第6話 前世が武神と呼ばれた男、絡まれる
俺に近づいてきた男女は二人共、黒髪だった。
女の方はウェーブがかかったロングヘア。前髪を青いピンで掻き分けていた。鋭い目付きをしていて気が強そうだ。男の方はショートヘアで左耳に黒いイヤリングを付けていた。冷めた目をしていて冷静沈着そうだ。二人共貴族風の服を着ている。
「貴方、『無職』なんですの……ぷぷぷ」
女は俺の前にやってきて口を押えて笑っていた。男はふっと鼻を鳴らす。
「おいあの二人はルゴ家の者では?」
「きっとそうだ!」
ルゴ家とか知らんが、周りの反応からして貴族には違いない。
「ヒュー君、どうしたの?」
心配そうな顔をしたソリスとハッカが駆け寄ってくる。
「分からん。多分、この人達が『無職』の俺をスカウトしにきたんだ」
「そうだったんだ~良かったね~」
「そんなわけないですの!」
どうやら違うらしい。
女は俺を睨んだあとソリスとハッカを見て口を開く。
「あら、貴方達は『錬金姫』と『雷帝』の職業を授かった人達ではないですの? 将来は私達ルゴ家に仕えるのはどうかしら?」
「ルゴ家ってなんだ」
「『無職』のゴミは黙ってなさい」
なんか怒られた。
「おい、ヒューゴ耳を貸せ」
ハッカが俺の肩をとんとんと叩くので彼の話を聞くことにした。
「こいつらはおそらく男爵の地位を持つ貴族の子供だ。ルゴ家ってのは聞いたことがある。下手なことをすれば身に覚えのない罪を押し付けられて捕まるぞ。確か女の方はヒルダ・ルゴと言ってルゴ家の嫡女だ。そして男はヒルダの弟のへロルフだ」
「脱獄すればいいのでは?」
「脱獄していいわけなだろ……」
俺達がひそひそ話をしていると。へロルフが口を挟む。
「お前達は平民だ。だが職業のおかげで俺達の恩恵に預かることができる。どうだ俺の家に仕えないか?」
彼は上から目線の物言いだった。
「いや、オレはいいかな」
「私も遠慮します」
「ふんっ、解せんな」
ハッカとソリスがスカウトを断ると、へロルフは不満そうだった。
「俺もその恩恵受けれる?」
思ったことを聞いてみた。
「さすがに『無職』は無理だ。勝手に過ごせ、お前みたいな奴に話かけられると反吐が出る」
へロルフはイライラしているようだ。
「ぷぷぷっ、神に見放された存在というのは頭も足りてないようですの。こんな奴と付き合ってる貴方達の気が知れない……こんな人達誘う意味ないですの。行きましょうへロルフ」
「分かった」
ルゴ家の兄妹は身を翻して、その場を去る。
すると、ハッカが舌打ちをして悪態を吐いた。
「偉そうな奴らだ。ヒューゴあんな奴らに腹を立てるなよ」
「怒るわけないない。だってさ、俺にはハッカとソリスがいるから」
「ヒューゴ!」
「ヒュー君!」
ハッカとソリスは俺の言葉で感激しているようだった。
「オマエが気にしてないならいいさ、さて、今日のところは一晩泊って村に帰ろう」
「分かった、その前にやることがある」
「やること? おい! ヒューゴ! どこに行く!」
俺はその場を離れて駆け出す。
そして――背中を見せたヒルダとへロルフにドロップキックをかました。二人は豪快に前のめりに転ぶと、周りにいる人たちが悲鳴を上げた。「あいつ貴族に手を出しやがったぞ!」、「馬鹿な奴だ!」と言って騒いでいた。
「言ってることとやってることが違うじゃんかよ!!」
後ろからハッカが慌てるような声が聞こえた。
思わずついつい蹴りたくなったので攻撃してしまった。本気で蹴ったら多分、地平線の彼方まで吹っ飛ぶか体がバラけそうなのでちょんと蹴ってやった。
「な、な、何しやがるのですの!! こいつ! 『無職』の癖に!」
こめかみに青筋を立てたヒルダは服の内側から白い手袋を投げつけてきた。
さすがの俺も白い手袋を投げつけてくる意味は分かる。
「決闘! 貴方に決闘を挑みます」
ヒルダに決闘を申し込まれてしまった。
「分かった、受けよう! その決闘を」
「ヒュー君なんであんなことしたの!?」
決闘の申し込みを呑むとさすがのソリスも俺の行動を問い詰めていた。
「俺と一緒にいるハッカとソリスも馬鹿にされてたからな。それが許せなかった」
「ヒュー君……」
ソリスは口を噤んでしまった。
「まっ、大丈夫だって、ポップコーンでも食べながら決闘見といてて」
さてと、魔物以外と戦うのは初めてかもしれないな。この時代の人間はどんな技を繰り出すのだろうか。楽しみだな。
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