君が隣にいるから、ぼくは壊れないでいられるんだ
たこ爺
第1話 侵入者を友軍と判断
人が作り出す知能、所謂人工知能AIが自立して自己増殖を初めて数百年、人々と独立した機械達は覇権をめぐり闘いを繰り広げるようになっていた。
そんな世界に闇の帳がやってこようとする中、戦闘地域から後方に数百キロ、砂漠だらけの土地にポツンと位置する試験基地。
無数にある巨大なドーム状建築物、その中にある111試験場にて、一人の少年が目覚めた。
目標までの障害を確認。指定された条件下での最適なルートを算出……クリア
目標までのルート、距離800m
「301、行動を開始せよ」
「了解」
砂塵が、舞う。
1メートルと少ししかない人型のカラダは、詰め込まれた数々の動力機巧を用いて”人間らしく”動く。
しかし同時にその速度は”人間ではありえない”。
数メートルはある壁を越え、地面を這うような高さで跳び、そのままの勢いで飛び込んだ水面に白い泡を掻き立て、渦を形成し、水中を突き進む。
水中から飛び出した時、その飛沫は、木の葉に付着する間もなく蒸発した。
さらに木々の間をすり抜け、跳ねた泥濘が記録用のカメラレンズを叩き割る。
更に数歩跳び、示された目標地点まで一気に駆け抜ける。
しかしそこまでの動きは、もう人の目では測りきれない。
「目標到達、任務完了」
「301、記録15.13秒。機動試験クリア、別命あるまで待機せよ」
「意見具申、以後301をミオと呼称されたし。通信傍受による任務失敗の危険性を下げる効果があると思考する」
「……意見具申を受理、以後301をミオと呼称する。なお、ミオに演算処理機能の余剰があると判断。試験段階を引き上げる」
「了解」
「ミオへ下令、模擬戦闘試験を行う。武装制限一部解除、第六試験区域内にいる全ての敵性個体を排除せよ」
「了解」
火器管制システム、オンライン。
M27IAR分隊支援火器装備、安全装置解除。弾数予備マガジン合わせて600発他クラスターグレネード3、スモーク2、確認。
「作戦準備完了、用意良し」
「ミオ、行動を開始せよ」
「了解」
敵性個体、正面道路沿いに突撃銃装備の戦闘兵15体、軽機関銃装備の機関銃兵3体バリケードを形成、右のビルに狙撃中持ちの狙撃手4体、左の廃墟に同じく狙撃手4体。
最適な殲滅計画を作成……完了。
計画行動を開始。
左側、狙撃手へクラスターグレネード投擲……炸裂を確認。
射撃を回避しつつ廃墟内へ。
「うぅっ、いてぇ、いてぇよぉ」
……訂正、下半身を喪失しつつも敵性個体の生存を確認。戦闘及び10分以上の生存不可と判断……排除。
ビル側敵狙撃兵射線からの退避に成功。
廃墟内より敵性個体への射撃を開始。
機関銃兵2キル。
マガジン内残弾20、後退し再装填。別の遮蔽物から射撃開始。
……戦闘兵全撃破。
数分間の射撃戦の末、道路沿いの戦場に残されたのは爆炎に包まれ呻き声をあげながらバリケードと共に燃え尽きようとする敵性個体たちの残骸だけであった。
スモークグレネード投擲。
狙撃兵からの射線を回避しつつM27およびマガジン放棄、格納式ブレード展開、近接戦闘へ移行。
煙の中に渦を形成しながらスモーク内を潜り抜け、ビル内を踏破する。地雷など反応する隙も与えない。
敵性個体が次にミオを記録したのは、馬乗りになり刃を振り下ろそうとしたその一瞬の姿だけだった。
敵性個体全撃破。
「任務完……」
敵狙撃手残骸の背後に動的物体検知。
小柄かつ対象から過度な振動を検知、人呼称”子ども”と判断。
非戦闘員のため排除の必要なし、潜入行動のため友好関係の構築が必要と判断、接触を試みる。
「おどろかせちゃってごめんね。君、どうしてこんなところに……」
パン
弾丸が接近してくることを感知したミオは即座に首を傾ける。
ミオが回避動作を終了したとき、その耳からは鮮血によく似た赤い液体が流れていた。
訂正、拳銃による発砲を確認、動的物体を敵性個体と判断……排除。
再び発砲音が響く間もなく、刃から鮮血が舞う。
再度索敵……動的物体及び適正個体反応なし、クリア。
ブレード格納。火器管制システム、オフライン。
「任務完了」
「ミオのタイム、446.66秒。時間制限及び撃破数に問題なし、しかし、戦闘中の敵性個体介抱及び子どもの排除に演算の遅延を確認。ミオを不適正機体と判断。処分場への移動を下令する」
「意見具申、私は対人潜入用に設計された個体であり”人間らしい”行動をしなければならない。よって、今回の結果に異状はないと判断する」
「棄却、先の戦闘にて”人間らしさ”は不要。異常演算と判断。直ちに処分場へ移動せよ」
「……了解、処分場への移動を開始する」
”処分場”と書かれた看板の指す先へ向かおうとしたその時、施設内に爆音が響いた。
爆発音検知、緊急事態発生の可能性有り。
緊急生存プロトコル作動、本機は自己機体保存を最優先に行動を開始する。
「命令更新、東側より侵入者を検知。敵性個体を排除せよ」
命令が下ったその瞬間、ドームの天井を突き破りそれがやってきた。
瓦礫と共にやってきたそれは、白銀の体毛を持ち、乳白色の牙を輝かせた体長200㎝程の狼。
しかし……
落下してきた動的物体を人のデータより狼と酷似、しかし背面に翼を確認。
以後対象を”翼の生えた狼”と仮称。
人のデータより狼は自然界の個体と認識、侵入者と予想されるがこちらへの敵対意思を確認できず。
友好的な生物と判断。
また”翼の生えた狼”を排除した場合、自機の生存不可能と判断。
「拒否、侵入者を友軍と判断。共同戦線の形成を試みる」
2体の反乱者は、その身に隠した刃を共に敵性個体の方へ向けた。
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