第30話 To be, or not to be(生きるべきか死ぬべきか)
「では、屋敷への案内人はこの後よこしますので、こちらでしばしお待ちください」
そう言い残してアンジェロ・ジャッシュは、女奴隷に姿かたちを変えられたレンファウを、性欲まみれの野郎どもの部屋と引っ張って行った。
「助けていただいて、ありがとうございます!」
レンファウの姿の奴隷の女性が頭を下げる。
「その姿で言われると皮肉が効きすぎてらぁ。解除」
ランセがレンファウ姿の彼女に向かって指パッチンをすると、元の姿に戻った。先ほどの巨乳の女奴隷である。
「これを羽織るのだ」
シルバが上着を脱いで、女性に着せてやる。
「改めて、ありがとうございました!なんとお礼を言ったらいいか、」
そう感謝の言葉を述べる女性の身体に、ブランが何の迷いもなく触りにいく。
「きゃっ!!!」
「エロドワーフ!何しとんねん!」
「性の悦びとかマジでやめろ!」
ロッソとランセが猛批判をすると、黙れ、とブランが一喝した。
「ブランは医者だ。これで治った。心の傷も、少しは癒えるはずだ」
うまく女性と話せないブランは、セクシーな女体から視線を外しながら言った。
「うそ、痛みが消えた」
「彼のスキルなんです。彼に治せない怪我はない」
俺はにっこり微笑みかけた。そしてシルバの方へ振り向く。
「シルバさん。あなたのスキルなら、ここにいる人たちを解放するのも?」
「うむ。容易いぞ」
俺の意図を汲んだシルバは、『ゼロ秒』を駆使し、瞬く間に、100人あまりいる奴隷たち全ての鎖を断ち切った。
まぁもちろん、シルバの剣撃の威力は並ではなく、一時的に奴隷全員の手首足首からは大量の血が噴き出たんだけど。
一人ひとりの痛みは、ブランの固有スキル『聖人の左手』が、引き受け、20分ほどかけて、奴隷全員が、無事解放された。
そしてランセは、変身魔法の応用で、全員に服を用意した。さすがS級魔法使い。
やったー!ありがてえ!助かった!お母さーん!!!良かった!ドワーフのおじさんありがとう!ありがとうございます!感謝します!ありがとうございます!ありがとう!あなたたちが来てくれてよかった!
奴隷の扱いを受けていたあらゆる種族の人々が、俺たちに、心からの感謝の言葉を投げかけてくれている。
マリヤとアンジェロに復讐をしに来た、私怨まみれの俺にはもったいない言葉たちだった。
「さすがジュンちゃんや」
「俺は何もしてないよ。怪我を治したのはブランだし、鎖を斬ったのはシルバさん、服を用意したのはランセだよ」
「何言うてんねん!ねえちゃんはともかく、ブランとランセを仲間にして、ここに連れてきたのは、間違いなくジュンちゃんや。ジュンちゃんがおらんかったら、こいつらは、一生奴隷やったんやで?」
「ロッソの言う通りだぜジュン。おめえがいたから、こいつらは解放された。誇りに思っていいんだおめえは」
ロッソとランセの言葉に、俺はグッときた。
元々さえない社会人だった俺が。
何回も寝取られて女性不信に陥って死んだ柴田弘嗣が。
生まれ変わったのは、このためだったのかもしれないと思えた。
俺は奴隷として収容されていた人たちへ話しかける。
「最終的に何が起きるかはまだわからない。ただ、確実にワタヴェ商会は解体します。貴方達は自由です」
歓声があがる。ただ、その中の一人が手を挙げた。
「俺は帰るところがない。自由にしてもらえても、また捕まって奴隷になっちまうかも」
その言葉で奴隷たちがざわつく。確かに。どうやって生きていけばいいの。怖いよママ。奴隷として生きていくしかねえのかよ。
「大丈夫だ」
不安の声を、シルバの凛としたひと声がかき消した。
「東の果て、夢の国ウライアスには、奴隷解放ギルドのコミュニティがある。私が君たちを連れて行く」
いま一度歓声があがる。
