第35話 アルナンド決断する!
アルナンドは今朝目覚めて驚いた。
まず、すがすがしいほど気分がすっきりしていた。
大体魔力過多になると熱が出て身体がだるく頭痛や吐き気がして翌朝はいつもすこぶる気分が悪いものだった。
だが、今朝は何ともすっきりとした気分で、こう…つきものが落ちたような感じがあった。
次に驚いたのは自分がすっ裸だった事だった。
(俺はいつ裸になったんだ?)
昨日はフランソワのワンピースドレスを氷漬けにして、周りの女性たちが恐怖と驚きでざわつき、俺から足早に離れて行った。
男達も驚愕の表情を浮かべじろじろ俺を睨んでいた。
アルナンドも人にこんな事をしたことはなかったのであせっていた。
確かに最近はプリムローズの事でイライラしたりくよくよしたりと感情が浮き沈みしていた。
まさか魔力が暴走するとは思ってもいなかった。
(だからこんなパーティーなんか参加したくなかったんだ)そんな事を思いながら…
レゴマールが慌ててみんなに話をしていた。
「アルナンドは竜帝になるだけあって竜人に中でも魔力が以上に強くて時々こんな事もあるけど、決して人に危害を加えるようなことはないから安心してくれ!みんな大丈夫だ」
ブレディが言った。
「アルナンド少し部屋で休んだ方がいいかもな」
そう言われて部屋に戻った途端急に具合が悪くなった。なので服も着替えずにシャツとトラウザーズのままベッドに転がり込んだ。
(ああ…魔力過多のせいでまた魔力暴走を起こしたのか…)
アルナンドは今までに何度もこんな事があった。
それほどまでにアルナンドの魔力は多く強い。だから竜帝にもなれたのだが、誰もここまでの魔力を望んではいないと思う。
それと言うのも母親が人間だったせいと言う説もある。
竜人と違う遺伝子が混じると身体のバランスがうまく取れず魔力が大きいほど暴走するらしい。
だが、それをうまく使いこなせてこそ竜帝だろう。
俺もまだまだだな…
アルナンドはふっと笑う。
だが今はどうにも身体が重だるく仕方なくベッドで横になっているとざわざわみんなが帰ってくる気配を感じた。
するとダイルが部屋に入って来た。手には冷たい水の入った桶と布を持っている。
「アルナンド気分はどうです?」
「ああ。ダイル。またいつもの奴らしい…はぁぁぁ」
アルナンドは大きなため息をつく。
「そうだと思いましたから…」
ダイルは手慣れた様子でアルナンドの服を着替えさせると汗をぬぐい額に冷たい布を置いた。
「一晩ゆっくり眠れば少しは落ち着くでしょう。プリムローズが夕食の支度をしてくれてをバーベキューと言うものを食べましたのでそれを持って来ましょう。トウモロコシやソーセージ食べますよね?」
アルナンドの喉元がごくりと動く。
「プリムローズが?ああ、食べる」
ダイルがクスッと笑った。
「アルナンドは彼女が好きなんですね。プリムローズの言う事なら何でも聞いて優しいんですから…」
「違っ!ダイルおかしなことを言うんじゃない!俺は結婚相談所がうまく行くようにと思って…」
「ええ、もちろんわかっていますよ。プリムローズみたいに一生懸命だと誰だって手伝おうって思いますから。私だってプリムローズのためなら何でもやりたくなりますよ」
アルナンドの瞳が呆れたようにダイルを見る。(おい、ダイル。お前までもが…)心の中にざわざわと波風が立つ。
(ふん、ばかばかしい。だ、誰がプリムローズの事など…)
そうやって夕食をダイルに持って来てもらいソーセージやトウモロコシを口に運んだ。
(あんなに食欲がなかったのにプリムローズが用意したと聞いただけで食べれるなんておかしいだろう)
いつもならほとんど食べ物も喉を通らないと言うのに…ったく。
たらふくと言うわけにはいかなかったがある程度食べる事が出来た。
しかし頭痛は酷く起きていられずまた横になった。
ダイルは下がらせてそのうちひとりでうとうと眠りについたらしい。
そして俺はまた夢を見ていた。
また、プリムローズと生贄の儀式をする夢だった。
俺の脳内はどうやってもプリムローズが番だと言うことを忘れることは出来ないらしい。
(何度もそんな事は考えるなと思った。
でも、プリムローズに触れるたびに。
怒られながらアイスキャンディーを作ったり。
一緒に花火をしたり。
彼女にキスされたり彼女の作ったクッキーを食べたり。
婚活パーティーで一緒に楽しい時間を過ごしたり。
そんな事ばかりあると忘れようとしたって出来るわけがないだろう?
そんな俺はよりによって夢の中でまたプリムローズを自分のものにしようと生贄の儀式と言って今回は彼女の全てを奪う夢を見てしまった。
夢の中でプリムローズは美しい裸体を晒して俺の中で何度も…
ああ…プリムローズに触れた感触がまだこの手に残っている気がするほど手の平が熱い。
あれがほんとに夢だったのかと疑いたくなるほど鮮明にまぶたの裏にはあの可愛く声を上げた姿が残っている。
俺はきっとおかしくなったんだ。)
それでもそんな夢の事など忘れてしまおうと、脳内をすっきりした気分の部分だけを切り取るようにして起き上がった。
そして俺は無性に腹が減っている事に気づいた。
それにみんなも心配しているだろうし、そう思い直してダイニングに行ったんだ。
いつものように『おはよう』と声をかけた。
プリムローズは少し疲れた顔をしていた。
きっと昨日の婚活パーティーで疲れたんだろうと思った。
でも、いざプリムローズと顔を合わせたら気まずくて、思わず庭で食べるなどと…
( はぁぁぁぁぁぁぁ、俺はどうすればいい?
プリムローズはどうやらカイトに気があるみたいだし、ましてや竜帝である俺が番を求めてどうする?
俺が言い出したんだろう。番なんかにこだわらず結婚して子供を作るべきだって)
などと思っていた矢先。プリムローズが部屋にやって来た。
「昨日の事だけど」と言われて心臓に剣でも突き立てられたようにズクンと痛んだ。
(驚いた。でも要するに昨日暴走してフランソワのドレスを凍らせたことに決まってるだろう。
ああ~もう、驚かせるな!いや、プリムローズが俺の夢の事を知っているはずもないんだ。俺が動揺しすぎなだけで…
でも、あの彼女は優しいから俺を責めないでくれた。なんて優しいんだ。
とにかく何とか誤魔化せて良かったが、こうなったら一刻も早くプリムローズの事はきれいすっぱりと諦めるしかないだろう。
俺は今回の婚活パーティーで脈のありそうだった女性と付き合うことにするべきだな。
そして相手がオッケーしてくれれば結婚する。
そうと決まれば急がないと…)
アルナンドはやるせない気持ちに何とか折り合いをつけると重い腰をやっと上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます