第43話
「それではここに、タイラント様とフューゲル様の有する能力の優劣を決したいことと思います」
この場における司会者らしき人物が、二人に対して高らかにそう言葉を告げる。
彼はタイラントの味方でもフューゲルの味方でもないため、今回の一件の裏で何が起こっているのかを知らない。
ゆえにその内心では、やはりフューゲルが圧倒するものであろうと確信していた。
「(今日は休みの日だったのですが…。しかしまぁハイデル様直々のご命令とあればやらないわけにもいきません…。結果は誰の目にも明らかなわけですから、これほど見るに退屈な勝負もないのですが、暇つぶしくらいにはなってくれることを祈ります…)」
司会の男は心の中にそう言葉をつぶやいたが、その思いはハイデルも全く同じところだった。
ハイデルは二人の様子を遠目に見つめながら、その心の中にこう言葉をつぶやく。
「(何も問題はないはずだ…。すべては予定通りのはずだ…。普通に考えればフューゲル君の勝利で間違いないはずなのだ…。なのに、タイラントの奴どうしてあんなに余裕そうなのだ…)」
ハイデルはフューゲルに対する圧倒的な信頼感を抱きながらも、タイラントに対する若干の不安感を隠せない。
しかし不気味な感覚を抱いているからと言っても、この場で勝負を取りやめにするわけにもいかない。
ハイデルはただ黙って事の成り行きを見守るほかなかった。
「では、詳しい内容を説明させていただきます。とは言っても、内容自体は非常にシンプルです。これからお二人のもとにAという数字とBという数字ををお配りいたします。お二人は様々な演算処理及び解析を組み合わせて、Aという数字をBという数字に数的変換してください。先に数的処理に成功した方を勝利といたします」
「ほぅ」
「……」
待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべるタイラントに対し、しばし無言を貫くフューゲル。
そんなフューゲルに対し、タイラントは脅しをかけるかのようにこう言葉をかけた。
「数的処理は基礎中の基礎だからなぁ。ここで仕事をするにはまず必須と言えるスキルだ。フューゲル様、どうか遠慮などなく全力でかかってきていただこうか。この僕が直々に王宮の何たるかを教えて差し上げますので♪」
相手の事を煽るようないやらしい口調で発せられたその言葉は、普通に聞けばただの宣戦布告のように聞き取れる。
しかしその裏には、もしもここで全力を出して自分を倒すような事をしたのなら、その時はメリアがどうなっても知らないぞという事を暗に示していた。
フューゲルは当然タイラントの言いたいことを理解しているため、特にその言葉に対して反抗するような様子も見せず、素直にその言葉を受け入れていた。
「もちろんですよタイラント様。なにとぞお手柔らかに」
「あぁ、こちらこそ♪」
互いにそう言葉を交わした後、司会の男から開始の合図が発せられ、二人はそのまま与えられた課題に取り掛かっていった。
――――
…
……
………
2人が黙々と解析を行っている姿を見て、ハイデルはその心の中に不穏な思いを抱き始めた。
「(やはりおかしい…。ここから二人の姿を見ているだけでも、明らかにフューゲル君の進みが遅い…。一方でタイラントの方はなにやらスムーズに解析が行えている様子…。こ、このままでは本当にタイラントがフューゲル君を下してしまうのではないか…??)」
そう、二人が課題に取り掛かってからというもの、その進捗具合は誰の目にも明らかにタイラントの方が進んでいた。
次第にその事には他の見学者たちも気づき始め、じわじわと小さな動揺が少しづつ広がっていく…。
「お、おいおい…このままじゃもしかしたらタイラントの方が先にクリアするんじゃないのか…?」
「それって、タイラントの頭脳がフューゲル様を上回ったって事か…??」
「やばいぞこれは…。番狂わせも番狂わせじゃないか…!このまま決着したらタイラントの奴、王宮の中でかなり大きな影響力を持つことになるんじゃないのか…??」
「それだけじゃないかも…。もし本当にそんな結末になったなら、あれだけフューゲル様の事を推してきたハイデル様の立場がかなり悪くなるかもしれない…」
集められた権力者たちの会話は非常に小声だったが、その内容は確かにタイラント自身の耳にも届いていた…。
「(よしよしよし…。皆が僕の力の前に驚きの表情を浮かべているのが手に取るように分かるぞ…。このまま計画通り僕がフューゲルを上回ったなら、間違いなく王宮の中における勢力図は入れ替わる…!これからは僕の時代が訪れることになるだろう…!)」
ウッキウキな様子で引き続き課題にかかるタイラント。
そんな彼に対し、期待を集めるフューゲルはそんなものどこ吹く風といった様子で自身の手をとどめていた。
「(わざと負けるというのも難しいな…。ちょっと本気になったらすぐクリアできそうな課題だから、あんまり手を進めるわけにもいかないし…。かといってあんまり何もしなさ過ぎたら、わざと負けたっていうのがバレるし…。うーん…)」
互いの思惑が複雑にうごめきあう中、この場における決着は予想外の方向に向かっていくこととなるのであった…。
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