第8話 魔法使い①

 鼻血を垂らしながら気絶していた──女僧侶シスターカゴメが目を覚ますと、突然、それまで聞き役に徹していた魔法使いキューピーが自らの話を始めた。


「あたしもね、決戦前に言っておきたいことがあるの」


 嫌な前振りにカゴメは話を遮ろうと思ったが、その前にキューピーは言葉を続けてしまった。


「あたし、この戦いが終わったら──便利よろず屋コンビニエンスストアの傘立てに置いてある知らない人の傘を勝手に持ち帰るのをめようと思うの」


 カゴメはどん引きしながらも返事をした。


「戦いが終わらなくてもめてくださいませ。それは窃盗罪という犯罪行為なのですわ」



***



 魔法使いキューピーはさらに言葉を続けた。


「あたし、この戦いが終わったら──拾った財布から10000Yen貨幣を抜き取って、財布だけを置いて立ち去るのをめようと思うの」


 カゴメはどん引きしながらも返事をした。


「戦いが終わらなくてもめてくださいませ。それは拾得物横領罪という犯罪行為なのですわ」



***



 魔法使いキューピーはさらに言葉を続けた。


「あたし、この戦いが終わったら──イライラしたときに街路樹に除草剤を撒いて枯らすのをめようと思うの」


 カゴメはどん引きしながらも返事をした。


貴女あなたの場合、イライラが解消されないと近くの山とかを丸ごと焼き払いかねないので、除草剤を撒くくらいはオッケーですわ」



***



 魔法使いキューピーはさらに言葉を続けた。


「あたし、この戦いが終わったら──新婚の女友達に『その結婚指輪についているダイヤモンドは模造品イミテーションだよ』と嘘をいて気分を台無しにさせるのをめようと思うの」


 カゴメはどん引きしながらも返事をした。


「ダイヤモンドが模造品イミテーションかどうかに関わらず、夫婦の愛はきっと本物ジェニュインなのですわ」



***



 魔法使いキューピーはさらに言葉を続けた。


「あたし、この戦いが終わったら──友達から借りた本を勝手に売るのはめようと思うの」


 カゴメはどん引きしながら返事をした。


「どうりで貴女あなたに貸したと思っていた本が古本屋さんで見つかるはずですわ……」

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