第4話入院生活

「痛い、、、苦しい、、、」受験まで2週間をきった2月、空は勉強中に突然胸のあたりに痛みと苦しみを覚えた。幸いにもリビングで勉強していたため、母親がすぐに気づき救急車を呼んだ。空は意識が朦朧としていたため記憶がなく、気づいたら病院のベッドの上だった。

「空、聞こえる?空、空」

母親の声が聞こえる。空はうなずくことしかできなかった。母親の泣いている声が聞こえる。まもなくして先生が来た。

「空君、聞こえるかな?ここどこか分かる?」

「びょう、、、いん、、、」

途切れ途切れの声で空は答えた。ようやく意識が戻ってきた。あたりを見渡すとたくさんの管が体につながっていた。空は一瞬で悟った。まだ頭が回らないせいか理解しているのに恐怖心を感じなかった。そんなことより、受験のことが頭をよぎる。

「はっ!受験は、、早く勉強しないと!」

「空君落ち着いて、、先生の話を聞いてくれるかな?」

空は我に返りうなずいた。

「ありがとう。空君はお家で倒れてここの病院に搬送されたんだけど、倒れた時のことは覚えているかな?もし覚えていたら少しのことでもいいから教えてくれる?」

先生は空と目線を合わせてまっすぐな目で質問した。空は先生の言葉を聞いて思い出した。

「はい。勉強してたら急に胸が苦しくなって、締め付けられるような痛みが襲ってきました。母が声をかけたところまでは覚えていますが、そこからの記憶はありません。痛みがあった後すぐに目の前が真っ暗になりました。」

空は思い出しながら話をした。

「話してくれてありがとう。良い情報源になったよ。」

先生は微笑みながら言った。先生の表情に空も自然と微笑み返していた。しかし、先生の表情は一瞬で曇った。

「空君、単刀直入に言うけど空君の心臓に大きな腫瘍が見つかったんだ。」

先生は暗い声で言った。空の表情が曇った。

「じゃあ、、、受験はどうなるんですか?」

空は消えそうな声で聞いた。

「そうだね、今のところは厳しいかな、、、。」

空はうつむいてしまった。母親はただ涙することしかできなかった。看護師が涙する母親を別室に連れて行った。先生の判断でその日、母親は一度家に帰宅した。その日の夜、空は静かに涙した。そんな空のもとに先生が来た。

「ごめんね空君、、でも治療を頑張って回復すれば受験を受けることが出来るかもしれない!」

空は涙を拭いて先生の目をみた。

「ほんとですか、、、?」

震える声で聞いた。

「ほんとだよ。後2週間でしょ?私たちも全力を尽くすし、空君もそれに応えてくれれば受験を受けるまでに回復することができる。」

先生は空に熱い目線を送った。

「そうなんだ、、、。俺頑張るよ、、、絶対に受験うける!!」

空は決意した。先生も空も表情が明るくなった。しかし、先生は内心焦っていた。空が受験までに回復する確率は10%にも満たなかったからだ、、、。


2週間後


「じゃあ行ってきます!」

空の声が病室に響いた。

「「いってらっしゃい」」

先生と母親の声が響いた。空が決意したあの夜から先生の不安を吹き飛ばすように回復していき、今日、受験を迎えることができた。空の受験を見送ったあと、先生は母親を呼んで対話ルームに行った。

「空君の回復には驚きました!まさか受験できるまで回復するなんて想像もしていませんでした。やはり、決意した後の空君は強いですね!」

先生は安堵した声で言った。

「そうなんですよ!昔から負けず嫌いで、一度決めた目標は必ず達成する子なんです!」

母親も安堵した声で言った。

「嬉しいところですが、少し空君のことについて聞いてください。」

先ほどの声とは真逆の声で先生は目線を合わせた。母親は唾を飲み込んだ。

「空君ですが、心臓の腫瘍が大きすぎて手術をすることが不可能です。今のところ転移は見られませんが、後もって半年くらいかと、、、。」

「え?」

突然の余命宣告に頭が真っ白になった。言葉が続かず困惑したまま先生は話を続ける。

「空君の腫瘍は大きさが4㎝以上あります。心臓なので手術ができる大きさでもありません。今後転移する可能性は90%以上。」

「つまり、、、もうどうしようもないということですか?」

母親は震える声で聞いた。

「我々も全力を尽くします。空君の人生が1分1秒でも長く生きられるように、、、。ただ、これだけは覚悟しといてください。」

先生の話す声がどんどん聞こえずらくなってきた。

「空君は、心臓発作が頻発すると考えられます。我々もすぐに応急処置をしますが、死は覚悟しておいてください。」

母親はその場で泣き崩れた。看護師さんが背中をさすって声をかけている。先生は別な仕事があったため、その場を後にした。


「ただいま」

空の声が病室に響いた。幸いにも体調を崩すことなく受験を終えることができた。空は母親に受験のことを話したくてしょうがなかった。しかし、病室に入ると母親の姿はなかった。母親は先生の話を聞いた後、家に帰ってしまっていた。空は驚いたが、看護師さんがすぐに来て説明してくれたおかげで状況を理解することができた。

