偽証の責任
和泉は伴田が披露した推理に引っ掛かっていた。
……確かに、右頬の切り傷と色覚異常の2つの推理は筋が通っているような気がするが……。
和泉はそんなことを自分の席に座って考えていた。
推理を披露し終わった伴田は、今日は事件が進展したから、これ以上は明日に回そうと言って、定時で帰ってしまった。
だから、警察署に居座っているのは、和泉だけだった。和泉はその一人だけの空間で、伴田の推理で感じる違和感について考えていた。
和泉はその違和感の正体が分からずに、モヤモヤしていた。
そのモヤモヤを紛らわせるために、和泉はなんとなくズボンのポケットに手を入れてみる。
すると、右ポケットの中に4つ折りに折りたたまれた紙のようなものが入っていた。和泉はポケットから折りたたまれた紙を取り出すと、いつの紙だと思いを巡らす。和泉はしばらく考えたが、この紙きれに覚えはなかった。
和泉はとりあえず、その4つ折りの紙を開いて、中身を確認する。
……
和泉はその紙に書かれた言葉を見て、すぐにその言葉の意味を理解できなかった。
そうか!
これは、喫茶店で水をこぼした若田が拭くふりをして、和泉のポケットに入れたものだと確信した。
ということは……
そう思い立つと、和泉は警察署を飛び出して、若田の家へと急いだ。
しかし、和泉が真相に気が付くのは遅かった。
和泉が向かった若田の家の庭で、若田美鈴は殺されていたからだ。
さらに、若田美鈴の舌は死後に切り取られていた。
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「なるほど、随分、猟奇的だね。 作風を変えたのかい?」
天神教授は美玖の小説を読み終わると、梨子に話しかけた。
「違いますよ! 可愛い後輩のミステリー小説ですよ。」
梨子は言葉に怒りを込めながら、そう言った。
「ハハハ、本当に可愛いと思っているなら、そこまで語気を強めなくてもいいじゃないか。
嘘をついたら、この小説の若田美鈴のように、舌を切られてしまうぞ。」
「そうですよね? 若田は嘘をついていますよね!」
「ああ、嘘をついているな。
……まあ、しょうがないと言えるがな。」
「でもですよ!
その後輩が私の推理は間違ってるって!
それもミスリードにまんまと引っ掛かったって!
ああ~!! あの顔、思い出しただけでも、腹が立つ~!!! ヽ(`Д´#)ノ」
梨子は美玖の得意げで、馬鹿にするような顔を思い出しただけでも腹が煮えくり返りそうだった。
「じゃあ、私にこの小説の真相を解説してもらうよりも、自分で推理し直した方がいいんじゃないか?」
「分からないんです! 考えても!」
天神教授は飽きれたような表情をした。
「負けず嫌いは加減を知ればよく働くが、君のは駄目だね。
十戒にも定められているだろう? 他人の物を欲しがってはいけない。とね。」
「……なんで、急に十戒の話に?」
「それじゃあ、この小説の真相に気が付けないな。」
「十戒の何が?」
「まあ、モーゼの十戒ではなく、ノックスの十戒だがね。」
「ノックスの十戒?」
天神教授はさらにあきれたように、肩を落とした。
「……それでも君はミステリー作家の端くれかね?」
「!?」
「……分かったよ。この事件の真相を1から説明しよう。」
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