第92話 やっぱり現れたな。待ってたよデビーラ

 昼食を取り終えた後、久遠は鬼童丸としてUDSにログインした。


 本編では遊べないから、ミニゲームで遊ぶ訳だがその前にお目当ての存在が現れた。


「やっぱり現れたな。待ってたよデビーラ」


「むっ、その反応は予想通りだったってこと?」


「まあな。俺は事件に巻き込まれた当事者だし、<新人戦チャンピオン>として気にかけてくれたからログインすれば会えるかもと思ってたんだ」


「良い読みしてるね。いやぁ、鬼童丸がログインしてくれて良かったよ。もしかしたら、現実で起きたことを知ってこっちに戻って来てくれないんじゃないかと思ったから」


 デビーラはホッとしたように言った。


 それだけ鬼童丸を重視しているのだろう。


「ここに現れたってことは、デビーラは俺の質問に答えてくれるって認識で良いのか?」


「答えられることには答えるよ」


「その言い回しからして、今のデビーラに答える権限がないか、俺が訊く権限を持ってないこともある?」


「残念ながらその通りだよ。鬼童丸は理解力に長けてるね」


 無駄なやり取りを割愛できたから、デビーラは鬼童丸の賢さに感謝した。


 鬼童丸は少しでも自分が訊きたいから、デビーラが省けるやり取りを省いてくれることは良かったと思えた。


「とりあえず俺の質問にデビーラから答えてもらって、その穴埋めをするように教えてもらえる範囲で説明を頼む。まず、不審死した原肇と似内壮爾はパッパラーとフェイクスで合ってるか?」


「合ってる」


「あの2人が死んだのはヘルストーン擬きで開いた地獄の門から現れたアンデッドモンスターに取り込まれたから?」


「ヘルストーン擬き? あぁ、ヘルオブシディアンのことね。パッパラーとフェイクスの死因はほとんど正解。ヘルオブシディアンを持ってたせいで彼等はゲームとこちらのパスが完全に繋がっちゃったから、アンデッドモンスターに取り込まれてキャラロストしたことが現実でもフィードバックされちゃったの」


 (オブシディアンってことは黒曜石か。ぱっと見ただけじゃ見分けはつかないわ)


 擬きと呼んだものがヘルストーンと別物という読みは正解だったが、遠くから見ただけでは判別するのは難しい。


 それにヘルストーンと違ってヘルオブシディアンは危険物であり、それのせいでゲーム内の結果がリアルに100%フィードバックされるとわかった。


 この事実に鬼童丸の表情は引き攣ってしまう。


「ヘルオブシディアンは獄先派からパッパラーとフェイクスに渡されたのか?」


「そうだよ。君達プレイヤーの参入で私達親人派の勢力が強くなり、自分達の勢力が着々と減らされてるから、獄先派がプレイヤーの中でも自分達になびきそうな者を見つけて切り崩しにかかってるの。その1つの手段がヘルオブシディアンって訳」


「それで陣営が変わるのはわかるけど、リアルに影響が出るのは異常だろ。【Undead Dominion Story】はデスゲームだったりする?」


「本来はデスゲームじゃなかったし、獄先派がヘルオブシディアンを使わなければデスゲームになることもなかった。ごめん、その質問はこれ以上教えてあげることができないや。鬼童丸が<鏖殺侯爵(冥開)>になったらもう少し開示できるよ」


 (爵位の高さで開示してもらえる情報が変わるってことか)


 どうして爵位なんて与えられるのかと思っていたが、ここでその意味がわかった。


「侯爵に昇進すれば全て開示される?」


「侯爵で8割。公爵で全てかな」


「公爵って王族の血筋じゃなかった? そもそも爵位って親人派がプレイヤーの格付けに使ってるだけ?」


「地獄に古くからある習わしで爵位は与えられるの。だから、王族とかは一旦考えなくて良いわ。爵位の解釈は全派閥で共通よ」


 (全派閥で共通だったか。親人派からすれば爵位が頼もしさに直結するし、獄先派からすればそれが脅威度になる)


 中立派は態度を決めていない派閥だから、どのように思われていないかわからないので一旦置いておく。


「ちなみに、伯爵の今はどれだけ情報を開示してもらえる?」


「6割よ。子爵が4割で男爵は2割。ただ、君達の師匠の判断で更に開示される情報の範囲が狭まる可能性はある」


「師匠から見てどこまで開示できるか判断されるってことね、了解。ところで、ドラクールがリアルに登場したのはなんで?」


「リアルにドラクールが現れたのは、ヘルオブシディアンによってパッパラーとフェイクスのリアルが繋がった影響で、あの戦いに参加してた鬼童丸とリアルの次元も繋がりやすくなってた。その状態で条件を満たしたドラクールが自らの意思で鬼童丸を守るべくリアルに向かったの」


