 

 喉を締められしっかり音になっている自信はなかったが怒り具合からして伝わっているようだ。


 「だ…っう、こ…や、すぅ、いぃい」

 

意識が朦朧として、自分でもなんて言おうとしているのかが分からない中言葉を紡ぐ。

 

 「あぁ゛?しゃんと話せy…ぅ゛!」

 

 「くぁっ!ハアハア…スゥーーーはーー」

 

 呼吸が楽になり喉をさすりながら何とか立ち上がる。ヂェメケがこちらの様子に気づき馬車から飛び蹴りをカマしてくれたっぽい。

 

 「助かった」

 

 「遅くなってすまん!例のやつ魔物にとっては強烈な匂いだからもう時期来ると思う!」

 

 「ナイス」

 

周囲をざっと見て戦況を確認する。立っている人間を確認し、倒れている人間を確認する。

 

 「ヂェメケっ!ゾハさんが!」

 

 「大丈夫。心構えはしていた。落ち込むのは今じゃない」

 

 エミールさんもジュールさんもエルも皆ギリギリで戦っている。どうにかみんなに伝える方法はないだろうか。そんな風に考えてるうちにコームさんは体勢を持ち直し、木々の間からはドダッドッドッと複数の統制の取れていない足音が響いてきた。

 

 「来たっ!」

 

 ヂェメケが言い。

 

 「みんな!逃げろっ!!…エーディアフェロー」

 

俺が叫んで。近くにいたヂェメケの手を右手で掴み、血を流している腹を左手で圧しながら、足に魔法の風を纏わせて。街道を走り出す。

 

 

──────

 

 現魔力:3/17

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