押しかけ天使

「おはよー!ございまーす!!」

スマホのアラームをかき消すほどの大きな声で、オレは叩き起こされた。

目を開くと、女が枕元に立っていた。

「…誰、あんた?」

オレが聞くと、女は

「私は『天使』です」

そう答えてにっこりと笑った。


「…つまり、オレが『少しでもいい生活』を送れるサポートをするために派遣されてきた…と」

聞かされた説明を繰り返すと、<天使>は頷きながら

「事前に通知が行っていたと思いますけれども、届いていませんか?」

と聞いてきた。

…そういえば、前に何か来てたっけ。

にしても、オレの所に<天使>が来るなんて、嘘か冗談かと思った。

それを<天使>に告げると、

「天使は嘘をつきません」

そう胸を張って答え、

「なので今日から一緒に生活して、あなたが『いい生活』を送れるよう、サポートいたします!」

と続けた。

「…無駄と思うけどなぁ」

そうオレが言っても<天使>は意に介さず、

「まぁまぁ、まずは何事もやってみてから。よろしくお願いします!」

と、文字通り「天使の微笑み」でそう言った。

「まるで押しかけ女房だな」

「違いますー、天使ですー」

「押しかけなのは認めるのかよ」


「おかしいですねぇ…」

<天使>が来てから一週間が経った頃。

黄身が崩れた目玉焼きを食べながら、<天使>が呟いた。

「おかしいって、何が?」

ダシを取り忘れた味噌汁をすすりながら、オレが聞く。

「私がここに来てから、少しも生活がよくなっていないんです」

「でも、悪くなってはいないかな」

「これでも私、優秀なんです。成功率エグいんです」

「ふんふん」

「でもなんかうまく行かないんです。目玉焼きの黄身は崩れるし、お味噌汁のダシは取り忘れるし」

「ただのぶきっちょなんじゃ?」

「違いますー」

「…でも、あんたがそう感じるのも、あながち間違いじゃない気はするなぁ」

オレがそう言うと、<天使>は

「どうしてですか?」

と聞き返してきた。

「だってオレ、悪魔だもん」

そう言ってやると、

「…へ?」

なんとも間の抜けたリアクションを返した。

「悪魔と天使が一緒にいたら、お互い打ち消しあっちゃうもんなぁ」

「そんなぁ…」

<天使>がうなだれる。

「どうする?諦めて帰る?」

<天使>はしばらく考え込んだあと、

「…取り敢えずごはんが上手に完成できるようになるまでは、頑張ってみます!」

と答えた。

「本当に押しかけ女房みたいだな」

「違いますー、天使ですー」

<天使>はそう言うと味噌汁を一気に飲み干して、盛大にむせた。

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