詩海

かやまりょうた

第1話キャベツ畑の真ん中で

彼は詩人になりたいといった

この時代に詩人なりたいといったのだ

狂気ではなくて、正気の言葉を紡ぐ人に

たくさんの心に言葉を突き刺してやると

ぼくは彼と向かい合って

窓の外、空を見て聴いていた

季節は春、彼とぼくは一七歳

ほんの少しキャベツの花が香る風が窓から吹く

喧騒にあふれた昼休みの教室

若さにあふれ、未熟と愚かさと楽観と悲愴

彼から何かがはじまるのか

そんな大それた状況でもなし

こんな地方の校舎から

蟹やら、牡蠣があふれた泥海を埋め立てた上に立つ

なぜ詩人なんだ、どうして詩人なんだ

わけがわからないよ

でも、彼の目は輝いている

彼は言葉は力を持っていると

確かにそう、それは真実

その力を掴むことができるのなら

ぼくはフッと小さく息を吐くように笑った

何でもいいまだ何もはじまらなくてもいいんだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る