三話 なんとかなるだろう

「さ、上がって」


「お邪魔します」


 流石に家に帰る訳には行かないのでのぞみの家でお世話になることにした。

 幸いお金はあるので、明日からはネカフェにでも泊まろうかなと思っている。

 服はコインランドリーで洗えばいいし、荷物は最低限に纏めてバイト先に持っていく。

 そんな事を考えながら、幼馴染である希の家に上がり、リビングへと案内される。


「おかえりー、ってちょっ、晴政はるまさ君よね!?大丈夫なの!?」


 久しく会っていなかった希のお母さんである、母娘揃って美人だね。

 恐らく俺の顔面の惨状を見て驚いているのだろう。

 傷だらけだからであって、決して醜悪な顔では無いと信じている。


「はい、お久しぶりです。結希ゆきさん」


 正直大丈夫ではないが仕方ないのでそういう事にしておく。


「久しぶりね。あぁ、こんなに傷だらけになって。かっこいいお顔が台無しじゃない」


「ちょっとお母さん、変な事言わないで」


「悪かったな変な顔で」


「ちょっ、別にそう言う事じゃないよ!」


 久しぶりに希の家に上がらせてもらった事もあり彼女も少しテンションが上がっている様子だ。

 俺も少しだけテンションが上がったが、取り敢えず結希さんにも事情を説明した。

 自分では手に負えない事で困った時は大人に頼るべきだ、俺はまだ子供だからね。

 事情を聞いた結希さんは涙を浮かべてそっと抱き締めてくれた。母娘揃って同じことしますね。


「そういう事なら、問題が解決するまでここに居ていいのよ?なんならずっと居てもいいし」


「それは願ってもないことです、ありがとうございます」


 正直渡りに船だ。いくらバイトしていて貯金があるとはいえ、ずっとネカフェ暮らしとなるとお金が尽きることだってありうる、そうなれば野宿になってしまう。

 できたらそれは避けたかったので、図々しいとは思いつつ甘えさせてもらう事にした。


「もう、そんなにかしこまらなくていいからね?」


「あーっと…」


「ほらほらお母さん、晴政が困ってる」


 とにかく距離が近いです奥さん!

 旦那さんがいるので自重して欲しい所である、不倫疑惑は勘弁してつかぁさい。

 めっちゃ美人やしこっちだって勘違いしてまうで。やわっこいしたまんねぇ。


 取り敢えず俺の荷物は明日改めて持ってくることにした。

 明日は学校を休むので、バイトに行く前に荷物を持ってきたいところだ。

 ちなみに希は問題解決する為になにかしらを集めるらしい。スクールカーストトップなので人を動かすのは容易だろう。



 …一晩明けて…



 次の日、平日なので両親ともに外出しており家は留守であった為、早々に荷物をまとめて観納みのう家宅に持ってくることに成功した。そんなに大量に荷物ないから思いの外楽だった。

 さて、あっちはどんな感じだろうか。



 ---------------



 私はあのクソ女が晴政をハメた証拠を集めるため、友人に頼んでそいつらの集まりに潜入してもらい、証言を集めてもらうことにした。


 その子も裏木うらきの性格はある程度知っていて、あの様子に胡散臭さを感じていたらしく快く引き受けてくれた。


 どうやら相当言いたい放題言っていたらしくかなりいきどおっていた。

 しっかり録音もしてくれたみたいなので、その内容を確かめてみたが、中々に胸糞悪いものだった。


『実際どうなの?あれって』


『あれ?』


『ほらw、栄渡えどがあんたにDVしたとかってw』


『あー、あんなの嘘に決まってんじゃんw』


『えーマジー?だとしたらあんたカレのこと嫌いすぎでしょー』


『そんな事ないよー?好きな方ではあるしー』


『そんなこと言って、酷い顔してなかった?』


『そーだねーw、いやーパパにボコボコにされててさー、マジヤバかったw』


『あー、パパってあれ?いくらでやってんの?』


『ゴムありで五万とかくれるよ、金持ってるしー』


『えー!ちょっとあたしにも紹介してよー!』


『いいけどー、また今度ねー?』


『っていうか、なんでバレたの?』


『いやー、ヤリまくってたらハル君帰ってきちゃってさー、それでバレちゃった』


『え?彼の家に連れ込んだの?』


『ううん、彼のお父さんだよ』


『そういう事だったんだwカレかわいそw』


『そうだねーw可哀想だからまたヨリ戻さないとねw』


『いや流石に無理でしょw』


『大丈夫大丈夫!ハル君一途だから、私が大好きって言えば喜んで戻って来てくれると思うよ!私も大好きだしー!』


 ざっと聞いたところこんなものだった。まだ少々続きはあるが特に気になるものでは無い。

 晴政を軽んじ、軽薄な好きという言葉を吐いてへらへらとするその態度にとても腹が立つ。


 頭の緩いこのクソは自分で尻尾を出した。

 自分の認識の甘さのせいで痛い目に逢うのは間違いないだろう。


 私は口角が上がるのを抑えられなかった。

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