第3話 あの…ここほんとに職業紹介所なんですか?


 プリムローズは倒れそうになりながらも気をしっかり持たなくてはと一度深呼吸してしっかり足に力を入れた。


 そして及び腰になりながら恐る恐ると中を覗いた。


 ぱっと華やかな顔立ちの男が声を掛けて近づいてきた。


 「いらっしゃいお嬢さん。さあ、さあ、こちらに座って下さい。さて、そうだな。まずはお茶でもいかがです?」


 そう言って椅子を引いて座るように勧められる。


 「はぁ…」


 プリムローズは勧められるまま椅子に座ってそのイケメンを見る。



 イケメンはさっとプリムローズの横にしゃがみこんだ。


 (やっぱりここはホストクラブじゃない?まさかわたし看板見間違えたとか…いや、そんなはずはない。しかしこの世界にもこんな所があったなんて信じられない。閉じ込められていた間に王都はすごい発展を遂げたのだろうか?)


 きっとプリムローズは唖然とした顔で彼を見ているだろう。



 「申し遅れました。僕はブレディって言うんだ。よろしくお嬢さん。あっ、お嬢さんお名前は?僕、君みたいなタイプ好みなんだけど、どう?良かったら今晩食事でも…」


 ブレディは銀色の髪で紺碧色の瞳の甘いマスクをしている。


 そのブレディが破壊力のある笑顔を振りまいてプリムローズを見つめた。


 (いや、まさか私を誘ってるの?そんな事があるはずがないじゃない!それにこういう男は要注意なのよね)


 いや…危なかった。もし、プリムローズが吉田あかねの記憶を持ち合わせていなかったらすぐにコロッと落ちたかもしれない。


 だが、吉田あかね29歳。大学時代には付き合っていた男に浮気されて捨てられるという手ひどい目に遭った経験もあり、ブラックな会社で馬車馬のようにこき使われてきた現実的なお姉さんの目は誤魔化せるはずもない。



 (いるのよね、こんなチャラい男。それに何?あの自信。くぅっ!誰がこんな男に…)


 プリムローズの瞳が皿のような目になり冷めた視線に変わって行く。


 「いえ、私あなたのような男、興味ないので!」


 「えっ?」


 ブレディは一瞬驚いた顔をした。


 (ふん。まさか、断られるなんてとでも思ってたみたいね。おあいにく様)


 プリムローズはさらにプイと顔を背けた。


 「いや…参ったな…」


 ブレディはしゅんとなって立ち上がる、だが、すぐに気を取り直したかのように背筋をしゅっと伸ばして颯爽と立ち去る。


 すれ違いに今度はブレディより少し若いと思われる男がやって来た。


 (髪は金色、あっ、もしかして兄弟?いや、瞳は翡翠のような美しい翠色をしているしそれに顔立ちも少し違うから…それにこっちはさらに可愛い感じかな)


 などと脳内で男を選別でもするかように採点する。


 「は~い、お姉さま。僕はピック。今日は少し暑いのでお茶より果実水のほうがいいんじゃないかと思って?さあ、どうぞ」


 (なんだ?この男。気持ち悪っ、ひよっこならいざ知らずこちとら29年も生きてきた前世があるんだ。甘ちゃんに用はないよ!)


 プリムローズの息遣いは荒くなり思わずひひぃ~んといななくたくなる。


 (まあ、せっかくだし、喉乾いてるし)


 そこはシビアに飲み物を頂く事に。


 「まあ、ありがとう。いただきます。ごくり。おいし~いですわ」


 「ほんと?良かった。僕、お姉さんみたいに頼りに慣れそうなタイプ好きなんだ。どう良かったら今度一緒にデートしない?」


 (はっ?ここはやっぱりホストクラブか?いえいえ、違います。ここは職業紹介所だったはず)


 「あはっ、悪いけどお子ちゃま好みじゃないんで。あの……ここってほんとに仕事紹介していただく所なんです?」


 「も、もちろんです。ここは仕事を紹介するところですよ…アハハ、もう嫌だな。すぐに担当呼んで来るね」


 お子ちゃまはたじたじになって走って逃げた。



 しばらくしてまた男が席にやってきた。今度は何やらファイルのようなものを抱えている。


 「どうも、先ほどはわが社のものが失礼した。喉が潤ったところで早速仕事の話を」


 今度は燃える様な赤い髪に緋色の瞳を持った男。何ともド派手。


 まるで前髪を切れっ切れっに振り上げていた前世のお方のようなシャープな様子に思わずボー然となる。


 「あっ、そんなに見つめて…もしかして俺の事好みとか?」


 「はっ?」


 (ここは一体…何と言うか、もしかしてここの人って女に飢えてるとか?いや、こんなイケメンぞろいがそんなはずないって!)


 「コホン。何でもない。気にしないでくれ。まずは名前を教えてくれるか?」


 「はぁ?あの、ここって間違いなく仕事紹介してもらえるんですよね?もし違うなら私今のうちに帰りたいんですけど…」


 「何を!もちろんうちは完璧な仕事を紹介する。心配いらない。だた従業員が少々結婚願望が強いだけだ」


 「はい?ここって婚活目的の人ばかりいるとか言うんじゃないですよね?」


 思わず声が漏れ出る。


 「こんかつ?とは何だ?」


 「あっ、それは…結婚したい人がお相手を探すためにいろいろな相手と話をしたり付き合ったりするって言えばわかります?それを略してこんかつと…オホホホ」


 もちろんこの世界に婚活などと言う発想はない。


 貴族同士であれば相手は親が決めると相場は決まっているし、平民だって親が決めた人と結婚する人は多い。中には恋愛結婚の人もいるけど結婚するために何かをするなどと言う発想はない。出会って好きになってと言う展開が一番多いだろう。わざわざそんな場を設けて出会う機会を作るなんてありえない。


 「そうなのか。おっ、なんかいいな。こんかつ!こんかつ!こんかつ…おい、その話詳しく聞かせてくれないか?あっ、俺はレゴマールだ。よろしく。君名前は?」


 (はい?ここは仕事を紹介してくれるところなんですよね?)


 プリムローズは頭がおかしくなりそうになる。




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