第76話 誓いとチラシ

 教会暦805年9の月1日の晩のこと。


 その日は俺とルメイラと師匠の3人だけだったが、なんとなく屋上で夕食をとることに決めた。


「それにしても、まことに数奇すうきな運命に生きることにされたのじゃな。それもまた良しじゃろう。あるがままにあるが良い。神もそうおおせであらせられる。その姿の方が、貴女あなたらしいとこの屋敷の者はそう思うておる」


 師匠はそう言って、あとは黙って酒を飲み始めてしまった。


 ルメイラは黙って聞いていたが、師匠の言うことが終わると頭を下げてから俺に向き直った。

 俺の方は、鉄板てっぱんで『お好み焼き』を焼いているところなのだ。もうこれで食っていけそうな勢いだった。


「ケンチ、貴方あなたには礼も言っていなかった。このルメイラ・ナユディ・ンダラァは、このおん生涯しょうがいにおいて忘れないことをちかおう。

 実家のことで迷惑めいわくをかけるかもしれない。ここから出ていかねばならないかもしれぬ。だが必ず、そうなろうともおんを返しに戻るとそう約束する」


 何故なぜかこの時には、緑色のドレス姿だったルメイラは、俺に向かってそうげると深々ふかぶかと頭を下げてしまった。完全に貴公子きこうしムーブだ。


「俺ぁあんまし、そう言われんのぁ苦手にがてでしてね。でも、俺ぁ死ぬまでアンタの味方みかただ。おんなじことを言うようでげいえが、どこの国が相手だったって変える気はえ。マーちゃんがいねぇときゃ死ぬかもしれねぇけどな」


 イーリア様の時とかぶるのだが、俺としてはそんなことしか言えなかった。俺自身は何かスゴいことができるわけではないのだ。


「ケンチがそう言うのであれば、私もそれについてはお約束しよう。確かに何かありそうではあるのだ。だが、今までも何とかなってきた。ちょっと過激かげき手段しゅだんを使うわけになるかもしれんのだ」


 うちのトカゲ姉さんは相変あいかわらずの調子ちょうしだった。今のは肉声にくせいだ。


旦那だんなさま、申し訳ございませんがお話し中のところ失礼いたします。貴方あなた様は神にお会いになられても嫌味いやみから入りそうな御方おかたでございます。このハイノレも最後までお付き合いいたしますぞ」


 うちの執事しつじさんは、そう言って俺の右斜みぎななめ後ろから頭を下げてきた。鉄板てっぱんの後ろの方からだ。


「ケンチ、私は人の都合つごうは関係ないから、そこはどうにでも好きにしたら良いと思うの。私は大事な販売員はんばいいんさんにいなくなられるとこまるのよ」


 俺のわきからは、何故なぜかドラゴンのスーちゃんが、頭だけアイテムボックスから出してそう発言はつげんすると引っこんだ。


 さらには階下かいかから、ドヤドヤとハーちゃんことハーケンケイムさんたちが屋上までのぼってきた。


あるじよ、私たちは貴方あなたまもれと言う場所をまもろう。例え相手がなんであれだ。貴方あなたがいれば、そこは生きている目的のある設備せつびであると認識にんしきする」


 勝手にそれだけしゃべったハーちゃん達は、そのまま回れ右をして階下かいかに戻って行ってしまった。


「ケンチさん。私は、この世界に生きるという意味を見つけるまではお付き合いするよ。皆んなといればきっと見つかるってそう思うんだ」


 階下かいかから上がってきた連中の最後尾さいこうびで、俺にサムズアップしながら、そんな言葉を投げかけたのはテラさんことテラニートだった。そしてテラさんもすぐに消えてしまった。