奴隷だった彼等の今後も決まったところで、俺、ランセ、ロッソ、ブラン、シルバの5人は、小屋から一度出て、円を作った。
俺が指揮を執る、とランセが言って、ざっと計画の修正を含め、再確認をすることになった。
NEW! シルバをレンファウの姿に変身させる(当初はレンファウ本人の予定だったが、レンファウは拷問されているため)
・グチモームス城内に通された後、各自二手に分かれる。
・ジュン・シルバ・ブランチーム(マリヤ・アンジェロ捜索)
・ランセ・ロッソチーム(ワタヴェ商会の手がかり調査)
NEW! 解放した奴隷たちの安全を守るため、ランセの水分身をココに置いていく。(何かあればすぐに本体が感知する)
・アンジェロ殺害(確定路線)
・アンジェロ経由でワタヴェ商会会長の居場所を特定して殺害
・マリヤと対話+謝罪+贖罪させる。
「ちょお、待てや。最初の予定では、俺はジュンちゃんチームで、アンジェロの殺し担当やったはずやん、何サイレントで変えてんねん!」
「仕方ねえだろ。シルバは隠密には向いてねえ。ジュンと一緒に行かせた方がいい」
「こっちは家族を売り飛ばされた復讐があんじゃボケ!そこだけは譲らへん!」
確かにロッソは、『ワタヴェ商会』に、自分だけでなく、家族も売り飛ばされた過去があり、ロッソの為にも、ないがしろにするわけにはいかない。
「それじゃあアンジェロは殺さずに拘束してロッソの前に連れて行く」
「ジュンちゃん!嘘やないよな?」
「約束する」
「ならええわ」
「話を戻すぜ。今回の計画は、ジュンがマリヤと会い、けじめをつけさせたら終いだ」
「どういうことだ?」
今度は、シルバが口を挟んできた。
そこで俺ことジューン・ブライドがマリヤ・グチモームスの婚約者であり、彼女の不貞を暴きに来たのだと、一部の真実を伏せて話した。
「なるほど。婚約者がアンジェロに寝取られていたか」
「……はい」
シルバが鋭い目つきで俺に問いただす。
「殺すのか」
「……俺が殺すと言ったら、シルバさんはどうします?」
「世の中には死んだ方がいい人間もいる。マリヤ・グチモームスがそっち側の人間なのかどうか、私には判断がつかない」
「話聞いてたんか!?ジュンちゃんがいながら、あんなクズ野郎に股開いてるクソビッチやで!死んだほうがいいに決まっているやろ!」
「人間を一面で見てはいけない。それに、マリヤが反省し、更生の余地があるなら、殺すべきではないと思う」
「そうですよね。俺もそう思います」
「ジュンちゃん!」
「俺は無駄な殺しをしたくないんだ」
だからこそ。俺はマリヤと会わなければいけない。
救いようのないアバズレ女なのか。心から懺悔し、悔い改める誠実さを持ち合わせた女なのか。
結婚する気はさらさらないが、彼女が心から反省し、残りの余生を正しく生きると誓うなら、俺と二度と会うことのない世界で幸せに暮らせばいい。
ただ。これ以上の嘘は許さない。マリヤ。生きるも死ぬも、お前次第だ。
「でだジュン、一つ大きな問題がある」
「なにランサー?」
「逃走手段だ。俺等だけなら、たとえどんな結末になろうと、無事逃げ切れるだろうと、甘く見積もっていた。馬なりをかっぱらい、俺の魔法で操ればいいからな」
「うん」
「だがな、ここの奴隷たちを逃がすとなると、話は別だ。あんな大勢、どうやって全員無事に逃がす?」
確かに。シルバは簡単に連れて行くと言っていたが、彼女一人で全員無事に逃がせるわけがない。奴隷解放ギルドの仲間がいるなら別だが、彼女は単独行動をしている。援軍も期待できない。
「わしにまかせるんじゃ!」
え?
俺たちが、声の聞こえた、奴隷収容施設の小屋の方へ振り返ると、ピンク色の長い髪をした、活発そうな幼女が一人立っていた。
5~6歳くらいだろうか。目がくりくりしている。
「わしは、モモ!最強の
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