転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる

お前の水夫

第1章 トカゲさんと探索

第1話 トカゲさんとの邂逅

※執筆に関して訓練中の身ですので、何かご指摘があればよろしくお願いいたします。


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 職業:探索者 

 名前:ケンチ 

 年齢:25歳


 以上がこの世界での俺だ。

 他人に自慢できることといえば、魔法がちょっと使えることと、殺伐さつばつとした業界で誰とも組まず10年もメシが食えていることだろうか。あとは探索者になった15の頃から日記を書いている。明日死ぬかもと思って生きていると続けられることがあるものだ。


 それから大きい声では言えないが前世の記憶を持っている。


 日本にいた頃の俺といえば、病気がちで身体が弱いくせに、毎日ただ何となく生きていた気がする。

 身体を鍛えたり、健康に良いことをやったり、何かの知識を蓄えたり、なにがしかの努力をすべきだったのだろうが、俺は何もしなかった。


 そんな自分が大嫌いだったが、そんな状態でも毎日タバコと酒はやって、ひたすら自分を甘やかした。それで結婚もせずに惰性だせいで事務職として働いてたら、ある日突然に心臓が止まって死んだ。38歳ぐらいの頃だったと思う。


 それで前説まえせつ無しでこっちの世界の農家の三男坊に生まれ変わったわけだ。

 こんなことになるのが分かっていたら、役に立つ知識でも技能でも覚えたのだが、面倒くさがりだった俺にはそんな知識も経験もなかった。

 小説かなにかで読んでる分には面白かったって記憶だけはある。

 実践じっせんする側になって、俺にはどうしようもないことだけが分かった。


 それでも家から追い出される人間だというのは乳児の頃から分かっていたので、田舎の村で隠居してた変な爺さんのところに毎日通って顔を売り、魔法を教えてもらったのは我ながらよくやったと思う。


 15歳になった俺は途中で食料がつきて死にそうになりながら、何とか街に出てきて探索者たんさくしゃになった。

 探索者というのは冒険者みたいなものだと思ってもらえたら良い。

 モンスター退治や薬草採取以外に、借金の取り立てや店の用心棒、どこぞの愛人へ『手切れ金』の受け渡し、冠婚葬祭かんこんそうさいの仕切りもやるんだけど、大抵たいていは近所の大森林にもぐっている。本当だ。


 今日の俺が昔のことを染々しみじみと思い出しているのには理由がある。俺の祈りがとうとう神様に聞き届けられたからだ。俺は新しい能力スキルをこの25の歳に授けられた。


「長かったぜ……アイテムボックス。これが手に入るまで25年……25年だ。ハハハハハ、これで明日から俺も勝ち組だぜぇぇぇ!!」


 この世界はそこそこ危険が多い。つまりは生物が生きていく環境圧力が高い。そのままだと人間はとっくの昔に絶滅していただろう。

 だからだと思うが、この世界の神様たちは人間に能力スキルを授けてくれる。

 魔法だって与えられる能力スキルの一つだ。俺は隠居の爺さんに最初に教えられた直後にさずかることができた。

 ただし祈らなければならない。祈った上で神々に認められるような生活を送らなければならない。それに願った能力スキルが与えられるとも限らない。


 毎日、朝晩の2回、せまい探索者用アパートの奥にしつらえたオリジナル祭壇さいだんに向かって俺は祈り続けた。

 もちろん携帯用の祭壇さいだんだって持っていて、探索中も祈りを欠かさなかった。

 ようやくだ。ようやく俺の異世界金持ちライフがスタートするわけなのである。


 


 

 そういうわけで、俺は能力スキルを試してみることにした。

 

 収納するのに何か適当な物が必要だ。

 俺は部屋の中をグルッと見回して、天井に吊るしてある洗濯紐せんたくひもにぶら下がっていたパンツをつかんだ。


「よっしゃ。こいつが入れば取りあえず使える」


 自分でもよく解らない興奮と共に、俺は近くに現れたボンヤリとした収納口に向かって、パンツを持った手を突っ込んだ。


 興奮していて足元がおろそかになっていたのだと思う。俺はそのまま、足元に転がっていたバーベルつまずいて、身体ごと収納口にもぐり込んでしまった。


「あおぉぉぉ、やべぇ。俺、戻れんのか?」


 あわてて立ち上がったところで知らない景色だ。

 生憎あいにくとこの世界では自分のアイテムボックスに生身で入った人のことは聞いたことがなかった。


 あらためて周囲を見回してみると、踏み固められた土と芝生しばふが植わった部分が半々ぐらいだった。

 左右を見れば遠くの方で大きくカーブしてるし、正面の一番奥にはガラスみたいな光沢の壁がある。

 上をみると岩で造られたような天井でおそろしく高い。

 後ろには俺の入ってきた収納口らしきものがあるが、その向こうには吹き抜けの様な巨大な穴があって、さらに穴の向こう側の景色が見えた。空気が異様にんでいるのだろう。

 それからもう一つ、収納口の真後まうしろにはトカゲさんが浮いていた。


 青い体色のトカゲさんはその丸い瞳でジッと俺のことを見ていた。

 体長(頭から胴体の長さ)は80センチメートルぐらいだろう。尻尾もそれくらいはあった。

 余談だが不思議なことに、こちらの世界では昔から地球のメートル法が採用されている。誰かが何かしたんだろう。


 トカゲさんに話を戻そう。

 体型は全体的に丸っこくてムチムチしている。

 頭からはくきが伸びていて、先っちょに葉っぱが8枚ほどついていた。

 もしも背中から『つぼみ』が生えていたら危なかったな、と何となく俺はそう思った。


 とにかくだ、俺のカンは危険を伝えて来なかった。これでも10年の間は俺を助けてくれた探索者のカンだ。今回もそれを信じて話しかけてみることにした。

 

「こんちは。その……ここに入り込んじまったのは事故なんだ」


 それを聞いていたであろうトカゲさんだが、首を左右にかしげながら動かない。

 田舎出身だからなまりはあるが、これでも大陸公用語は達者なはずだ。

 それでも相手の反応を見るに言葉が通じていない気がする。

 隣の大陸に行くと、これも通じないと聞いたことはあるが……。


 俺が他に知ってる言語といえば……日本語ぐらいしかない。ダメ元で言ってみるか。


「はじめまして。勝手に入ったみたいで申し訳ない。俺はケンチ。ケンチってのは名前だ。ここに来てしまったのは事故みたいなものなんだ」


 俺は日本語で、挨拶と言い訳を同時に伝えるというミッションに挑んでみた。緊張してる所為か妙に半端な言葉づかいだ。


 トカゲさんの変化は劇的だった。丸い目がウルウルしだして、頭も身体もブレるように震えてから5秒後、突然に日本語で話し始めた。


「おお、日本語が通じるのか! 助かった。外の世界とつながるのは10まん年ぶりでな。ひょっとしてまた地球ってことはないよな……転生者の人でよいのかな?」


 えらい数字が出てきたのは取りあえず後にしよう。話しは出来るらしいし、いきなり襲いかかってくることも無いようだ。

 ちなみにトカゲさんの声はセクシーな感じのアルトボイスだった。


 問題があるとしたら転生者を知っているってところだろう。




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※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。

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