彼女が父と''仲良し''してたなんて信じられるか?

サカド

一話 信じられるか?現実なんだぜ…これで

 やあみんな、俺は栄渡えど 晴政はるまさっていうんだ!

 高校生になってから彼女が出来たんだ!向こうから告白されてねムフフ…

 セミロングの綺麗な茶髪が似合う女の子だ、ちなみにお胸は平均かそれより少し大きいくらいだと思う。まぁ他の子の胸は見た目からの判断なので多分だが。

 俺は部活があって、彼女は帰宅部。

 つまり彼女の方が早く帰るので家で待っててもらっている。

 今日も今日とてお楽しみですよ、はやる気持ちが押されられねぇぜ!




 そんな気持ちは粉々にぶっ壊されるんですけどね。

 え、なんで俺の部屋で父さんと彼女がヤってるわけ?意味分かんねぇんだけど?

 絶句っすよ絶句、言葉出んわ。


 暫くして俺は扉を強く開け怒鳴った。


「何してんだよ!」


 あまりのショックに声が裏返ってしまったがむべなることだろう。

 二人とも驚いているが普通に考えてバレるだろ。

 何せここ俺の部屋だぜ?帰ってきたら本人ここに来るんですよ?


 そもそもよく考えると息子の彼女がいるのに昼間っから宜しくやってる父って時点でおかしい…。

 しかもよりによって息子の彼女に手を出すかよ。


「えっ、ハル君!?」


「おっお前いつ帰ってきたんだ!部活はどうした!」


「はぁ?とっくに終わってんだよ時間見てみろ!」


 言うに事欠いてこのジジイ俺を責めようとしてきやがった、どんだけセックスに没頭してたんだ。


 部屋に置いてある時計を見て納得した様子のコイツら。

 まずはこんな小汚い格好なのは見るに堪えないので着替えてもらい、改めて話をすることにした。



「んで、どういうこと?」


 ここは家のリビング、俺はテーブルを挟んで椅子に座り、仲良く隣合って座る父と彼女と向かい合う。

 どういうことも何も無いことは分かっているがとにかく二人から洗いざらい話してもらう事にした。


「どういうこととはなんだ」


 なんと親父は言うに事欠いて誤魔化そうとしてきた。えぇ…なにシラ切ろうとしてんだ?


「なんで二人はセックスしてたんだよ!」


 苛立った俺はテーブルを叩いて叫ぶ。

 あぁ言っちゃった、だって耐え切れなかったんだもん。

 正直ブチ切れですよブチ切れ。そりゃそうでしょ彼女ですよ?高校に入って初の彼女。

 愛してやまない彼女が父とヤってたなんて冷静でいられる?

 …まぁ録音はしてんですけどね。


「仕方ないだろ、お前 莉乃りのさんに何をしたんだ」


「…は?」


 仕方ないとか何言っちゃってんだ?キメてんのか?気でも触れたか?

 二の句を継げない俺を他所よそに父は続ける。


「聞けばお前は梨乃さんに暴力を振るっていたそうじゃないか、だから俺はその話を聞いていた。あまりにもこの子が可哀想だったから守ってあげたくなった、それだけだ」


 いやいや無理ありスギィ!

 なに俺ってつまりDV男…ってコト!?


「っ…そうだよ!私もう耐えられないの!粕斗かずとさんは私を守ってくれるって言うから!だか好きになったの、好きな人とはセックスするでしょ?私もハル君のこと好きだったけど、もう無理かな…別れよ?」


 はあぁ!?良くもまぁそんなスラスラと色々嘘っぱち言えますね!スッゲェ不自然だよ?

 白々しいっつーのかな?まるで用意してあったセリフを話してるような、大根役者の演技と言えばわかるだろうか?少し棒読み混じってんだよね。


 だけど冷静じゃない俺はそんな事にも気付かない。


「い…や何言っ…っに言ってんだよ、俺お前に手を出したことなんてないだろ!」


 そう言って俺は立ち上がり前のめりになってしまった。


「キャッ!」


 莉乃は怯えたように身を捩らせた。

 それを見た父はテーブル越しに俺にパンチをかましてきた、顔面に。


「やめろ!莉乃さんに手を出すな!」


「怖い、怖いです粕斗さん…」


「大丈夫だ、俺が守ってやるからな…こんな奴は俺の子供じゃない!」


 なんで抱き合ってんだよ…何してんだよ…。

 演技臭ぇんだよやめろよ!

 俺を悪者にしてコイツらはすっかり二人の世界に入っていた。

 見せつけるようにキスをしている二人を、俺は見ていることしか出来なかった。




「お前は部屋にいろ、それは莉乃さんを送ってくる。お前のことは後で決めるから勝手に家から出るなよ」


 そのあと俺は父に引きられ部屋に放り投げられまた殴られた。

 追加で三発、別で四発蹴りを貰った。

 思い切り食らったようで身を守っていた左腕が真っ青で口の中も傷だらけ…どうしてこうなった?




