第21話長女side
私には兄が二人いるけれど、長兄は可愛らしい。
それは次兄も同意見のようで。
「本当に、可愛いよね。兄上は」
「ええ、お母様に似たんですわ」
常々思うけれど、七人いる兄弟姉妹の中で唯一母に似ているのが長兄だったりする。
これを長兄に言うと首を横に振って否定するでしょうが。
まあ、長兄の容貌は父にそっくりなので否定しているのでしょう。
私は中身の話しをしていますのに……。
お母様に比べたら恋愛関係は鈍くはありませんが、それでも長兄は天然なところがありますから。
それは兄弟姉妹が見ても分かるくらいに。
「兄上は、母上に似ているからね。僕も心配なんだよ」
困った顔をする次兄。
けれど私は騙されません。
次兄が長兄にくる見合い話を潰していることは知っています。
「だからと言って、こう潰していくのは宜しくありませんわ」
「……噂になってはいない筈だけど?」
「ええ、お兄様が秘かに潰していた令嬢方は軒並み他国に嫁がしましたからね」
「良い縁組だと、双方、喜んでいただろう?」
「それは結果としてでしょう。まったく」
「ああいう手合いは徹底的に潰しておかないといけない。それはよく分かっているだろう?だから、あの王女と共に留学させた。違うかい?」
「……」
察しの良い次兄には、私の考えなどお見通し。
だって仕方ありません。
邪魔だったんですもの。
今回は偶然、お互いの意見と利害が一致したから協力しただけ。
長兄は兄弟姉妹が仲が良いと思っているようですが、実際のところは少し違う。
私は家族を大事にしますが、それはお母様や長兄が基準。
次兄もそう。
きっと、他の兄弟姉妹も同じでしょう。
「それにね、兄上は自覚していないけど、結構モテるんだ」
「……知っていますわ」
「知っている?本当に?」
「ええ」
「……」
「……」
お互いに見つめ合って無言になる。
だって仕方がないでしょう。
顔良し、性格良し、家柄財力あり。
ただでさえ、公爵家の跡取りである長兄は優良物件です。
そしてそんな長兄を狙う令嬢も後を絶たない。
それは昔からのことで……。
「僕だってね。いい人なら別に構わないんだよ。でもね、流石に女狐や女豹はね。遠慮したい」
「それは……そうですわね」
「だろう?」
お互いに長兄の将来を心配しているのです。
だから協力もしますし、牽制もします。
だって、大事な長兄なのですから。
モテるのも考えもの。
特に長兄は厄介な女性に好かれやすいようで……。
「彼女達も喜んで婚姻したようだし。双方の国にメリットがある婚姻は、国益にかなうからね」
「それは、そうですわね。なにしろ、彼の国は女性が極端に少ないですから」
「数十年前に起きた事件が、原因なんだっけ?」
「ええ」
「あちらの国も気の毒に。まあ、おかしな女っていうのは何処にでもいるし、いつ誕生するのかは誰にも分からないしね。それが国の女王になってから本性を現した。まあ、自業自得かな」
「そうですわね」
遠方の国ですから、彼の国の事情にそこまで詳しい訳ではありません。
しかも、私達が生まれる前に起こった出来事ですから更に、といったところなのでしょう。
女性の数が減ってしまった国。
それはそうでしょう。
悋気の女王の目に留まれば否応なく、死んだ方がマシな目にあわされるんですから。
幾ら生まれ育った国と言えども、命を賭けてまで居ようとは思わないでしょう。
貴族から平民と、身分に関係なく逃げた女性は数知れず。
「そういえば、王女……じゃなかった王子妃が懐妊したらしい」
「あらあら、もう?おめでたいことですわ」
「王子妃の侍女達もそれぞれ懐妊したらしいしね。おめでた続きだ」
ニヤリと笑う次兄は、本当に人が悪い。
王子妃となった我が国の王女殿下。
彼女付きの侍女の大半はこの国の貴族令嬢。
王女と共に留学してその先で婚姻した者達。
知らないって幸せだわ。
一妻一夫制の我が国と違い、彼の国は一妻一夫制。
あちらの国の事情が事情だからそれも致し方ないのでしょう。
「まあ、おめでたいことですし、王女殿下もお幸せそうでなによりですわ」
「そうだね」
次兄も私も、彼の国の事情に首を突っ込むつもりはありません。
だってそれは私達の仕事ではありませんもの。
外交官達の顔色が悪かったけれど、お父様が釘を指したのでしょうね。
大人しくなったのが何よりの証拠。
多少のことは目をつぶらなくては。
我が国にデメリットはありませんし、そう思えばこそ。
「祝いの品を贈らなくてはなりませんわね」
「手配は済んでいるよ」
流石はお兄様。
仕事が早いこと。
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