(16)首都高にて

日本政府からのお迎えのレクサスには、運転手はいなかった。

無人運転で、首都高を悠々と走って行く。

器用に車間距離を取りながらも、追い越しも適宜。

速度も法定速度ジャストながら、まったくストレスを感じさせない。


約1キロ先を、白い軽自動車が走って行く。

立花隼人の閉じていた目が開いた。

顏を右に向け、追い越し車線を見る。


青いポルシェが、猛スピードでレクサスを追い越して行く。


立花隼人は、青ポルシェを見て、松本華奈に声をかけた。

「取り締まらないのか?」

松本華奈は、ためらった。

「・・・専門の交通機動隊に任せます」

「決して、立花様は、対応なさらぬように」

(松本華奈は、原子力ロボットを、万が一にも首都高に立たせたくなかった)

(衝突事故が起こり、核爆発にでもなれば、首都圏は壊滅するのである)


立花隼人から、恐ろしい言葉が漏れた。

「走って止めることも可能だ」

(松本華奈は、全身が恐怖で震えた)

ただ、すぐに安心させた。

「レクサスから降りるようなヘマはしない」


青ポルシェが、不審な動きを始めた。

まず、大きな蛇行運転を始めた。

付近を走行中の車両は、危険を察知し、大きく車間距離を取った。


青ポルシェは、しだいに白の軽四に密着し始めた。

突然の急接近を何度も繰り返す。

急接近しながら、そのままゆっくりと追い越す。

ようやく離れたと思えば、突然停止。

あろうことか、バックもして来る。

(白の軽四は、何度も急停止を繰り返す)


立花隼人は、再び松本華奈に聞いた。

「あのアオリをどうする?」(厳しい声だった)

「いつ事故になっても不思議ではない」

松本華奈は、懸命にスマホを操作するが、苦し気な顏。

「後続車が事故渋滞です」

「おそらく、あの青ポルシェが絡んでいるようです」

「少し到着が遅れます」


立花隼人の目が光った。

「じゃあ、ここで対応するしかない」

「停めることとする」


松本華奈が「え?」と立花隼人の顏を見た直後から異変が起きた。

青ポルシェの動きが鈍った。

どんどん、他の車が追い越すようになった。

白の軽四も、無事に煽り運転から脱出し、視線から消えた。


立花隼人は、冷ややかな顏だ。

「ナンバーから青ポルシェのメインコンピューターを特定」

「そのまま侵入して、最高速度を50㌔に設定した」

「パワーハンドルも設定解除、ハンドルを回すのも、人間の力では苦しいはず」

「もうすぐ、路肩に停車するはずだ」


松本華奈は、立花隼人の冷ややかで美しい顔をじっと見た。

「本当は、それも犯罪」

「でも、大事故を防いだのも事実」

「逮捕しようにも、ロボットだし」

「刑務所なんて、簡単に壊す」

「しかし、このロボットを壊せば、地球が壊れるほどの、大被害」


自動運転のレクサスは、路肩の青ポルシェの後ろで停まった。

黒スーツの「いかにも極道」がスマホを手に出て来た。

「おいおい!何だ!てめえら!」


松本華奈が公安の身分を提示しても、全くひるむことはない。

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