五話 許さない

「さて、何か弁明は?」


「どういうことよ、莉乃りの…」


 スマホを構えて堂々と立つ俺と、信じられないものを見る目で莉乃を睨む女。


「え…えっとそれは…」


「…アナタ、私たちを騙したの?」


 まさかといった様子でしどろもどろになる莉乃と、問い詰める女。確かにコイツの声はあの録音から流れてこなかったな。


「ま、今からHRだしこの話は後にしようや、じっくり聞かせてもらうからな…皆 の 前 で 」


 俺はそう言って自分の席に戻った。




 一限の授業を終えて休み時間になり、莉乃が俺の元に歩いてくる。


「えっと…ハル君?…」


「あー?なぁんだよ、もしかして改めて話に来たってのか?」


「うぅ…その…」


 あんな事を暴露されたんだ、一体どういう御託を並べるのか気になるところ。


「あれは違うの…その場のノリで言っただけで…」


「あんなに楽しそうに?DV受けたにしてはずいぶんと元気そうな声だったじゃないか」


 俺がそういうとビクッと肩を跳ねさせた。


「そのね?あれはそういう演技で…えっと…」


「あれが演技か、すごい上手なんだな。じゃあ今のそれが演技じゃないって保証がどこにある。落ち込んでる演技なんじゃないのか?健気な彼女を演じてるようにしか見えないぞ」


「違うの!ハル君が好きなのは本当!あの人とはただ… 」


「ヤって金貰うだけの関係か」


 俺がそう言うとコイツは言葉に詰まる。


「……そうなの、ハル君と一緒に遊びたくて、でお母さんがバイトはダメっていうから仕方なく…」


「…は?」


 言うに事欠いて親のせいとは恐れ入る。


「私はハル君と遊ぶためにお金が欲しかったの。そんな時にあの人から話を持ち掛けられて…」


「それで俺はこんなになった…と」


「それは…ごめんなさい…」


 謝罪して頭を下げるクソ女。あまりにもナメ過ぎだ。

他責思考は相手の腹を立たせてしまうことに気が付いていないらしい。


「何も悪いなんて思ってねぇ癖に謝んじゃねぇよ。嘘つきが」


「悪いとは思ってるの!まさかあんな事に…」


「お前アレ聞いてなかったのか?俺がボコボコにされてるって話してた時笑ってたろうがよ」


 俺がそう言うと しまった という表情をした。やっぱり何も考えてなかったか。


「あれで悪いと思ってるなら相当頭軽いんじゃないか?尻も軽けりゃ頭までとはな、おめでたい奴だ」


「ち…ちが…」


「ここ最近、なんだか素っ気ないとは思ってたんだよ。手も繋ぎたがらないしさっさと帰るし恋人っぽいことなんてあんまりしてなかった…そのくせ家には来るから何かと思えば…まさかとは思ったけど寝取られてるとはな」


 胸中に溜まったものを吐き出す。

 あまり言いたくはなかったが、寝取られていたことは間違いじゃないと思う。


「……私はハル君が一番なの、それは本当!」


「じゃあ自分の意思でクソ親父とヤッたことは認めんだな」


「……はい、ごめんなさい」


 また白々しく頭を下げる。

 ここまで信じられない謝罪など聞いたことがない。


「まぁどーでもいいや、お前と付き合うなんざ真っ平御免だし取り敢えず話にならねぇからさっさとどっか行けよ」


 しっしっと手を振るが、コイツはふるふると首を横に振った。何様だコイツ。


「やだ…やだよ…私はハル君の彼女なの…お願い、傍にいさせて!」


 そういって抱き着こうとしてくるが気持ち悪いので咄嗟とっさに避ける。

勢い余った莉乃はバランスを崩すものの、転ぶことなくこちらに振り向く。


「え…なんで…ハル君?」


「いやどーしてそんな独り善がりでヨリ戻せると思ったんだよ、失せろったら失せろ」


 そういってひと睨みきかせると莉乃はすごすごと去っていく。

 すると莉乃の友人が彼女を連れてった。二度と来ないで欲しい。


「いやぁ、裏木さん困ってたねぇ」


「っは、まぁどこまで本気か分かんねぇけどな」


 俺はいつの間にか傍に来ていた良月にそういってアイツが出ていった方向をじっと見ていた。



 結局それからは莉乃もこちらに来ず、ただ時間が過ぎて行った。


 ちなみにクラスの人間全員がアイツのことを信じていたわけではないらしく、俺を変な目で見なかった、つまり半信半疑程度だったヤツらがやってきた。


「すまない栄渡えど、俺らが声を上げてやれなくて…」


「別に気にしてねぇよ、あんな状況じゃ少数派になって叩かれる未来しかないんだから、睨んでこなかっただけマシだ」


「っ…もしなんかあったら、今度は俺らも協力するよ!」


「おう」


 あくまで悪いのは嘘つき共だ。

 コイツらに八つ当たりするほど子供じゃねぇよ。



 学校も終わり、今 居候いそうろうさせてもらっている観納家に帰ろうと思ったら、彩藤さんから電話がかかってきた。


「はいもしもし」


『おっすぅマサ、ちょっといいか?』


「いいっすよ」


 彼曰く今から会いたいとのこと。

 指定された場所に行くと彼は既にそこにいた。


「おまたせ」


「よっす、悪いな急に呼び出して」


「構わないッスよ」


 近くの公園のベンチで彩藤さんの要件を聞く。


「たしかマサの親父ってこの会社の人間だかなんだかだったよな?」


 そう言って彼は俺にスマホを見せてきた。

 そこにはあのクソ親父の勤めてる会社のホームページが映っていた。


「え…よく分かりましたね。さすがの人脈だ」


「やっすい世辞は辞めろってーの、お前だって…と話が逸れたな」


 話を聞くと、どうやらクソ親父の会社の方からできるだけ情報を集めるらしい。

  失脚までさせれれば最高だ


「まぁこっちは任せろ、あぁそれと、近々お前のお袋さんから電話来るかもよ」


「え?母さんに会ったの?」


 思わず素が出てしまった。

 ちなみに彩藤さんは俺の前の母を知っている。


 俺がクソ親父の元にいたのは母が親権をクソに譲ったからだが…どういうことなんだ?


「取り敢えずはまぁそんなとこだ、こっちはヤツを泣かせてやれるだけの情報を集めるから、お前はクソアマに天誅下しとけ」


 そう言って彩藤さんは手を振りながら帰って行った。


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