第3話紹介された令嬢1

 私が王都のメイナード公爵邸を訪ねると、クルトは見知らぬ令嬢を同伴していた。




「ああ、ソーニャ。彼女はメイナード公爵家の寄子貴族、ヴァルター男爵家の令嬢なんだ。社交界シーズンは王都の公爵家に滞在することが決まったから、案内をしているんだ」


「では、彼女は今年社交界デビューをされますのね?」


「そうなんだ。王都は初めてでね。ソーニャも気にかけてやってほしい」


「ええ、わかりましたわ。私はブルクハルト伯爵家のソーニャ・ブルクハルトですわ。よろしくお願い致しますね」


「あ、あの!私……は……」


 クルトの陰に隠れるように立っていた彼女は、おどおどとしながら名乗った。


「お‥‥‥お初に……お目に掛かります。メイナード公爵家の寄子貴族で……ヴァルター男爵家の娘、ミリーゼと申します」


 上手く挨拶ができなかったことを恥じたのか、頬を赤く染めた彼女は、クルトの後ろに隠れて、クルトの服の裾を握りしめている。

 ふんわりとした蜂蜜色の髪に、クルトと同じ若草色の瞳。

 愛らしい顔立ちは庇護欲をそそられる。


 私と同じ十六歳だという。

 年齢よりも言動が幼いせいか、幼く見える。


「すまない。ミリーゼは人見知りなんだ。マナーは一通りできているだが……」


「こういうのは慣れですからね。気にしていませんわ」


「ありがとう、ソーニャ」


 クルトはほっとしたように笑った。

 未だに俯いたままのヴァルター男爵令嬢がどんな表情をしているのかはわからなかった。

 ただ、クルトの服を握りしめたままなのが気にかかる。

 彼も彼で、そんなヴァルター男爵令嬢の行動を気にする風でもなく、普通にしている。

 ……気にしているのは私だけ?

 寄子貴族の令嬢なのは確かだろう。

 社交界のシーズン中、寄親貴族の屋敷に滞在するケースは多い。

 それでもこんなに親しく接するかしら?

 屋敷の案内なんてメイドにやらせるものでは?

 案内をするにしても、私が訪ねてくる前に済ませているべきものだ。

 先触れを出した意味がないのでは?


「今日は忙しいようですから、私はお邪魔いたしますわ」


「ああ、すまない。また」


「ええ、また。ミリーゼ嬢もごきげんよう」


「……は……はい。ごきげん……よう」


 消え入りそうな声。

 クルトはそんな彼女を優しくエスコートしていた。

 それがとても自然で、違和感がなかったことが引っかかった。

 今までクルトから女性を紹介されたことなどなかったのに……。

 それから暫くして、二人は『秘密の恋人たち』だと社交界で噂になった。


 クルトは「領地が近いから幼馴染なんだ。友人だよ」と否定したが、私を含め、それを信じる者は一人としていない。クルトが否定すればするほど、噂は真実味を増していく。


 



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