 (忠誠心が原因であんなことになったのか。ありがたい)


 ドラクールの忠誠心に感謝した鬼童丸だったが、ドラクールについて知りたいことはまだあった。


「ドラクールが喋れるのはなんで? 七つの大罪を冠する専用武器を持ってるから?」


「…良い読みをしてるわね。その通りよ。今のところ【Undead Dominion Story】では大罪武装を装備できるアンデッドモンスターだけ喋れるわ。でも、どのアンデッドモンスターがそうなるかは言えないわ」


「だろうね。でも、それだけわかれば十分だ」


「ふーん、そっか。まあ、鬼童丸が質問した内容は今答えられる部分を網羅してるから、聞かれてもどうしようもないんだけどね。お詫びと言ってはなんだけど、本編には入れないけど専用武装交換チケットを使う? 今回は特別に私がショップを開いてあげるわ」


「助かる。ショップを見せてほしい」


 宝探しでは従魔が戦えるから、武装が充実していた方が良いと考えて鬼童丸は頷いた。


 デビーラの厚意で鬼童丸はショップ画面を開き、専用武装交換チケットで交換できる武装一覧を確認してみる。



○専用武装

 ・アビスライダー専用武装:怨殺槍おんさつそうアイサツ

 ・リビングフォールン専用武装:堕天靴だてんかネメシス

 ・レギネクス専用武装:爆轟輪ばくごうりんカブーム

 ・フロストパンツァー専用武装:蒼副砲そうふくほうレイゼイ

 ・ヨモミチボシ専用武装:凶星輪きょうせいりんマガツキ

 ・デスマスクラウン専用武装:偽仮面ぎかめんファルス

 ・ヘルスカウト専用武装:静追弓せいついきゅうオンミツ



 (マジで1つしか交換できないのが辛い)


 残念なことに専用武装交換チケットは1枚しかないから、この場で交換できる専用武装は1つだけだ。


 どれか1つしか今は選べないなら、少しでも今の戦力を底上げできる専用武装を選びたいので、鬼童丸は順番にそれぞれの性能を確認する。


 怨殺槍アイサツはアビスライダーのSTRとINTを400ずつ上昇させ、攻撃した相手を出血+恐慌状態にする。


 大剣よりも槍の方が騎乗中に取り回しやすいというデーモンズソフト側の判断で武器が変わっている。


 堕天靴ネメシスはリビングフォールンのSTRとDEXを400ずつ上昇させ、バフやデバフ、状態異常を引き起こすアビリティの効果を5%上昇させる。


 爆轟輪カブームはレギネクスのDEXとINTを400ずつ上昇させ、火属性のアビリティの効果を10%上昇させる。


 蒼副砲レイゼイはフロストパンツァーのVITとINTを400ずつ上昇させ、氷属性のアビリティの効果を10%上昇させる。


 凶星輪マガツキはヨモミチボシのDEXとLUKを400ずつ上昇させ、状態異常系アビリティの効果持続時間を1.1倍にする。


 偽仮面ファルスはデスマスクラウンのVITとINTを400ずつ上昇させ、デスマスクラウンを攻撃した者は20%の確率で混乱状態になる。


 静追弓オンミツはヘルスカウトのDEXとAGIを400ずつ上昇させ、ヘルスカウトの攻撃が敵をダウンする確率を20%上げる。


 (見れば見る程どれも甲乙つけがたい。だとすれば、チケットを勝ち取ってくれたアビスライダーにプレゼントしよう)


 専用武装交換チケットを手に入れるべく、緊急クエストで戦ってくれたのはドラクールとアビスライダーだ。


 そうであるならば、鬼童丸はアビスライダーに渡すため怨殺槍アイサツを交換することに決めた。


「デビーラ、このチケットは怨殺槍アイサツと交換する」


「はーい」


 デビーラは鬼童丸から専用武装交換チケットを受け取り、怨殺槍アイサツと交換した。


 その瞬間、強制的にアビスライダーの怨殺槍アイサツが怨龍剣サーストと交換される。


「今のところ私にできることは以上だよ。それと私から聞いた話は他のプレイヤーに話そうとしても聞き取れなくなるから、権限があるかどうかはそこで判断してね。じゃあ、これからも【Undead Dominion Story】を楽しんでね。調整にまだ時間がかかるから、それまではミニゲームで遊んでね。宝探しはちゃんと鬼童丸の実力に見合った調整をしてあるから。バイバ~イ」


 自分がこの場においてやるべきことを終え、デビーラは鬼童丸の前から姿を消した。

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