君が好きなのは姉御肌のセクハラ女教師?おっとり美人のだだ甘女教師?それともクールなストーカー女教師?

@beru1898

第1話 先生たちとのいつもの朝

「おはようございまーす、先生」


「はい、おはよう」


 平日の朝、この学園で教師をしている光田すみれが女子生徒達と挨拶を交わしながら、校内に入り、職員室へと向かう。


「あ……おはよう、拓雄君」


「っ! おはようございます」


「む……」


 すみれが廊下を歩いてる最中、彼女が担任しているクラスの男子生徒に挨拶をし、生徒が挨拶を返すが、その声が小さかった事が気に入らなかったのか、すみれがムッとした顔をして、彼の前に駆け寄り、


「ちょっと、拓雄君! 何、今の挨拶は? もっと大きな声で挨拶しなさいといつも言ってるでしょう?」


「お、おはようございます」


 オドオドしていた小柄な男子生徒を見下ろしながら、すみれがそう注意すると、生徒も深くお辞儀して改めて大きな声で挨拶をする。




 私立谷村学園――元女子高で、現在も女子生徒の割合が多いこの学園の高等部一年の黒田拓雄には毎日、頭を悩ませている事があり、目の前に仁王立ちしているすみれもその原因の一つであった。




「もう、ちゃんとお腹から声を出して挨拶しなさい! 全く……」


「はうう……」


 すみれが彼のお腹をパンパンと叩きながら言うが、澄夫は彼女の注意よりも、目の前にすみれの大きな胸が密着しそうな位近づいてるのを見て、真っ赤にしてしまい、呻く。


 栗色のセミロングの髪と、スーツをビシっと着こなした教師とは思えない程のスタイルで、快活な美人と評判のすみれに体をあちこち触られるが、反抗する勇気もなく、ただされるがまま、すみれの小言が終わるのを待つばかりであった。


「くす、すみれ先生、おはようございます。拓雄君もおはよう」


「真中先生。おはようございます」


 すみれが説教している間に、学園の美術教師である真中彩子が声をかけ、二人に笑顔で挨拶する。


「またお説教してるの、すみれ先生?」


「挨拶の声が小さかったので……」


「そう。でも、あんまりガミガミ言うと、萎縮して逆に大きな声出せなくなるわよ。今度は気をつけようね、拓雄君」


「は、はい」


 と、すみれを宥めながら、拓雄の頭を撫でる彩子。


 ふわっとカールのかかった髪をサイドに結い、おっとりとした瞳をし、ベージュ色のブラウスとロングスカートと言うお淑やかな服装に身を包み、母性溢れる穏和な雰囲気を醸し出した美人の彼女に頭を撫でられ、また顔を真っ赤にして頷く。


 すみれと同期の彩子は彼の美術の授業を担当しており、拓雄の事をやたらと気にかけ、何かある度に話しかけていたのであったが、女性に免疫のない拓雄は恥ずかしくて、中々、彩子にも気を許せずにいたのであった。


「もう、真中先生、あんまり生徒を甘やかしちゃ駄目ですよ」


「別に甘やかしてないですよ。拓雄君がちょっと可哀想だから、慰めていただけです。それより、あの話、考えてくれた?」


「え? えっと……」


 彩子が頭から手を離し、そう切り出すと、拓雄も少し困った顔をして言葉を詰まらせる。


「美術部に入ってくれないかな? 部員もあまり多くないし、拓雄君、絵が上手だから、入ってくれると先生、嬉しいな」


「その……」


 穏やかな笑みで、彩子が拓雄を美術部に勧誘するが、拓雄も申し訳なさそうな顔をして首を横に振る。


 最近、会う度に彩子に美術部に勧誘されており、断ってもまだ拓雄には絵の才能があると柔らかい物腰ながらも執拗に誘ってきているので、彼もうんざりしていた。


「そう……先生、拓雄君と一緒に絵を描きたいんだけどなあ……取り敢えず、名前だけでも良いから入部してくれないかな?」


 拓雄の右手を両手でがっしりと握り、更に迫っていく彩子であったが、それを見てムッとしたすみれが、


「真中先生、無理強いは駄目ですよ」


「むう……すみれ先生も、彼を剣道部に誘ってたじゃない」


「あれは最初の頃だけです。って言いたいけど、今からでも入りたいって言うなら、歓迎するわよ。ウチも部員少なくて、男子は特にギリギリなのよね」


「はうう……」


 止めに入ったすみれからも、彼女が顧問をしている剣道部に誘われてしまい、更に困惑する拓雄。


 若い女性教諭とは言え、大人二人がかりで迫られると、気の弱い彼は気圧されてしまい、どう答えて良いかわからずにいた。


「何を騒いでるのですか」


「あ、ユリア先生。おはようございます」


「おはようございます。二人とも廊下で騒がないでください。他の生徒達も見てますよ」


「はーい」


 二人に勧誘されている間に、英語教師の高村ユリアが三人に声をかけ、ようやくすみれと彩子が拓雄から離れる。


 美しい長いブロンドの髪と、凛とした澄んだ蒼い瞳、妖精の様に白く美しい肌と、スマートな体型をし、スーツとタイトスカートを隙もなく着込んでいたユリアは、学園始まった以来の美人教師と評判で、男女問わず、生徒や教職員達の羨望の的となっている程の美貌を誇っていた。


 だが、そんな彼女にも年齢が近いすみれも彩子も気さくに接しており、彼女の美しさに内心は嫉妬しながらも、校内ではよく三人で仲良くしていた。


「全く……もう行きますよ。職員会議始まりますから」


「ええ。じゃあ、また教室で」


「バイバーイ。今日、美術の時間あるから、またそこでね」


 ユリアに促されて、彩子とすみれも拓雄に手を振って職員室へ向かう。


 二人から解放されて、一先ずホッとした拓雄であったが、


「挨拶くらいちゃんとしなさい」


「――! は、はい……おはようございます」


「うん、おはよう。それじゃ」


 冷たく鋭い声でユリアに言われて、慌てて拓雄も挨拶をし、ユリアも表情を変えずに、通り過ぎて職員室へと行く。


 ピンとした姿勢で去っていくユリアを見て、拓雄も溜息を付きながら教室へと向かう。


これが彼のいつもの朝であった。

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