なんかこうムカつくやつ

@iJpeo

第1話 ある冬の日の思い出と今

冷房の音がする。シューッといつも言っている。

こんな私を生かしてしまう、この白く不気味でオンボロな機械に、ひどく同情する。壁掛け時計をゆらっと覗くと、2時を少し過ぎたところだった。外は暗かった。8ミリほどの無礼なヒゲが生えた男がその窓には映っていた。紛れもなく絶対的に確実に、それは自分だった。下の階からウグイスとゴキブリを2で割ったような羽音が聞こえる。血気盛んに交尾でもしているのだろう。そういうことにして思考を止めた。

つくづく自分の生き方は場当たり的で無計画だと嘆く。2年前の暮の暮、大晦日の午後10時にもこの才能は動き出した。ただ何となく動きたくて仕方がなかったのだろう。急に僕は初詣を、年の初めの0秒目にしたくなった。そしたら動いてた。少し歪んだ自転車とともに。走った走った走った。神社仏閣ごちゃまぜて、大きくて堅いとこから順々に。お金が少しもったいないから個々のお守りは買えなかったが、少しばかり安いおみくじを何度も何度も買った。大吉はそれなりにあったが凶などは一つもなかった。おおよそ聖職者が未熟な子らのために入れていないのだろう。少しばかり入っていれば、僕みたいな奴は嬉しくてウキウキするってのに。そうして東京を袈裟斬りにして、次の目的地に向かった。そう僕は飽き性なのだ。お参りなど飽きたのだ。ちょうどほんの少し上からの光が白み掛かってきた4時くらいに、僕は江東区のどこかで彷徨いながら葛西臨海公園を目指していた。初日の出が見たかったのだ。なんとか自分の命と筋肉を燃やし、迷子になりながらも必死で仲間を求めた。おかしいな。なんか変だ。まさか。ここで、皆気づく。この野郎は一人で過重参拝していたのかと。そうなのだ。気の狂ったやつがこの物語の主人公なのだ。今までの行為はすべて一人でやってのけていたのだ。本当は友達の一人や二人誘ったのだが、全て丁重にお断りだったのだ。でも、それでも、真新しい最初の日の出だけは一緒に見てあげようという英傑が、僕には二人いた。その仲間を目指して進んだ。ちょうど6時過ぎのあともう少しでアイツがやってくるタイミングで僕は葛西臨海公園の良さげなところに着いた。そこでスマホと世界に向き合いながら眠い目を擦って友を探した。何回か電話をしてやっと見つけたときにはもう太陽は見えていたがまぁ良かった。1分や10分は僕にとってあまり関係なかった。ただ美しく香ばしく痛いその日を観れたなら僕はそれで良かった。ちょっといい場所過ぎて他のゴミどもが流れてきた。なので、場所を変えてなんかこう土手になっている柔らかなところに、ゆったりと腰を掛けて頭も置いて天を眺めた。そうしてむさい♂と騒がしい人類の横で、僕は静かに寝た。

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