第29話 前世で武神と呼ばれた男、力の使い方を教える②

 まず、俺はハッカ、ソリス、シェナ、シアドの四人に『体内エネルギー』の感じ取り方を教えることにした。


 俺はシェナの腕を掴んで、彼女の眠っている『体内エネルギー』を無理やり引き出した。


「感じるか? これが『体内エネルギー』だ」


「感じます……『魔力』は血管のように全身を巡っているのですけど、『体内エネルギー』は皮膚の裏に流れているような感覚ですの」


「この感覚を覚えておいてほしい」


 その後、俺は他の三人にも同じように『体内エネルギー』を無理やり引き出し、自力でエネルギーを感じとれるようになるまで皆を見守った。


「――大体、皆、いい感じだな。今日はここまでだ」


 今日の訓練は朝から続いており、もう日も暮れようとしていた。


 微かながらも四人共、『体内エネルギー』を感じとれるようになっていた。


 その次の日には体に『体内エネルギー』を纏わせる方法を実演してみせた。


「今、俺がエネルギー纏ってるの分かる?」


 俺が問いかけると四人共、頷いた。


「じゃあ、ハッカ君、俺が用意した煉瓦を投げたまえ」


「急に君付けしてくんな」


 ハッカは悪態をつきながら煉瓦を拾う。


「そいっ!」


 そして、遠慮なく煉瓦を投げた。


 ドンッ!


 煉瓦は俺の顔面に当たると、鈍い音を立てて割れて地面へと落ちた。


「「「おお~」」」


 皆、煉瓦が割れたことで驚嘆していた。


「このように、『体内エネルギー』を纏うことで体が硬化される。ちなみに俺は遙か上空から落ちても無傷だ」


「人間離れしてるのですね……」


 シェナは俺の発言に何故か引いていた。


「まぁ、いきなり俺ぐらいになれとは言わない。今みたいに皆に煉瓦ぶつけるから、それを無傷で受けれるぐらいになってくれ……どうしたんだ? 皆、青ざめた顔で首をぶんぶん横に振って」


 煉瓦を投げられるのが嫌なのか?


「あの……」


 シアドが申し訳なさそうに手を挙げて、喋り出す。


「ヒューゴ君が煉瓦ぶつけてくるのは本当に怖いので僕らで色々、物を投げ合って訓練したいんだけど」


 俺にビビってたらしい。


 その後、俺は皆の訓練を見守るのに退屈してしまったので、屋敷の屋根の上で逆立ちをした。


 その日は逆立ちをしたまま日が暮れてしまった。


 食卓へ行くと、皆、食事を進めている。


 長机の上に白いテーブルクロスが敷いてあり、豪華な食事が並んでいた。長机の奥には領主であるエドゥアルドが座っている。


「訓練終わったら俺に話しかけて欲しかったのだが……」


 俺が尻すぼみに発言すると、ソリスが応じる。


「ヒュー君探そうとしたらどこにもいなかった」


「ああ、屋根の上で一〇時間ぐらいずっと逆立ちしてたから」


 すると、スープを飲んでいたハッカが「ゴホッ、ゴホッ」と、むせたあと口を開く。


「人ん家の屋根の上で何してんだよ!」


「ついね、そこに屋根があったから」


「何言ってんだこいつ」


 その様子にシアドとシェナはクスクスと笑った。


「ゴホン……」


 エドゥアルドが咳ばらいをすると皆、口を噤んだ。もちろん俺もだ。


「ヒューゴよ。訓練の方は順調か?」


「ええ、思った以上に順調です」


「そうかそうか、シアドとシェナを強くしてもらうことはラゴール家にとって重要なことだ。君には感謝しているよ、それに君達が来てから屋敷は賑やかだ。色んな意味で別れを惜しんでしまうな」


「じゃあ、この家にハッカを置いときます」


 ハッカの背後に立った俺は彼の両肩に手を置いた。


「人を物扱いするな」


 ハッカが俺に突っ込むと食卓にいる者達は声を上げて笑っていた。

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