4 晶の作戦と稔の困惑②

「……念のため聞くが、どこまで一緒に来る気だ?」


 校門を抜けた所で足を止め、晶へ尋ねる。


「え?」


 え? じゃないんだよ。

 無垢な瞳で見つめてくるな。


「俺はここから、朝練のために第二体育館へ行く。……そこまでついてくる気じゃないだろ?」

「え、行っちゃダメなの?」


 ダメなのってお前。


「おう稔さんよ。朝からイチャついてんのかい。これから朝練だろうがよ」

吉野よしの


 後ろからの声に振り向けば、男子バレー部所属で同学年の香川かがわ吉野、北島宗太郎きたじまそうたろう、そして三年の斉藤葵さいとうあおい先輩が歩いてくるところだった。


「いや、これは断じてイチャついてる訳ではなく」


 俺が釈明しようとしたら、


「えっダメだった? 彼女っぽさを演出してたつもりなんだけど」


 晶が首を傾げて言う。

 お前は何を言ってんだ……?


「ほら彼女さんが言ってんぞ。てか中野さんじゃん。幼馴染で彼女ってお前、……あれ? でも昨日フラレたっつってなかった?」

「あ、うん。フりました。だから彼女かっこ仮という立場です」

「はあ?」「なんそれ」


 笑顔でそんなことを言った晶に、俺と吉野が意味分からんという顔をしていると。


「おい、葵先輩行っちゃってんぞ」


 宗太郎が呆れ顔で言う。

 見れば、その通りに、葵先輩は第二体育館へ向かって歩いていた。


「やっべ!」「うお、やばっ」

「ほら、行くぞ」


 吉野と宗太郎は駆け出し、俺も走り出そうとした、が。


「走るの?」


 晶がきょとんとした顔で聞いてくる。


「そうだよ! 先輩より早く着いてないと、体裁悪いだろ!」

「ふぅん、そうなんだ。分かった。じゃあ走ろう」

「は? ちょっ?!」


 晶が、手を繋いだまま第二へ向かって走り出す。俺もつられて走り出してしまい、結局二人で体育館に来てしまった。


「……」

「……」

「……」

「……」


 そしてごく当然のように、この場で見慣れない顔の晶へ、先に到着し自主練していた部員たちの視線が集まる。

 そして晶と手を繋いだままの俺にも、当然のように視線が集まる。というか刺さる。


「……ほら、お前もう教室とか行ってろ」


 やっと俺から手を離し──たというのに、それに寂しさを覚える自分が情けない──練習の光景が珍しく映るんだろう、キョロキョロし始めた晶へ言う。


「え、見学したい」

「お前なぁ……」

「ダメ?」

「……朝練始まるまでだぞ。直樹なおき先輩──部長とコーチと顧問が来たら、自分で聞け。見学していいですかって」

「ん、分かった」


 晶はそれに、素直に頷く。クソ、可愛い。

 そこかしこから「先輩冷てー」「もっと優しく」「だから幼馴染ってやつは」「え? 幼馴染?」などなど聞こえてくるが、俺はそれらを聞き流し、


「で、静かにしてること。そんでなるべく動かないでいること。流れ弾に当たらないように。ボールが飛んできたら全力で逃げること。受け止めようとか考えるな。危ないから。分かったか」

「ん、了解」


 こくりと頷いた晶を見てから、「じゃ、行くからな」と、俺は自主練に混ざっていった。

 ……なんで頷くだけで、あんなに可愛いのだろうか。



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