第5話 絶対にユルサナイ。

 インターホンを鳴らして少し待つ。


「茜ちゃんごめんね~海星ったら今日は彼女の家に泊まるって言って帰ってきて無いのよ。」


 インターホン越しに海星のお母さんの声が聞こえてきた。


「、、、それ本当ですか?」


「そうなのよ~高校二年だからあんまり口うるさく言いたくはないけど海星もやるときはやるのねぇ~」


「なんで、、、」


「何か言ったかしら?」


「いえ、何でもありません。すいません遅くに」


「気にしなくてもいいのよ~」


「では失礼します。」


 そんな、じゃあ海星が土日に泊まってたのって彼女の家ってこと?

 信じらんない。

 仮にあの冗談を海星が信じていたとしてすぐに他の女の家に上がり込むなんて。

 やっぱり海星は騙されてるんだよ。

 そうに違いない。

 海星はやさしいから変な女に騙されちゃっただけなんだよね。

 私が海星を助けてあげなくちゃ。


「ただいま~」


 誰も家にいないのはわかってるけどいつもこういってしまうのはきっと癖だ。

 そういえば最近まともな食事をとっていない気がする。

 それそうか。

 いつもは海星に作ってもらってたし掃除とか洗濯も海星がやってくれてたから。

 結構ゴミとかたまってるな。


「私から海星を奪うなんて絶対にユルサナイ。」


 こんなに海星と離れたのは初めてかもしれない。

 小学生になるころには両親の帰りが遅くなって一人で過ごす時間が増えた。

 でも、海星はいつも私と一緒にいてくれた。

 両親の代わりに朝ごはんを作ってくれたり掃除や洗濯をしてくれた。

 お弁当も作ってくれていた。

 私はそんな海星が好きで中学の最後に告白して付き合うことになった。

 でも、付き合ってみると周囲の視線を気にして素直になれなかった。


「だから、仲直りしたら素直になろう。」


 きっとそうしたら海星も喜ぶだろうし。

 私は海星が喜んでいる顔を見たい。

 さっきは顔も見たくないとか言われたけど、それもきっと海星を騙してる女に言わされてるに違いない。

 可愛そうな海星。

 早く私が助けてあげなくちゃ。


「おなか減ったな~。でも、家には何もないししょうがないからお風呂に入って今日は早めに寝よう。」


 海星がいないと私の日常は灰色だ。

 何も無いし楽しくない。

 だから早く海星を奪った泥棒猫を探し出して海星を奪い返さないと。

 見つけたら絶対に後悔させてやる。

 私の唯一無二を奪うなんて本当に許せない。

 誰の許可を得てそんなことをしているのか。

 苛立つ心を何とか落ち着けてお風呂に入って布団に入る。


「絶対にユルサナイ。」


 まだ見ぬ泥棒猫にそう呪詛を吐いて眠りについた。

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