第50話
「なにやら面白い催しが開かれていると聞いて来てみたのだが…。立て込んでいる最中だったか?」
「「エ、エルク第一王子!?!?!?」」
突然その場に姿を現したのは他でもない、正真正銘この王国にて第一王子の座につけているエルク・クライス、その人であった。
第一王子らしいすさまじいオーラと威厳を放ち、その声はまさに聞くものの心を圧倒するような、絶大なる雰囲気を放っていく。
「エ、エルク様…!?ご、ご連絡いただければお迎えに上がりましたのに…!!」
そんな中でも最もこの場であたふたした雰囲気を発していたのは、同じ王子のイスに座るハイデルであった。
彼はそれまでの余裕そうな雰囲気のすべてを失い、完全に親に見つかった子どものような雰囲気になっていた。
「きょ、今日はどうされたのですか??急にお越しになられるとは、もしかこの第二王宮の人間の誰かが、エルク様のお気に触るようなことでもしてしまいましたか??」
ハイデルはエルクに頭が上がらない立場にあり、普段からもエルクの事を非常におそれている。
それはもう、彼と少し目を合わせるだけでその体の端から端までを震え上がらせるほどに…。
「ハイデル、貴様最近随分と楽しそうな事をやっているらしいじゃないか。話を聞くに、婚約者を一方的に切り捨てて幼馴染に乗り換えたり、騎士のやり方に口を出したり、果てはこのような対決の場など設けたりと」
「そそそそれはですね、全てこの王国のためにやったことなのです!僕が独善的に行ったわけではなく、最終的にはすべて王国の利となることを狙ってやったことなのです!」
さすがは頭の上がらない第一王子を前にしただけあり、ハイデルはエルクの機嫌を損ねないよう必死に取り繕い始める。
そしてそれはハイデルのみならず、この場にいる貴族たちや資産家たちも同じ反応を見せていた。
彼らのような、この国で強い立場と影響力を持つものをもってしても、エルクは非常に恐れ多い存在であるためだ。
…しかし、この場においてたった一人、エルクの事を恐れ多いとも何とも思っていない人物が存在した。
「エルク様、いきなり押し入ってくるのはやめてくださいって言いましたよね?みんながびっくりしてしまうじゃありませんか」
「メ、メリア……君は変わらず容赦ないな……」
エルクはメリアからかけられた言葉の前に、それまでの固い雰囲気を少し軟化させる。
そう、どんな状況においても物怖じしないメリアだけは、例え相手がエルクであろうとも何も気にすることなく言葉を発することができたのだった。
それは彼女がハイデルの婚約相手として王宮にいた時からずっとであり、今に始まった事ではないのだが、やはりそれでも周囲のものからすれば、特にハイデルからすれば恐ろしい事この上ない光景であった。
「俺は君のような人こそ、混沌としていた第二王宮を正すものとしてふさわしいと思っていたのだが…」
「エルク様まで!!その女に騙されてはなりません!その女はそうやって何人もの男たちの心をもてあそんできたのです!今回の一件の裏にも、メリアは関わっていたのです!」
たとえエルクの言葉であろうとも、ハイデルにとってそれだけはすんなりと受け入れるわけにはいかないものだった。
ゆえにハイデルは心の中で勇気を奮い立たせ、エルクの前に食い下がった。
…しかしエルクは、非常に冷静な雰囲気でこう言葉を返す。
「おいおいハイデル、俺の目には今第二王宮が混乱の真っただ中にあるのは、メリアを追い出したことに端を発しているように思われるのだが?」
「そ、それは……たまたま偶然と言いますか、そのように時期が重なってしまっただけと言いますか…」
…その言い訳が見苦しいものであるのは、ハイデル自身も理解しているところであった。
しかしここでメリアを追い出した自分に非があるという事を認めることは、その苦しい言い訳をしてでも防がなければならいことだった…。
するとエルクは気が変わったのか、そのまま視線をフューゲルの方に向けると、ややきょとんとした表情を浮かべるフューゲルに向けて明るい口調でこう言葉をかけた。
「あぁ、そういえばフューゲル君、だったな。対決見させてもらった。非常に良い頭を持っているな」
「あ、ありがとうございます…。まさかエルク様にご覧になっていただいていたとは、恐縮です」
「そうかしこまらなくてもいいさ。さて、君はメリアの事を慕っているんだったか?」
ハイデルとメリアが婚約関係にあった時、エルクから見ればメリアはかわいい妹という存在だった。
今だに彼女のことを気にかけている様子から察するに、その思いは当時のまま変わってはいないのだろう。
「はい、その通りです」
「そうか…。しかし、これはなかなか難しいことになってしまったなぁ…」
「…難しいというのは、ハイデル様がメリア様の今後の婚約を禁止してしまったためですか?」
そのルールは今だ生きている。
ハイデル自身がルールの撤回を表明しない限り、いつまでも。
フューゲルにとっても、クリフォードにとっても、メリア自身にとっても非常に厄介なそのルール。
…しかし、その影響を受けない者がここに、一人…!
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