第63話 遂にすみれ先生に押し切られ・・・

「ふふ、拓雄~~。この前のテストは頑張ったじゃない」


「っ!」


 テストが返却された日の放課後、廊下を歩いていた拓雄にすみれがニヤつきながら、声をかける。


「あの、先生……あのテストは……」


「ん? 何か質問でもあるの?」


「はい。えっと……」


「わかったわ。じゃあ、付いて来なさい」


 テストのことで聞きたい事があると察したすみれは、拓雄と二人きりになるために、指導室に連れて行く。




「んで、質問って何?」


「その……テストの問題なんですけど……勉強会で出た問題がそのまんま出ていたのは……」


「ああ、ここが出るわよって言った所を出したんだけど、何か?」


 テストの答案用紙を恐る恐る差し出し、そう質問すると、すみれは何食わぬ顔をして答える。


「勉強会で出した問題を出しちゃいけない訳? 拓雄が、ちゃんと勉強して覚えていたから、正解出来たんでしょう。なら、後ろめたく思う必要はないわ」


「で、でも……」


「でも、何?」


 すみれが拓雄を見下ろしながら、言うが、やはり納得いかない顔をしており、目を泳がせていた。


 これでは、勉強会に参加しなかった生徒達と比較して明らかに不公平であり、バレたら、確実にすみれが処分される事案であったが、彼女は全く悪びれる様子も見せず、


「何が言いたいのかわからないけど、拓雄が黙っていれば済む話よ。まさか、先生をクビに追い込むために、チクるなんてしないわよねえ?」


「そ、そんなことは……」


「なら、問題なしと。ふふ、ちゃんと答えたのは偉いわよ。もし、あんたが変な正義感を出して、答案を白紙で出していたら、容赦なく赤点にして、落第させていた所だったわ。先生の好意、ちゃんと受け取ったって事で良いわよね?」


「…………」


 拓雄はすみれの言葉を聞いて、黙って俯く。


 白紙で出す事も考えたが、本番のテストでそこまでする勇気はなく、結局、教えられた通りの解答をしてしまったが、不正行為をしてしまったのでないかと言う後ろめたさを払拭する事は出来ずにいた。


「ああ、八十点超えたら、ご褒美を上げるって話だったわね。先生のおっぱい、揉んでみるー?」


「はうう……」


と言って、すみれは拓雄の手を掴み、自身の胸に押し付けて、また強引に揉ませる。


こんな事にも慣れてしまったが、拓雄は顔を真っ赤にして、俯き、早くここから逃げ出した気持ちでいっぱいになってしまっていた。


「まだ、今回のテストに納得いかない? だったら、次からは止めてあげるわよ。でも、条件があるわ」


「じょ、条件って……」


「先生と付き合いなさい。そしたら、今回みたいな特別扱いは止めてあげるわ」


「ええっ!?」


 胸を揉ませながら、すみれがとんでもない事を提案してきたので、拓雄も声を張り上げる。


「何よ、良いでしょう? てか、前から言ってるのに、あんたが返事しないのが悪いんじゃない。ほら、早く返事しなさい」


「う……で、でも……」


「でもじゃない。もしかして、あの二人に知られるのが嫌なのかしら? じゃあ、内緒で付き合いましょう。それで良いわよね?」


「そ、そういう問題じゃ……んっ!」


「んっ、んくううっ!」


 ユリアや彩子に知られたくないのは事実だったので、拓雄が口ごもると、それを許さんとばかりに、強引に口付けを交わす。


「んっ、ちゅ……はあっ! どうなのよ、付き合うの嫌なの? でないと、今度は本当に赤点取らすわよ」


「ううう……わ、わかりました……」


「っ! そ、そう……じゃあ、よろしくね」


 泣きそうになりながら、拓雄が思わず頷くと、すみれもパアっと明るい笑顔を浮かべて、彼に抱きつく。


 オッケーしてくれるとは思わなかったのか、嬉しくて、すみれも心を躍らせていたのであった。


「じゃあ、今度の日曜、暇よね? 先生とデートしましょう。もちろん、ユリア先生たちにも内緒で……いや、バレそうだけど、その時はその時か」


「はい……」


 まさか、こんな展開になるとは思わず、拓雄も泣きそうになりながらも、解放され、




 日曜日――


「あ、来たわね。こっちよ」


 すみれとの待ち合わせ場所である、隣町の駅に拓雄が着くと、帽子を被ったすみれが手を振って、拓雄を招く。


「あんたも、帽子被ってきたんだ」


「はい」


念の為、拓雄も帽子を被り、バレないように気を遣っていたのだが、そんな気遣いもすみれは嬉しく、


「良い子ね。ま、デートしているのがバレたら、流石に処分は免れないし。んじゃ、乗って」


「はい。あの今日は……」


「ふふん、まあお姉さんに任せなさいって」


「はあ……」


 すみれに促されて、彼女の車に乗り込み、付き合ってから初めてのデートが始まる。


 拓雄もすみれと出かけるのは初めてではないが、強引にとは言え、初めての彼女とのデートに期待と不安でいっぱいになってしまい、




「んーーー、ここは良いわねえ。ほら、あんたも早く来なさい」


「は、はい」


 車で一時間近く走り、二人が向かった先は、スパリゾートで二人もレンタルの水着を着て、温水プールに入っていく。


 かなり高そうであったが、全てすみれが費用を持っており、何だか悪い気分がしながら、彼女とプールに入っていった。


「えいっ!」


「うわっ!」


 プールに入るや、すみれが拓雄に思いっきり水を引っ掛ける。


「何よ、やり返さないの?」


「で、でも……先生ですし……」


「今は彼氏と彼女の関係でしょう。先生とか言わないの。てか、先生禁止ね。私のことは呼び捨てで良いわ」


「え? 流石にそれは……」


「良いじゃない。じゃあ、せめてすみれさんって呼びなさい。ほら、早く」


「す……すみれさん……」


「〜〜……! ま、まあ合格で良いわ」


 恥ずかしながらも、すみれを下の名前で拓雄がさん付けで呼ぶと、すみれも頬を赤らめて、視線を逸らす。


 そんな初々しい彼女の反応が可愛らしかったのか、拓雄も思わず胸が高鳴ってしまい、すみれをかなり意識するようになってしまっていた。




「ぷはあっ! やっぱり、泳ぐのは楽しいわねえ。拓雄も結構、泳ぐの上手いじゃない」


 一泳ぎした後、すみれも満足そうな顔をして、プールから上がり、拓雄と腕をがっしり組む。


 腕にすみれの胸が押し付けられ、モデル顔負けのすみれのプロポーションを目の当たりにし、拓雄も彼女を意識し過ぎて、まともに顔を見れない程になっていた。


「くす、私と一緒で楽しい?」


「は、はい」


「なら、よかった。今回はちょっと強引だったし、ほんの少しだけ悪いとは思っているけど、楽しんでいるなら、脈ありってことよね?」


 と、頬を赤らめながら、少女のような笑顔で、すみれがそう言い、拓雄も彼女の可愛らしいしぐさを見て、更にドキっと胸が高鳴る。


「くす、可愛いわね、本当。そういう所も好きよ。ちゅっ♡」


「――!」


「あん、もう。ほら、次、行くわよ」


 すみれは周囲を確認した後、さり気なく彼の頬にキスをし、拓雄の手を引いていく。


 半ば強引にとは言え、初めての彼女となってしまったすみれとのデートはまだ続いていったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る