その日の夜

「ピピピーピ、ピピピーピ、、、」

「空君、、、先生呼んで!!」

心臓発作が起きた。

「空君、大丈夫だからねー。電気ショックするよ離れて!いきまーす、、、心臓マッサージ!1,2,3,4,、、、」

数分が経って心拍が正常に戻った。

「危なかったですね、、、」

疲れ果てた表情の看護師さんが言った。

「そうだね、、、悪化のスピードが早いな、、、後もって1か月かもしれない、、、。」

険悪な表情の先生が言った。


次の日の早朝


空は息苦しさに目が覚めた。

「はあっ、はあっ、はあっ、、、、」

意識が遠のく中ナースコールを押した。まもなくして看護師さんが来た。

「失礼します。空君どうしたかな?って大丈夫!?息苦しい?すぐに先生呼ぶね!」

看護師は走って先生のもとに行った。空の記憶はここまでだった。次に目が覚めた時には集中治療室にいた。あの倒れた時と同じくたくさんの管で繋がれていた。

「空君聞こえる?」

看護師さんの声がした。空は小さくうなずいた。

「先生、空君の目が覚めました。」

まもなくして先生が横に来た。

「空君、分かるかな?苦しかったね。目が覚めてよかった。」

先生の声はどこか悲しげに聞こえた。

「空君、昨日の夜も心臓発作があったから集中治療室に病棟を移したよ。これでいつ発作が起きてもすぐに対応できるから苦しくなったらいつでも先生呼んでね。」

空は小さくうなずいた。

「先生、、、明後日合格発表なんです、、、。現地で見たいけど難しいですよね?」

「そうだね、、、。この管が外れないとこのベットから動けないからな、、、。全力は尽くすよ!」

「分かりました、、、。俺も頑張ります!」

空と先生の絆がまた深まったような感じがした。


2日後


「じゃあ空君30分だけね。薬の効果が切れたら発作が起こる恐れがあるから。」

「はい!分かりました!いってきます!」

結局空の病状は変わらなかった。先生の判断で最終手段として考えていた特別な薬を投与し、先生の車で合格発表に向かった。しかし薬の効き目はおよそ1時間ほどしかないため先生も緊張した表情で車を運転していた。

15分くらいして空は帰ってきた。

「先生、俺受かってました!本当にありがとうございました!」

空は興奮した声で先生に報告した。

「そうか、、よかったな!先生も嬉しいよ!」

先生は車を走らせながら空を祝福した。薬の効き目が切れる前に病院に戻ることができた。先生は安堵した。そして、病室の外にいた母親のもとにかけよった。

「こんにちは。空君から結果聞きましたか?」

「はい!本当に先生たちの努力のおかげです。ありがとうございました!ぜひ空を直接祝いたいのですが、、、病室には入れませんか?」

母親は期待を込めていた。しかし、

「すいません。集中治療室は原則として病院の先生以外入れないことになっていまして、、、。」

先生は申し訳なさそうに言った。

「そうですよね、、、。ごめんなさい。」

「ところでなんですけど、、、そろそろ空君に余命の話をしとかないといけないかなと思いまして、、、。現状、入学式までもつかどうかって感じですね。」

母親はうつむいた。

「そうですね、、、。そろそろ空にも伝えたいですね、、、。先生からお話していただけますか?」

「もちろんです。では今日お話しさせていただきますね。」

「お願いします、、、。」

母親はこの会話を最後に病院を後にした。


その日の夜


「空君、今いいかな?話しておかないといけないことがあって、、、。」

「大丈夫ですよ。なんですか?」

先生は一呼吸おいてから話を始めた。

「実は空君の心臓には大きな腫瘍があってねもう手術じゃ取り除けないの、、、。でね、先生たちも全力を尽くして腫瘍を小さくしようと治療したんだけどなかなか小さくならなくて、、、。もう空君の体力的に入学式までもつかどうかっていう感じなんだよね、、、。」

先生は空が動揺すると思っていたが、空は冷静で素直に話を受け入れた。

「そうなんですね。分かりました。もう眠いので寝かしてください。」

「わかった。おやすみ。」

先生は病室を後にした。数分後先生が病室を除くと静かに泣いている空の姿があった、、、。

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