 意気消沈した俺は何も出来ず部屋にこもっていた。

 小一時間もして仕事から帰ってきた義母かあさんと義妹いもうとを交えて話をすることになる。だがこのクソがろくな呼び方なんてするはずも無く…。


「オラ!早く来い!」


「痛いって父さ…がぁッ」


 頼むから放り投げる次いでに蹴り入れてくんのやめて?器用やねアンタ。

 父は俺の髪を掴んで引き摺った俺を蹴り飛ばし、二人の眼前に突き付けた。


「ちょっと父さん!お兄ちゃん痛がってるよ、やめて!」


「あなたどうしたのよ晴政くんが何したの?」


 流石にまともな状況では無いのでとがめる二人、しかし俺を見る目は怪訝けげんそうだ。

 どうやら俺の評価は元々酷いものらしい。

 恐らくこいつらの言葉は表面上だけのものだろう。


「こいつは事もあろうに自分の彼女に日常的に暴力を振るっていたんだ、それをその娘から相談されてな、最低な野郎だ!」


「だからやってねぇよ!ざけんな!」


「うるさいっ!」


 このゴミがそんなありもしない事をうそぶくのでその事を否定する俺。それを殴って止めるカス

 それでも二人はそれを疑うだろうと思った。


「え…何言ってんのお父さん、マジ?」


「嘘…晴政君そんなことしてたの?」


 ぇぇぇぇ何その反応、せめて義妹くらいは否定して欲しかったなー義兄おにーちゃん…そんな事する筈ない!ってさ。

 まぁ義母は元々信用してねぇからあれだけどね、前から思ってたけど何か薄っぺらいんだよねこの人。

 胡散うさんくさいって言うのかな?


「何言ってだよ、んなことしてないし、父さんなんてセックスしてただろうが!」


 あるかどうか分からん話(というか存在しない)より事実だと、俺はそう叫んだ。

 目に見えて驚く二人、そりゃそうだ。


「ちょっとどういう事よ粕斗さん!」


 義母は今にも掴みかかりそうだった。

 義妹はドン引きである。当たり前だよなぁ?


「しっ仕方ないだろ、あの娘は酷く傷付いてた。誰かが支えてあげなければいけなかったんだ…すまない」


 そう言って父は頭を下げる。

 それを見て義母はあげた拳を下ろした。

 って…え!?下ろしちゃったの!?そんな簡単に落ち着いていいことじゃ無いよね!?


「そう…仕方ないのね」


 いや仕方なくねーよ!何言っちゃってんの

 ババー!

 やっぱり胡散臭ぇよ!そんな事あっさり納得するならなんで結婚したの?好きだから結婚したんじゃないの!?


「いや良くないよお母さん!充分おかしいよ!」


 そうだぞー美智みさと、義兄もそう思っております。ついでにDVなんて冤罪えんざいなんでそれについても疑っていいのよ?


「母さんもね、おかしいとは思うけど…二人がよく考えてした事なら何も言えないわ。私と離婚するつもりはないんでしょ?」


「当たり前だ!大切な家族だからな、無責任な真似はしない!」


「ぁ…あーそうなんだ、ならいい?のかな?いや訳わかんないけど、母さんがいいならあたしは何も言わないよ」


 訳が分からなかった、何奴どいつ此奴コイツもロクな神経をしてないらしい。

 というより義妹に関してはあんまり納得できてないのかもしれないが。


「それで、このクズについてはどうすんの?」


「……はぁ?」


 そして義妹が向けてくる視線は侮蔑ぶべつ軽蔑けいべつか…何にせよゴミを見る目であることは間違いない。


 決して仲が悪かった訳では無い…と思っていたのだが、こうしてみると内心嫌われていたのがよく分かる。

 義理とはいえ兄妹で遊ぶことも多く、下らない会話は世間話なんかをして笑いあっている日々を送っていて、困った時はお互い助け合ったりもした。


 昔いじめられていた義妹を助けたりなんかもして、決して軽い存在ではなかったと…。

 血を分けた兄妹となんら変わらない絆で結ばれてるだなんて信じていたんだ…。


 結局は勘違いで、家族の絆なんてオブラートのように薄く、ちょっとしたことで溶けたり破れたりする、そんなもの。空虚なものだ。


「こいつは最早俺たちの家族じゃない、せめて高校生の間だけは部屋くらいは貸してやるが、卒業したらすぐに出てってもらうからな!」


「ちょ…んだよそれ…」


「それがいいね、あたしだってこんな奴家族だなんて思いたくないもん、まぁ元々血も繋がってないからそこは助かったけどさ。そんな本性隠してたなんてもう信用出来ないし…。絶対近付かないでね、変な事しようとしたらすぐ父さん呼ぶから、死んじゃえ!この犯罪者!」


 完全に犯罪者扱いだ、冤罪もいい所だ勘弁して欲しい。


 最早家での俺の扱いは最悪だ、しかし悪夢がこれで終わるわけがないことを俺はすっかり失念していた。

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