 俺としては居心地いごこちの悪いままに、夜の屋上の食事の時間は静かに過ぎ去り進んだ。


 ちなみにこの後、寝る前の俺の部屋にやってきたルメイラは、お礼の利息りそくをここではらうとか言い出して、そのまましぶる俺と寝てしまった。


 るーえん先生とかテヅカ先生に相談したいです、と思った俺はもう引き返せないのだろうか。いや、えてしまいましたとも。ちくせう……。







 日は替わって教会暦805年9の月2日になった。

 今日はズットニテル月報げっぽう9の月号の発売日なのである。


「今回はりに余裕よゆうで間に合ったわ! というわけで、私も販売の手伝いをやろうと思うの」


 そう言うのはスーちゃんなのだが、今は人型のリモコンロボットであるスーラネオラ・キーテネイダ先生の姿でこちらに出てきていた。


「マーちゃん、今回も8000部で、やっぱり1部を銅貨2枚で売るわけだよな。これってほとんど紙の料金だぜ。スーちゃんの執筆しっぴつ料金とか、販売員はんばいいん手数料てすうりょうはらったりとか、印刷代いんさつだいもあったら完全に赤字あかじだと思うぜ」


 毎月の売上が銅貨16000枚で、銀貨で160枚になるということは、売上は320万円ということにしかならない。

 紙がようやく、必要なところにいきわたるかなぁという社会で、これは割と異常いじょうなことであって、どこかの耳目じもくを集めてしまうことにならないだろうか。


「ケンチ、それは今さらなのだ。それにこの街が比較的ひかくてき目立めだつといっても、そこまででもないように思う。国の間者かんじゃは今のところ来ていないようだな。では今回もいつものコースで行ってみるとしよう」


 そんなわけで、俺たちは人力車じんりきしゃに4000部のズットニテル月報げっぽうと、スーちゃんのロボットにルメイラまで乗せて、まずは内区ないく画商がしょうであるオストロラ・シーシオン氏の元に出かけることになった。


「スーラネオラ先生! ようこそおいでくださいました。月報げっぽうの今月号が出たのですな。今回は何となく記事が豪華ごうかだ。ケンチさん、君もマヅイヤでやらかしてくれたな」


 今回もこころよむかえてくれたシーシオン氏であるが、こちらが少し気になることも言ってくれた気がする。


 9の月号の記事は2つにした。


 俺とモッチンデスが生還せいかんした、マヅイヤ城のお宝についての記事が1つ目だ。こちらは先にこの街に帰っていたモッちんが、主役しゅやくと呼んでも良い立ち位置にいる誇張こちょうされた記事になっている。


 記事の2つ目は、マクノッチがやっていた密輸みつゆまりについてだ。こちらは南門を率いるシオタイオ隊長をヨイショする内容になっていた。


「マヅイヤのことがもう伝わってるんですかい? だが真実は常にひとつですぜ。ズットニテル月報げっぽうに書いてあることが本当のことなんでさぁ!」


 俺はこの記事について、公平こうへい目線めせんというものの大切たいせつさを力説りきせつした。目立たないが生きて帰った男こそがスゴいのだと。


「なるほど……シオタイオ隊長もそうだが、やはり先生はもれたる英雄えいゆうを書きたいというわけなのだな。とにかく今回も言い値で買おう。今日もあっという間に無くなりそうだな。

 ところで、そちらの女性を紹介してもらえないだろうか? 絵のモデルにでもなっていただきたい美女じゃないか!」


 シーシオン氏も、盲目もうもくというわけではないので、ルメイラの方に目がいったのは普通の反応だろうと思う。


「ルメイラ・ナユディともうします。こちらはあの絵を買った店なのね? 組合で働いておりますの。このたびは、是非ぜひともよろしくお願いいたします」


 今日は青いドレスに、丸いキノコのような帽子ぼうしかぶり、左手の中指と首もとに緑柱石エメラルドのアクセサリという、一部のスキもないルメイラがそう挨拶あいさつしてのけた。


 これは貴族ムーブというヤツである。にじみ出てしまうソレでもって、何でもうやむやにしてしまえる例のアレというヤツだ。


 テーブルマナーなども完璧な、ルメイラならではの技というところだろう。


 まず4000部については、今回もこちらの店頭てんとうで販売してもらえることになった。





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