【完結】友人と言うけれど・・・

つくも茄子

第1話婚約者1

 賑やかなパーティー会場と違い、外の庭園は人気がない。

 会場から流れ聞こえる音楽に合わせて二組のカップルが月明りの中、踊っていた。


「ソーニャ、いいのかい?あれを放っておいて」


「構わないわ。一応、義務は果たし終えているもの」


「義務ねぇ。果たした、とは言い難いと思うが?」


「会場でのエスコート、ファーストダンスのお相手。義務としては充分だわ」


「なるほどね」



 詩の一説にでてきそうな。

 観劇の舞台を観るかのように私達はバルコニーから、二人を眺めていた。

 月明りの下で踊るカップルのうち、一人が私、ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢の婚約者だからだ。


 シャンパン片手に観ている私は観客に他ならない。


「ソーニャも苦労するね」


「ローレンスには負けるわ。その後はどうなの?見つかった?」


「残念ながら見つからないね。まあ、近衛兵ですら見つけ出せてないんだ。もう見つからないのでは?」


 飄々としている彼は、私の幼馴染だ。

 ローレンス・ブラッドフォード。

 ブラッドフォード公爵家の嫡男にして、王女殿下の元婚約者……元花婿と言うべきかしら?


 くいッとシャンパンを飲み干すローレンスは、一ヶ月前に王女と婚礼をあげた。

 そう、式をあげたにも拘わらず、花嫁は結婚式場に現れなかった。

 一枚の置手紙を残して、自身の護衛騎士と駆け落ちした。


『探さないでください。私は真実の愛に生きていきます』


 と、いう置手紙を残して。


「もう国にはいないのかしら?」


「さぁ?王女殿下に他国との伝手があるとは思えないけどね」


「なら、護衛の方に?」


「それも定かじゃないね。なにしろ、一人じゃないから」


「複数人だったわね、確か」


「お盛んだよね」


 呆れてため息しかでない。

 ローレンスと王女の婚礼は、民衆も楽しみにしていた。

「お似合いの二人だ」「とても絵になる」と祝福される中、執り行われたのだ。

 なのに……どうしてこうなったのだろう?


 美しい王女は民衆に人気があり、その相手として選ばれたローレンスも人気があった。

 その王女の人気は複数の男性との駆け落ちで地に落ちてしまったけれど……。


「一人に絞っておけば良かったのに」


 そうすれば『真実の愛』とやらを宣伝できただろう。王家が。

 複数人との愛、となれば話しは違ってくる。


「一人に絞らなかった、の間違いでしょ。……まあ、案外上手くいってるんじゃないかな?」


「一人の女性を共有する愛って何かしら?」


「一人の男を共有する王家に生まれたんだ。逆でもおかしくないって発想なんじゃない」


「ああ……なるほど」


 別の意味で納得できる。

 王家だけは一夫多妻制。

 王女が普通の価値を理解できなくても仕方ない。

 もっとも、王家も好きで一夫多妻にしているわけじゃない。

 直系の血を絶やさないための処置なのだけれど……。



「で?ソーニャはどうするんだい?」


「どうって?」


「このまま、クルト・メイナードの妻になるのかい?」


「そういわれてもね。この婚約が王命なのはローレンスも知っているでしょう」


「僕の婚約も王命だったけど、このザマだ。王家に訴えかけても大丈夫だと思うよ?」


「憶測で物を言わないで欲しいわ」


「いや、憶測じゃないよ。王家は今、僕の家に慰謝料と賠償金を支払って金に困っているからね。ブルクハルト伯爵家がこの婚約に異議申し立てをすれば、嬉々として応じるはずだよ」


「……それって、お金次第って聞こえるわ」


「まあね。現実問題、王家に金はない。言うなら今だよ」


「……考えておくわ」


「そう、ならいい。……僕はそろそろ行くよ」


「あら?もう?」


「うん、ちょっとね。またね、ソーニャ」


 ひらりと手を振ってローレンスは室内に戻って行った。

 私はその背中を見送ってから、バルコニーに寄りかかると夜空を見上げた。


「……真実の愛ねぇ……」


 そんなのがあるのかしら?と私は一人ごちたのだった。



 



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