第10話 記憶の迷路
新たな世界への一歩を踏み出した誠は、次々と広がる風景に驚きを隠せなかった。そこには、これまで見たことのない鮮やかな景色が広がっており、草原や森、川が複雑に入り組んでいた。空は澄み切っており、鳥のさえずりが心地よく響いていた。
「ここが、俺の新しい始まりか…」誠は深呼吸をし、周囲の景色を堪能しながら歩みを進めた。過去の迷宮とは異なり、この場所には明るい未来が待っているように感じられた。しかし、誠の心の中には、まだ何か解決されていない問題があることを、彼自身も薄々感じていた。
しばらく歩いていると、誠は大きな石碑の前にたどり着いた。石碑には古い文字が刻まれており、その文字は見覚えのないものであった。しかし、彼がその文字をじっと見つめると、不思議なことに意味が自然と頭の中に浮かび上がってきた。
「ここから先、記憶の迷路へ足を踏み入れる者は、己の過去と再び向き合うことになる。」と書かれていた。
「記憶の迷路…?」誠は石碑に書かれた言葉に戸惑いながらも、好奇心が抑えきれなかった。過去とはすでに向き合ったつもりでいたが、まだ何か見逃していることがあるのかもしれない。彼は再び深呼吸をし、決意を固めた。
「進むしかないな。」誠は自らを奮い立たせ、石碑の後ろに広がる迷路の入り口へと足を踏み入れた。
迷路の中は不気味なほど静かで、周囲には高い壁が立ち並んでいた。壁には蔦が絡まり、所々に古びた絵が描かれていた。誠は慎重に歩を進め、迷路の中を進んでいった。
歩き続けるうちに、誠の周囲の景色が次第に変化していった。壁に描かれた絵が、まるで動き出すかのように生き生きとしてきた。やがて、誠は一つの広場に出た。その広場の中央には、大きな鏡が立っていたが、今回はその鏡には何かが既に映し出されていた。
鏡の中には、誠の過去の記憶が映し出されていた。それは、彼がまだ幼い頃の出来事だった。誠はその映像に引き込まれるように、鏡を見つめ続けた。
そこに映っていたのは、幼い誠が家族と過ごしていた幸せな日々の光景だった。父親と母親に囲まれ、無邪気に笑っている自分。だが、映像は徐々に暗くなり、次第にその笑顔が消えていった。両親の顔が次第に曇り、やがて彼らが誠を置いてどこかへ去っていく光景が映し出された。
「そうだ…あの時、俺は…」誠は記憶の中の痛みを思い出しながら、鏡に映る光景を見つめ続けた。彼の両親は、何らかの事情で誠を残して家を去ったのだ。その瞬間、誠は深い孤独を感じ、それが彼の心の中に深く刻まれていた。
「これが、俺の…本当の記憶…」誠は涙をこらえながら、鏡に映る過去と向き合った。これまでの旅で彼が感じていた孤独や喪失感は、全てこの幼少期の記憶に根ざしていたことを悟った。
「俺は、ずっと…この痛みから逃げていたんだ…」誠は静かに呟いた。彼はこれまで、両親に捨てられたという感情を心の奥底に押し込め、それを見ないふりをして生きてきた。しかし、今ここでその記憶と向き合うことで、ようやくその重荷を下ろすことができたのだ。
「もう逃げない…」誠は自らに誓いを立て、鏡に映る過去の自分に別れを告げた。その瞬間、鏡は静かに砕け散り、広場の周囲が明るく輝き始めた。
「俺はもう、過去に囚われない…」誠は力強く言い放ち、新たな決意を胸に抱いて広場を後にした。
迷路の出口へと続く道を進む誠の心は、軽やかで晴れやかだった。過去の痛みと向き合い、それを乗り越えたことで、彼は本当の意味で自由になれたのだ。
出口にたどり着くと、目の前には広大な世界が広がっていた。その世界は無限の可能性に満ちており、誠はこれからの旅路に期待と希望を抱いていた。
「これが…俺の新しい世界だ…」誠は広がる景色を見渡し、未来へと続く道を歩み始めた。彼の旅はまだ終わらない。これからも続くその道には、新たな出会いや冒険が待っているだろう。しかし、誠はもう何も恐れない。過去の囚われから解放された今、彼は真の自由を手に入れたのだから。
第10話はここで終わります。誠は「記憶の迷路」を通じて、幼少期の痛みと向き合い、それを乗り越えることができました。過去の重荷を下ろした彼は、新たな世界で自由に生きる準備が整いました。物語は、誠のさらなる成長と冒険へと続きます。
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