6-4
ヤドカリってパンチとかするんだ。
場違いな感想を抱きつつ、私はルドの姿を見て、安心して泣きたくなってしまった。
「全然無事じゃ、ないよ……」
泣き言を言う私に、ルドはどこかホッとしたような様子で微笑む。
役目は終えたとばかりにヤドカリが貝の中にするりと入り込む。貝の部分が直接地面に接してから、ルドとマーナが貝の中から出てきた。
「遅くなりすみません。ちょっと研究所を一つ潰してきたものですから」
ルドがさらりと何か言った。
たぶん、さらりと一言で終わらせていいようなことではないことを、言った。
聞き返そうとする私を制して、ルドは呆れたようにひっくり返った巨大な黒トカゲを見上げる。
「あれは、カイテーという男の成れの果て、でしょうか?」
「ご、ごめんなさい」
「……なぜアルマが謝るのですか?」
私はカイテーがトカゲに変貌してしまうまでのことを説明した。
また魔法を使ってしまったこと。そのせいで様子がおかしかったサラマンダーの皮の義手が、ますますおかしくなってしまったこと。
ルドは私の話を聞いて、納得したようになるほどと呟く。
「アルマの魔法があったから、この程度で済んでいるんですね」
「えと、この程度って……」
「放っておいたらきっと、あの男は骨も残さず燃え尽きていたでしょうし、宿主を殺した義手は怨嗟をばらまいて辺り一帯に被害を出していたことでしょう。アルマの処置のおかげでかろうじて男の生命があったから、そこに精霊の怨嗟が憑りつき、あんな姿になったんですよ」
ルドは改めてまじまじとトカゲを見つめ、ちょっと面倒くさそうにため息を吐く。
トカゲは体を起こしはしたが、まだヤドカリパンチが効いているのか、動かない。
「テオフラストゥスの発明品にも困ったものですね。いい加減な知識、中途半端な技術でよくもまあこれだけ劣悪なものを……」
呆れ顔のルドを、巨大トカゲは憎しみのこもった目で見下している。
今にも襲い掛かって来そうな雰囲気だった。
「マーナさん、アルマと一緒に家の中へ避難してください」
軽い口調でルドが言う。
無言で私の手を取るマーナ。そういえば、さっきからマーナは何も喋っていない。マーナのその大人し過ぎる様子がちらりと気になったけれど、それよりも今はルドの方が気になる。
ルドなら何とかしてくれる、という気持ちと、さすがにこれは無理なんじゃないか、という気持ちが拮抗していた。
「ルド、どうするの?」
「水と土で火を弱めます。サラマンダーの影響が薄れれば、まあ、後はあの男が自力でどうとでもするでしょう」
なにも問題ありませんよ。いつも通りの、のんびりとした口調だった。
私は何と言っていいのかわからず口ごもり、それでも心配な気持ちが先だって、でも、とか、あの、とか、何かしらを言い募ろうとした。
それをマーナが無言で引っ張って止めてくる。
「大丈夫ですよ。マーナさんとお部屋に戻っていてください」
にっこり笑うルドに、手を握るマーナ。
私はしぶしぶ引き下がることにした。
「わかった。ルド、その、気を付けて」
「はい、気を付けますね」
ヤドカリハウスに入り、窓からルドの様子をうかがう。
ルドは何の気負いもなく、ただ軽く片手を上げた。するといきなり大地を割って水しぶきが上がり、それがトカゲに直撃する。
トカゲは水を浴びて鬱陶しそうに体をくねらせた。巨体が大きく動き、振り回したトカゲの手がルドのいる辺りに叩きつけられる。ルドは動かず、それを素早く作った土の壁で防御した。
水は湧き出し続け、トカゲとその周辺を水浸しにしていく。トカゲは鬱陶しそうにはしているが、それだけであんまり効果はなさそうに見える。
水は無視することにしたのか、身体を濡らしながらも、トカゲは正面からルドを見据えた。
その大きな口をカパッと開いたかと思うと、喉の奥がキラキラと瞬き始める。瞬きはあっという間に光の塊に成長して、大きな火の玉へ変化した。勢いをつけて吐き出すためか、トカゲが大きくのけぞる。
ルドはそのタイミングに合わせて、水浸しで泥となった地面を鞭のようにトカゲにからみつかせ、口を閉じさせるように縛り付けた。泥はそのまま量を増し、トカゲにまとわりつき、押し倒し、地に埋没させる。
あっという間の出来事で、気付いた時には、トカゲは地面の下へ埋められてしまっていた。
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