第64話

「それではこれより、メリア様を皇女として王宮に迎え入れる記念式典を開催いたします」


司会の男がそう言葉を発すると、それと同時に集まった観衆からは大きな拍手が巻き起こり、会場の雰囲気は非常に良いものとなっていく。

そして同時に、それまで舞台のそでに控えていたメリアがそそくさと舞台上に姿を現し、全員からの注目を一身に集める。


「この度、エルク様とシュラフ様からの信認を頂き、王室にて皇女の立場を拝命することとなりました、メリア・レースです。この王宮に戻るのはハイデル様との関係の時以来ですので、いろいろと思われる方もいらっしゃることと思いますが、これからなにとぞよろしくお願いいたします」


メリアは非常に落ち着いた雰囲気で、それでいて品のある口調でそう言葉を発した。

同じ会場の場でその姿を見つめる者たちは、それぞれこう言葉を漏らした。


「なかなか様になってるじゃないか。まぁ元々ハイデルと婚約した時も雰囲気はかなり良かったから、当然と言えば当然か」

「それにしてもクリフォード様、本当によろしいのですか?」

「なんだ?俺に何か意見でもあるのか?」

「そ、そうではないのですが…。我々の騎士の城にメリア様がいた時を考えれば、なんだかかなり遠くにその存在が言ってしまわれたような気がしましてですね…。あのままならいつでもメリア様が我々騎士のそばにいてくれたような感覚だったのですが、さすがに皇女様とまでなられるともう雲の上の存在というか…」

「なんだ、何が言いたいんだ?」


いまひとつ何が言いたいのかはっきりしない部下の騎士の言葉に、クリフォードは若干語気を強める。

それを受け、部下の騎士は意を決した様子でこう言葉を発した。


「つ、つまりですね…メリア様の存在が遠くに行ってしまったことで、クリフォード様が寂しい思いをされてしまっているのではないかと思いまして…」

「…はぁ?」

「え??」


…クリフォードの反応は、そんなことの心配をしていたのかとでも言わんばかりの雰囲気だ。


「あのなぁ、もうメリアは俺と結ばれるという事で決まっているんだ。それなのにどうして寂しさを感じる必要がある?そもそもお前は昔から余計な事を心配しすぎなんだよ。この国で皇女となったメリアの事を守れる男など、この俺をおいて他には誰もいないじゃないか」

「な、なるほど…(す、すごい自信……)」


部下が感じた通り、クリフォードはかなりの自信をもって今日メリアの事を見つめていた。

それはもう、自分とメリアが結ばれることは誰からも公認の関係であるかのような…。

するとその時、それまで自分の席に控えていたエルクがその場を立ち上がり、そのままメリアの横まで歩み寄っていった。

彼はそのまま集まった人々の方に向きを変えると、こう言葉を告げた。


「さて、今日は俺の第一王子としての呼びかけに集まってくれてありがとう。メリアは今日から正式に我々王室への仲間入りを果たした。各々、彼女の事を誠心誠意支えるよう心せよ」

「「はい!!もちろんです!!」」


エルクの言葉に対して、会場中から今日一番の大きな声があげられる。


「メリアは、図太く、まっすぐだ。前の王子に比べれば格段にこの王宮は進化していくことだろう。ここには優秀な人材も多く揃っている。各々自分がやらなければならいことは十分理解しているな?」


貴族家の者たち、資産家の者たち、騎士たちなど、各界を代表する人物が集まっているこの会場。

それぞれに向けて発せられたその言葉を聞き、それぞれの人物はその場でうなずいてみせる。


「メリア、お前も同じだ。今まで通り、お前のやりたいようにやるがいい。誰に気を遣う必要はない。」

「はい。私、気を遣うの苦手ですので…」

「相手が俺でもそうなんだから、きっとどんな相手が出てきても問題ないだろう。期待している」

「はい、エルク様」


メリアへの言葉を告げ終えたエルクは、そのまま会場に向けてこう言葉を告げる。


「よし、それじゃあみんな食事に移ってくれ。今日は良い具材がそろえられたんだ。記念すべきこの日、腹を満腹にして帰ってくれたまえ」

「「うおおおお!!!!!」」


それまで会場に置かれていた色とりどりの食材、これまでそれに口をつけられないという判殺しの状態であったためか、エルクの言葉とともに会場に集まった者たちはいっせいに色めき立ち、そのまま料理の品定めに移っていく。


「さぁメリア、俺たちも。準備で腹が減って仕方がない」

「エルク様、こういう時はあいさつ回りが先ですよ?」

「い、良いじゃないかこういう時くらい。これは第一王子命令だ、食べるぞ」

「仕方ないですね……」


普段と変わらず図太さを見せるメリアだったものの、今日ばかりはエルクの言葉に素直に乗ることとしたのであった。

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