千物語

松田 かおる

z

…どうしよう、どうしてこんなことに…


あたしは途方に暮れていた。


視線の先には、彼が腹を真っ赤に染めて床に横たわっている。

もう息も絶え絶えで、このままでは死んでしまうだろう。


きっかけは些細なこと。

それこそ「紅茶にレモンを入れるかどうか」くらいの、本当に些細なこと。

それが物のはずみでこんなことになってしまった。


些細なきっかけと物のはずみで、こんな結果に…


…どうしてあんな些細なことで、こんな結果になってしまったのだろう。

できるなら目の前で起こっていることをなかったことにして、もう一度やり直したい…


ああ神様、何とかならないでしょうか…


そんなことを考えていると、

<おっけー!>

と、頭の中に突然、鈴が転がるような声が響いてきた。

それと同時に、あたしの頭に何かが当たる感じがして、

こつん。

ころころ…

何かが床の上に転がった。


拾い上げてみると、「それ」は何かのスイッチのようなものだった。

それにはアルファベットが一文字だけ刻印されている。

「…N?」

あたしが無意識につぶやくと、

<違うよ、それは『Z』。>

と、また頭の中に声が響いてきた。

<それはねぇ、『やり直しスイッチ』。起こってしまったことを『やり直せる』、魔法のスイッチだよ。>

「やり直しスイッチ?」

<そう。あなたが強く念じれば、起こってしまったことを『やり直せる』の。>

相変わらず頭の中に直接声が響いてくる。

いよいよあたしはおかしくなってしまったのだろうか?

でも、あたしの手の中には「Z」と刻印されたスイッチがある。

<ほら、押してみなよ。起こってしまったことを『やり直したい』んでしょ?>

…確かにそうだ。

あたしがおかしくなっていても、そうでなくても、この際構うものか。

「やり直せる」のであれば、このスイッチを押してやる…


あたしは「お願い!やり直して!」と強く念じながら、手の中のスイッチを押した。

すると頭の後ろから何かに強く引っ張られるような感覚を覚えて、意識が遠のいた。




…どうしよう、どうしてこんなことに…


あたしは途方に暮れていた。


視線の先には、彼が胸を真っ赤に染めて床に横たわっている。

もう息も絶え絶えで、このままでは死んでしまうだろう。


きっかけは些細なこと。

それこそ「紅茶にミルクを入れるかどうか」くらいの、本当に些細なこと。

それが物のはずみでこんなことになってしまった。


…あれ?

何だろうこの感覚…

ほんのついさっき、同じ体験をした感じがするのだけれども…

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