俺もラブコメしてみたいです

千早古

第1話 遭遇したみたいです

7月中旬、夏休みに入りかけの東北では最高気温30度越えの非常事態を記録した。


「溶ける……マジそんなに暑くてどうすんだよ」

 

 夏暑くて冬寒い、夏に溶けて冬に固まれとでもいうのか。危険な暑さで死人が出たら転生してスライムにでもなれというのか。

 教室前のデカいストーブとってエアコン導入してくれ教育員会。通学率爆上がりするぞ多分。知らんけど。


「よくもまあ、こんな中でスポーツしてるもんだ」


 二階の教室に続く廊下には窓の外から運動部の青春を謳歌する声が届く。

 なんとなくで進学した白旗しろき高校1年の夏。

 中学からの同級生が他クラスでよろしくやってる中、話しかけようにも一人で行くメンタルもなく。


「は……、いかんいかん。スマホ忘れただけでナイーブになってる面倒なとこだぞ。俺」


 気を取り直して教室の扉に手をかけ少し開け、


「好きです!よかったら俺と付き合ってください!」


 慌てて手を放す。まさかお取込み中だとは。


「……夏休みを控え猛者たちが充実させんと全力少年しているところ、嫌いじゃないぞ」


 男の方は良く分からなかったが、女子の方は知ってる顔だった。

 となりの席の澤村さわむら明李あかりだ。黒髪ショートに校則違反の右耳にピアス。スポーツテストで、1・2を争っていたというとんでも美少女だ。


「ご武運を」


 拱手きょうしを捧げる。

 ただ出来るだけなる早で頼む。俺が干からびる前に決着をつけてくれ。


「あー、その気持ちはうれしいんだけど。ストー」


 ~♪


「げ」


「ん?」

「私じゃないし」


「俺のです。すいません」


「あ、弥彦やひこ。もう!めっちゃ連投してたのに無視とか酷くない?電話もでないし」

「なるほど、把握した」


 俺のスマホを鳴らしてたのはコイツですね。


「とりあえずそれ切って。今、お取り込み中だから」

「取り込み中ってなんだよー」


 言われるままスマホをタップする不動ふどうりん

 女の子なら美少女間違いない中性的な顔立ちに、本人は気にしているらしいハネ毛が特徴の幼なじみ。


「ええい近い離れよ暑い」

「またまたー……あっつ」


 腕を組むダル絡み。


「あっついなら止めような?」


 それは突然訪れた。

 教室の扉が開かれ、腕を引かれる。


「うぇ?」

「え?なになに?」


 そして引かれるがまま教室に、


「私、長倉くんと付き合ってるから……え?」

「え」

「え、そうなの!?」


 名前覚えてくれてたんですね!じゃなくて、


「そ!そんな!そんなやつのどこがいいんだよ!俺は一途にずっと君を見てきたんだよ?」

「それ、ストーカーじゃん。全何倍もマシだし!」


 ストーカー……だと?


「そんな、そんなの僕の知ってる明李ちゃんじゃない!」


 くいくいと引く不動に耳を貸す。


「ちょ、ちょっと弥彦どゆこと?」

「残念ながら俺にもさっぱりだ」

「把握したっていってたじゃん」


 無茶言うな。


「とにかく、勇気出して告白してくれたのは嬉しかったけど。こういうのはもう止めて」


 どういうのだ?俺にも教えてくれ。


「するわけないだろ!このビッチめ!」

「ビッ!?」


 捨て台詞を残し鞄を持って飛び出していく男子生徒。

 残された美少女と凡人と幼なじみ。


「……とりあえず。何があったんだ?」


「ストーカーにビッチて……」


「おーい澤村さん?」

「え?あぁ、ゴメンね、なんか巻き込んじゃって」


 ショックが大きかったらしい。

 とは言え、離れなくても良いんだよ澤村さん。


「とりあえずお前は離れろ。暑いんだから」

「はいはい」


 自分の机からスマホを取り出す。

 取り敢えず今日の戦果は授業中にスマホなんてみるもんじゃないということだな。


「で、何があったの?」

「あー、実はね……」


 澤村曰く。


「ここ最近、と言っても1週間ぐらいなんだけど。家を出てから帰るまでね。ずっと誰かの視線を感じててさ、ちょっと気を付けてたんだよね」


「まぁ、モテるもんね明李あかりちゃん」

「だな。うっかり惚れそうになるくらいかわいいし、男女問わず人気があるしな」


「め、面と向かって言われると照れるね。んん、それはさておいて。今日、メッセで教室に呼び出されて来てみたらアイツがいて。『澤村さん彼氏いないよね?』って」


「え?もしかして、それって」


「まぁ、いないけど?って返したら『良かった。。僕、澤村さんに言いたいことがあって』って。で、告白されたんだけど」


「いやいや、さっきのやつじゃん!?」

「えぇ……」


「その時、たまたま扉開いて。ちらっと長倉くんが見えたから。悪いかなぁとも思ったけど、告白の現場見られてるし。まぁ、その、ごめんね。巻き込んじゃって」


「あ、いや。俺は全然良いんだけど。澤村さんの方がね」


 人生最後に女子に触れた記録が更新されたので。


「あ、ううん、私の方は気にしなくていいよ。こういうの慣れてるから。て、ヤバ!顧問来ちゃうから、また明日ね!」


「え?あぁ……」

「じゃあ、また明日ー」


 なんだ、琳に言ってたのか。


「じゃあ、また明日ー」

「ちょ!今日は部活ある日だよ。サボらせないよ?」

「ちぃ……」


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