第6話次男

それから二週間後。平井はなんの不自由もなくホテルで暮らしていた。そのうえ桑原に新しい携帯を買ってもらい、より自由度が増した。

「…………」

平井はふかふかのベッドで目を覚ます。


EP6 次男


研究者である縁木が、咳払いをしながら桑原に電話をした。

「おはようございます、桑原さん。平井澪の殺意誘発実験ですが…。彼女の性格からして未だ進捗はありません。巨大な化け物の第二児出産予定日は解明できそうですか?」

桑原は平井がいるホテルの駐車場で電話に答えた。

「おはようございます。縁木さん。出産予定日は化け物が出産後体が少ししぼみ、現在回復してきているのを見るとあと三日後と予測できます。それまでに平井さんの殺意誘発は厳しそうなので長男化け物の死骸周辺から採取した水色の液体の解析をお願いします。そこから気体の方の弱点が割り出せるかもしれません」

「はい、しかし我々も日々液体について研究を重ねていますが現在の常識、論理からすると不可解な点が多く難航しております。もう少し事象やサンプルが必要なので平井澪の殺意誘発を優先すべきかと思います」

「……。なるほど両方とも謎が多くもう少し様子を見た方が良いと。しかし次の戦闘で平井さんが勝てるとは限らないですし…。」

「それはもう賭けるしかないですよ、今の我々には何もできない。手のつくしようがないんです」

「だからってそんな粗雑に世界の命運をかけるわけにいかないっすよ……」

「………………」

「……………………」

この時、両者早く会話を終わらせたいと思った。

「ゴホン」

縁木が咳払いをした。

「えーと、桑原さんすいません。息子が交通事故を起こしたみたいなので、すいません。またかけ直します」

電話が切れた。

「……………はい」


コンコン

ホテルのドアがノックされる。

「はい」

平井がドアを開けると、桑原が立っていた。

「おはよう平井さん。元気?」

「おはようございます桑原さん。最近元気になってきました」

「そう!よかったね。」

平井や化け物の力についてはまだわからないことが多いので、平井は毎日桑原のいる研究所であるビルに通っていた。朝食を食べたあと、桑原が車で迎えに来るのだ。

「今日も研究所に行くけど、嫌だったら言ってね。俺は何されてるか知らないけど殺意誘発実験なんて聞いただけで不安になる名前だ。」

「別に対してひどいことは…。でも私怖がるだけで殺意が芽生えなくて。」

「君が責任を感じる必要はないよ。化け物に選ばれた被害者なんだから」

「はぃ……」


研究所


「じゃ、終わったら連絡して」

桑原は手を振って平井と別れた。


三日後


巨大な化け物のまわりに警備隊が集まっていた。

縁木は駆けつけてきた桑原と平井に話しかける。

「現在時刻は7時ちょうど…、化け物は約10分前に元の状態まで再生しましたが、未だ何も動きはありません」

桑原はあくびをする。

「…………。ありがとうございます。じゃあ、もうちょい様子見ですかね」

「はぁ………」

「今日寒いですね―。先週くらいまで暑かったのに」

「はい…温暖化ですかね。桑原さん家、もうコタツ出しました?」


その瞬間、化け物の腹部から長い棒状のようなものが伸び桑原と縁木の間を通る。

「うわっ」

桑原が声を発したと同時に、後ろで黙っていた平井も肩を跳ねさせた。

桑原は平井に話しかける。

「目撃証言とは違うが、化け物の出産の準備かもしれない。平井さん、戦う準備をしてくれ」

「はい、わかりました」

平井は唾を飲んだ。

数分後、化け物から伸びた棒状のものの先端あたりから、爆発音のようなものが響く。

「先端部分から小型の化け物の発射を確認!市街地に向かいました!」

その隊員からのメッセージが届く頃には平井、桑原は先端部分に向かって走っていた。

桑原は近くに停まっていた隊員の車の窓にノックする。

「車で追う。乗っけてって」

そう言いながら、桑原と平井は車に乗り込む。

「はい、わかりました」

隊員は車を走らせる。


桑原のもとにメッセージが届く。

「小型の化け物が確認された200メートル先で市民の被害が確認!小型は男性のすねあたりに噛みつきまた走り出しました!このままいけば5分後に湯尼駅に到着するので先回りしてください!」

桑原はため息をつく。

「もう被害が出たのか…。平井さん、車を湯尼駅のロータリーに停めてそこで君をおろす。相手は素早いから迅速に対応してくれ」

「わかりました。」

「それと湯尼駅には今たくさん人がいて時間的に全員の避難は難しい。できればそこも配慮して。被害を増やしたくない」

「はい…わかりました」


湯尼駅到着

小型化け物到着予測時間まであと約2分

桑原、運転手はロータリーに停めた車内で待機。平井はロータリーの入口で待機。


「………………」

平井はグッと拳を握りしめる。

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