第28話 名前をつけてあげたい

良し、とりあえず話を元に戻そう。ずれた議論を元に戻すのは得意だ。そのやり方は強引だと専務に良く責められたが。

どうするかって?聞こえなかったフリだ。


「えっと、ぷらねさん。私は周りの評価で人を決めつけてはいけないと、思うんです。ましてや暗黒時代?に彼らは生きていない。彼らがやったわけでもない罪を、彼らに償えと言うのはおかしな話です。人は想像できる生き物です。相手の気持ちに寄り添い、許す気持ちを持つべきだと私は思うんです」


「………………」


「組織にいる以上、上からの理不尽な命令に従わざることだってあるでしょう?彼らの先祖もそうだったのでは?そもそもふぇんりるさんもされ、無理やり戦わされていたんでしょう?悪いのはそのした人でしょう?ふぇんりるさんも辛かったはずです。きっとふぇんりるさんの部下(?)であるるぅ・がるぅ族の人々(?)だって同じはずです。戦犯は主導者にあり、その下の人間に問うのは間違っています。そう思いませんか?」


一生懸命に説得しよう。ぷらねさんなら分かってくれる。そう信じているから。

ぷらねさんは悩んでいる。

犬の女性は、涙をぬぐっている。

イケメン犬耳の男の子は、こぶしを握り締めている。

紗枝ちゃんは……「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な~?」――って言ってる。実にマイペースだ。


そんな空気が流れる中、ぷらねさんが息を呑んだ。


「チャタロー様はいつも革新的な考えをされますね」

「そうでしょうか?割と普通だと思いますが……」

「いいえ、以前もなぜ、魔物と戦うのかと仰っていました。今回もそれと同じです。私は皆が口々に人狼ルー・ガルー族は許されざる一族だと言うので、そういうものだと思っていました。許してはいけないのだと。だが、もし逆の立場だと想像すると、生きていくのが辛いでしょう。悪いのはフェンリル様をテイムした人間なのに、どうしてこれほどまでに彼らを憎んでいたのか……改めて考えるととても不思議です」


「そうですよね。許すことは大事です。ラブ&ピースが私のモットーです。理解して頂いて嬉しいです」


なんて平和にまとめているけど、本当にこの世界の人は不思議だ。

なんと言うか、皆が裏表がない。考え方に深みがないというと失礼だけど、そんな感じ。

さっきの悪人も、人のものを盗んで売ることに罪悪感はもっていないようだった。まぁ、元の世界にもそういう人間はいたが、それは少数派だ。それは悪いことだと普通の人は分かっているのに。


だが、昔は違っただろう。私の祖父母の時代は、教育も満足に受けられない子供が多かったと言う。現に祖母は自分の名前しか書けなかった。日本が戦争を仕掛け、自分たちが食うに困っても、それを主導したした人間たちが悪だと想像すらしていなかった。


幸い今の日本は教育水準も高く、整っている。誰もがある程度の基礎教育は受けられるのだ。

だが世界を見ると違う。そういった国々は残念ながら思考を奪われ、戦いに駆り出される国民もいるのだろう。


この世界の人々もそうなのではないだろうか。善悪の判断を他人にゆだね、自分で考えない。

結果、ていむされ世界を蹂躙したふぇんりるさんは哀れな被害者で、それに付き従った、るぅ・がるぅ族は悪人となった。誰かが広めた言葉が彼らの人生を台無しにした。なんて気の毒なのだろうか。


「では早速彼らに名前をつけようかと」

「名付け親になられると?……確かにそれは良いかも知れませんね。チャタロー様の加護を授けられます」


ん?かご?なんだろう。ただ名前をつけるだけなのに……。


名前付きネームドになるんだぁ。茶太郎にカッコいい名前つけてもらってね。あのね、茶太郎は私がつけた名前なんだよ。初めはチョコレートみたいな色で、美味しそうだったからチョコにしようかと思ったの。でもなんか違うなぁ。なんかかわいい名前はイメージじゃないなぁって思ったから、茶太郎にしたんだよ?良い名前でしょ?だから茶太郎も良い名前をつけてあげてね」


紗枝ちゃんの情報量が多い。ねーむど?ってなに?

ただ名前をつけるだけなのに、なんだかみんなして期待の目を向けるから怖くなる。


だけどふたりを見て、名前をつけてっていう文字を見て、記憶にある名前が浮上した。

それは幼少期の私の聖書バイブル


教育熱心な私の両親は漫画やアニメを見ることを許さなかった。だけど活字は許された。図書館通いは歓迎された。

そして何度も繰り返し読んだシートン動物記。その中で溢れそうになる涙を我慢した狼王ロボの話。


この2匹はあのような悲劇を歩んで欲しくない。

あの2匹のような寂しい最後を迎えて欲しくない。

できればいつまでも仲良く暮らして欲しい。


「ビアンカとロボです!」

私が発表したと同時にふたりが眩く光出した。眩しくて目を開けてられない!


「ええ〜、センスない〜」と言う声が聞こえたが、無視することにした。

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