幻獣達の呟き -幻獣士の王-

瑠璃垣玲緒

幻獣士の王 第ニ章まで

最強のコッコの作り方

 ※このお話しは大部分が本編のネタバレです。



 我の名はルゼ

レナードという人族と仮契約を結んだ。

雛と一緒に引き取ってくれるというので付いて来た。

ついでに番いと、もう1ペアも一緒に。


 先住の牛達は親切だった。

魔獣の血が入っているらしいが、何となく言っていることが通じる気がする。

威嚇どころか歓待された。

ここは主人が1人で住んでいて薬師が本業らしく、最初に決めたルールさえ守っていれば、普段は自由に過ごせると教えてもらった。

我々は幻獣の幼体ために引き取られたらしいが、産まれ育ったところより待遇が良ければそれでいい。


 レナードというのは律儀なやつだが、幼体の親代わりに連れて来ると言ったが、来た奴がヤバかった!

敷地内に入って来る前に恐怖で雛らがパニックになり、我の元へ集まって来た。

仮の棲家ではなく牛達のところへ行くと、察知力が弱い牛達は一瞬だけビクッとしたものの、『またかぁ』と言って平然としていた。

なので、雛達や他の同族を牛舎の中に入るように指示した。

雛達と同族が牛舎の一区画で固まって震えている。

雛達が全員揃っているのを確認したので安堵して入ろうとしたが、何かに弾かれて入れない!


 何故だ!


 何度試しても弾かれる。

未知の生物の恐怖より、可愛い我が子の元に行けない苛立ちのが勝った。

不満気に我が子が見える位置でレナードが来るのを苛々しながら待った。


 レナードに不満をぶつけると、意外な答えが返って来た。

ここにいる牛達より強い動物や魔獣などは入れないと言う。

 はぁ!?

 明らかに10倍以上も大きい牛達より、

我のが強いとはどういうことだ?

全然納得が行かないんだが。


 ---


 以前いたところは成体になるまでは大切にされ、我は変異種というやつで弱かったらしいから、兄弟姉妹のほとんどとは別の場所で過ごした。

 他の変異種の雛達と一緒だったが、減ったり増えたりして、顔触れも変わっていた。

天候の穏やかな日中の数時間だけ、元気なやつだけが庭というところに出ることが出来た。

 庭というところは広くて、ぽかぽかして、良い匂いがした。

起き上がれない時は庭が恋しくて、明日こそは行きたいと願った。

3回目に元気になって庭に出た時には、一緒にいた兄妹は1羽も居なくなっていた。


 庭では雛達は土の中のミミズや野菜に付いた芋虫類をおやつに食べていた。

他の健康な雛達が食べていて美味しそうに見えた。

ただ他の健康な雛より弱くて小さかったルゼは、虫類を食べる競争にいつも負けていた。

 ある日他の雛が食べ損ねたと思った弱ったミミズを見つけた。

実はミミズだと思って食べたものは似た形状のアースワームだった。

別名:ミミズもどきと言い、だがルゼは今でも美味しいミミズだと思っている。

良く観察して見ると、他の雛達が捕まえて啄んだ後に、放置している時があるのを知った。

最初の頃弱かったルゼは、他のコッコが痛め付けたものしか捕まえられなかった。

他の雛が敬遠している理由など考えずに美味しいからと食べた。

 毎日のように1、2匹のミミズもどきを食べていたある日、ルゼは唐突に気付いた。

朝起きるのが辛くなくなったことに。

ミミズもどきを食べると元気になるようだと知ってからは、他の雛の行動を良く観察した。

 始めは他の雛が残すミミズもどきを素早く見つけるために。

その内に他の雛が食べているミミズを捕まえ方を。

自力で普通のミミズを捕まえた頃には、同じ時期に生まれた変異種の中で一番大きくなっていた。

更にミミズもどきをようやく自力で取れた日、何故他の雛が食べないのかを知った。

ミミズもどきや芋虫(もどき)類など虫系の魔虫や魔獣は、魔素が多くて健康体に取っては不味く感じたのだ。

 本能が魔素を有害な物と判断し、不味く感じることで身を守っていた。

変異種だったり、病気や怪我で弱っている個体は、逆に魔素を摂取することで足りないエネルギーを補充するために美味しく感じた。

 だんだん不調な日が少なくなるに従い、もどきの魔虫や魔獣を見分け、楽に採取出来るようになっていった。

他の健康的な雛達が呆れ返るほど嬉々として魔虫や魔物の小動物ミミズもどきを食べた結果、普通のコッコより強くなった。

成体になる頃には身体も健康なコッコ並みになっていた。


 成体になり場所を移された。

以前と違い庭に出る時以外は、狭い囲いの中に入れられた。

卵が産めるようになると、決まった時間に決まった場所に連れて行かれて、卵を産むように指示された。

半年経った頃に番いと出会い、可愛い雛達が産まれたが、気付くとベテラン勢の姿が見えなくなっていた。

 もうそろそろ温めが要らなくなる頃に雛達を集めに人間達がやって来た。

それを連日退けたら、数週間後に番いと雛達と共に冒険ギルドという場所の獣舎小屋に連れて来られた。

 養鶏場で手に追えなくなったためだが、ルゼ親子と、ルゼの助言で丈夫になり、ルゼの雛を守るために協力した個体群に冒険ギルドは頭を抱えた。

 ルゼの助言のおかげで、変異種以外の弱い個体がもどきを食べ元気になったが、そんなことを知らない飼い主は、言うことを聞かないコッコが増えて困るため手放したのだ。

 コッコの卵が欲しかったレナードに、ギルドの受付嬢が咄嗟の機転で購入を勧めなかったら、雛も回収出来ず、殺処分するにも多大な犠牲者が出てであろう。

 ルゼ親子と一緒に引き取られなかった他のコッコ達は、ルゼと離され普通のコッコ並みに扱いやすくなって、無事引き取られた。


 本人ルゼの自覚はないが、魔虫や魔物をコッコが簡単に何匹も捕えることは出来ない。

しかもミミズと同じのようにひょいひょい取るなんて出来る訳がない。

魔素をたっぷりと身体に取り込んだため、無意識のうちに身体強化の魔法を身に付けて使用していた。

他にも探索サーチや威圧も自然と取得していた。

そんな魔法を息を吸うように自然に出来るコッコは最強に決まっている。


 最強のコッコ『ルゼ』

 レナードがルゼと仮契約して、変異種を引き取ったおかげで、変異種の歴史が変わることになろうとは、運命の導きだったのだろうか。

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