第6話
「さて、それでは皆様お待たせいたせいたしました!これより、本日の主役であらせられますハイデル第二王子様とその妃、アリッサ様の入場でございます!」
参加者の人々が各々の式典の楽しみ方をしていた最中、大きな声で司会の人間がそう言葉を発した。
その直後、会場に設けられていた灯りのすべてが一点に向けられ、否が応でもその光の先に注目させられる状態となる。
そしてそんな光に包まれながら、二人の人物がその場に姿を現した。
「いやいや、みんな今日は来てくれてどうもありがとう。今日は本当にめでたいひだ。どうか僕たちの幸せを少しでも持ち帰ってくれたまえ」
派手という言葉だけでは足らないほど金色に輝く衣装で全身を覆い尽くし、一体どこで手に入れたのかと考えさせられる非常に大きな王冠を頭につけた状態のハイデルがその場に現れ、集まった人々に向けて高らかにそう言葉を発した。
そしてそんな彼の横で、同じく非常に派手な姿をしている人物がもう一人。
「皆様にご紹介しよう。今日をもって正真正銘、この僕の妻となることが決まったアリッサ妃だ」
「よろしくお願いいたします」
ハイデルの言葉に導かれ、アリッサはその場で丁寧に会釈を行い、集まった人々へのあいさつを行った。
「ついに…ついに第二王子であるこの僕の婚約相手が決まったのだ!これまで色々な女たちが、僕に選ばれるべくいろいろな手を使って接近してきた。しかしその誰も僕の心を動かすことはなく、妃のイスは空席のままだった。しかしそのイスに座るにふさわしい者が今日、ついに決まったのだ!この僕ハイデルの人生において、これほど素晴らしい日は他にはない!まさに僕の人生の中で最上の日であろう!そしてそれは、集まってくれた者たちもまた同じ思いであると確信している!そうだな!」
ハイデルはそう言葉を発すると、集まった人々に向けて突然言葉を投げかけた。
…そんなことを想定していなかった観衆たちは互いにきょろきょろと周囲を見回し、一瞬沈黙の時間が流れたものの、すかさず一人の男が自身の手で盛大に拍手を行った。
パチパチパチパチ!!!!!
「その通りでございます!」
大きな声を上げながら先んじて拍手を行った人物は、他でもない、ハイデルの
…ハイデルにとって正真正銘の部下である彼が先んじて拍手を行う行為は、周囲からサクラだと馬鹿にされても不思議ではない行為であったものの、この場でそのようなことを口にできる人間がいるはずもなく、結局彼の拍手に追随するかのように他の参加者たちも続けて拍手を行い、最後には非常に大きな拍手の音で会場は満たされた。
「みんなありがとう!ありがとう!僕の幸せを自分の事のように喜んでくれる皆は、僕の宝物だ!やはり僕と皆は一心同体の関係である!それを今、確信させてもらった!」
そして当のハイデルはタイラントに持ち上げられていることに気づかず、ただただその機嫌を良いものとしていた。
その裏で、タイラントは自身の懐から小さな手帳を取り出すと、その中になにやら”名前”を書き込み始める…。
「(あの場で拍手をしていなかった、という事にしてグレーム侯爵とラナー男爵令嬢を厳罰に処すよう後からハイデル様に掛け合おう…。グレーム侯爵は何度娘を私のもとによこせと言っても従わず、反抗的な態度を示し続けた。ラナー男爵令嬢は私からのダンスパーティーの誘いを断って自身の思い人との予定を選んだ。…いずれも厳罰に処されても仕方のない者たち、無い罪を着せられたところで文句を言う資格などない…♪)」
タイラントはここでもメリアに対して行ったものと同じ手口を使い、自身が快く思っていない人物を蹴散らすべく計画を立てていた。
…それはとても許されるような行いではないが、当のハイデルが彼の事を心から気に入ってしまっている以上、その行いを阻止できる人物はこの王宮には一人も存在していなかった。
本来であれば、その役目をメリアが担うべく周囲からは期待されていたのであったが、そのわずかな救いの可能性さえも彼は自ら葬ってしまったのだった…。
「(私の進言をハイデル様は必ず受け入れる…。私に言われたことを彼は全く疑いなどしないからだ。まぁそれは逆に言えば、奴らがどれだけハイデル様から信頼されていないかの裏返しでもあるのだが…。しかしその方がこちらにとってはありがたい。おかげでこの王宮を私の色に染めていくことができるのだから…♪)」
不気味な笑みを浮かべながら、取り出した手帳をゆっくりとその懐に戻すタイラント。
彼自身、完全に自分の狙い通りに事を運ぶことができていると理解していたものの、そんな彼の事を敵対的な表情を浮かべながら見つめる人物が一人、いた。
「(タイラント……王宮をあなたの自由になんてさせないわよ…。私はもう正式にハイデル様の婚約者、第二王子の妃となった存在。今まではあなたの方が私よりも上の立場だったけれど、今はそうではないわ。完全に私の方があなたよりも上の存在になったのだから、これから先はもうあなたの狙い通りにはさせないから)」
王宮はまた一歩、混沌の世界に向けてその足を踏みだすこととなったのだった…。
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