戦乱闘劇:イクサバ・アスラは修羅道を征く~天上に届け、天下に轟け!世界を救う戦場の歌!修羅と呼ばれた少女の伝説。ここに開幕!~

ココカラ ハジメ

The Show Must Go On

プロローグ 開幕!戦乱闘劇ッ !


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 古風な劇場で開演の準備をする女性の元に子どもたちが近づいてきた。



『ん?君たちもう来たの?開演の時間はまだ先だよ?』


『待ちきれなかった?アスラの話が早く聞きたいって?』


『しょうがないなぁ。君たちしかお客さんがいないけど少し語ろうか』


『ん、んっ。あーあーテステス。よし、声の調子はOK』


『むかーし、むかし……ってそこまで昔じゃないか』


『え?もっとテンポよく話せ?最近の子はせっかちだね~』


『じゃ、気を取り直して』


『これから語るのはただの女の子が必死に生きた物語』


数多あまたの【境界ボーダー】を越え、数多の世界を渡り、数多の人を救い』


『みんなの希望をその小さな身体に背負い、星になった』


『そんな彼女が運命に抗い闘い抜いた。笑いあり、涙ありの英雄譚』



『さあ、始めようか――――イクサバ・アスラの物語を!』



『天上に届け、天下に轟け!世界を救う戦場いくさばの歌!』



『【修羅戦乱闘劇】!第一幕、【修羅の修羅による修羅のための戦場】!』


 .

『修羅と呼ばれた少女の伝説、ここに開幕!』




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『あれ?アスラはなにをしてたんでしたっけ?』



 かつては栄華を誇っていただろう朽ちた街並み。

 建物を侵食するように生える『星光を秘めた煌めく鉱石』。

 連続する崩壊を告げる音。

 危険に満ちた異界の景色。


 それを宙に浮いた少女――――戦葉イクサバアスラが見下ろしていた。



『あれ?あれ?なんでアスラはこんな高いところで浮いているんです?それになんか体が透けて――――』



 ドッゴォォォォォォンッ!!!



 ひと際大きな音が彼女の思考を妨げる。

 音のする方向に目を向けるとそこには――――



『うわぁ…………なんかこわいのがいます』



「――――ァァ、ガァァッアアァァァァアァァァァッ!!!」



 の放った衝撃で倒壊していく建物。

 が足蹴にする

 は天に向かい吠えているところだ。


 はボロボロになった全身を覆う強化防護服パワードスーツを纏っていた。

 しかし、その強化防護服パワードスーツの動力はとうに切れており、装着する意味のない重りにしかなっていない。

 しかし、装着者はそれを脱ぐ考えすら思いつかないほど狂乱してた。


 そして、強化防護服パワードスーツの力に耐えられないくらい限界に来ていた。


『こっわぁ……――――ん?あの強化防護服パワードスーツは見覚えがありますね。なんか思い出しそう――――』



 ――――アスラはやればできるんだから、もう少し頑張れ。



『ッ!?』


 彼女は声が聞こえた気がしてバッと周りを見回す。誰もいない。

 いるのは眼下の恐ろしいだけだ。


『え?いまのは――――』



 ――――また訓練さぼってんのか?嬢ちゃんは丁寧な口調だけど真面目ってわけじゃないよな。



『また、聞こえて――――』



 ――――まあ気持ちは分かるがな。こんな精鋭とは名ばかりの不良部隊に補充要員で配属されて不貞腐れる気持ちは。


 ――――しかも最前線にね。『』は高くても練度は足りてないみたいだし、若すぎる…………こんな年端もいかない女の子を戦場に出さないといけないくらい本国は追い詰められてるのか…………


 ――――不甲斐ない大人たちでゴメンな。君みたいな子どもの未来を守るために僕たちは戦ってるのに。



『あ……やまらないでくだ……さい』



 震える口でその声に応える。

 



『アスラをひとりにしないでください…………』



 ――――ん?ヤバくなったらどうするかって?そりゃあ決まってんだろ。さっさと逃げんだよ。俺たちは臆病者だからな!はっはっは!



『うそつき…………誰よりも勇敢でした。――――最期まで』


 記憶が少しづつ繋がっていく。

 聞こえてくる幻聴は彼女が過去に交わした会話。

 それは大切な仲間たちとの思い出。

 逃げずに勇敢に戦い、散った。もう会えない人たちとの記憶だった。

 その事実に胸が締め付けられ、涙が頬を伝う。



 ――――ああ……ありがとな。頼み聞いてくれて…………やっぱ、嬢ちゃんは歌がうまいなぁ…………こんな戦場じゃなくて……平和な……世界で聞きたかっ…………た……な……



『歌いますッ。いくらでも歌うから……だから…………ッ!』



 いかないでッ。置いていかないでッ。

 嗚咽で言葉にならない声を心の中で叫ぶ。


『――――ぐす、ひっく。これってもしかして走馬灯みたいなものでしょうか?アスラはもう死んでいて、今の際に見ている夢なのでしょうか…………』


 自分の姿を確認する。

 その姿は透けており、手のひらを空にかざす。

 手は透過してその向こうにある異界の空――――『極光に輝く空』が見える。

 彼女はそういった体質ではないので結論はひとつ。



 自分は死んだ――――それが彼女の導き出した答えだ。



 悲嘆はない。むしろ納得した。

 彼女がいる場所はいつ散ってもおかしくない過酷な戦場だった。

 数多の勇士が護国のため命を捧げた場所だ。

 『自分の番がまわってきただけ。やっとみんなの元にいける』

 そう彼女は心の中で呟く。


 

 ――――撤退?退かねぇよ……退けねえんだよッ!!!こっから後ろはオレたちの世界だ!通したらされるぞッ!【境界ボーダー】も封鎖できねえ!


 ――――故郷を守りたいヤツは覚悟を決めろッ!思い浮かべろッ、家族の、恋人の、友人の、大事なヤツの顔をッ!そいつらの明日を、未来を繋ぐ為にここで命を燃やし尽くせッ!


 ――――【境界ボーダー】を封鎖するまで死守だッ!!!死んだとしても守り抜け!!!最終防衛線はここだ!!!



『ッ!?そうだッ!?【境界ボーダー】はッ!?最終防衛線はッ!?』



 幻聴の声で思い出した最優先事項。

 それは、彼女の故郷である世界と異世界を繋ぐ【境界ボーダー】を封鎖するまでの死守。

 それが彼女に与えられた使命だった。

 


 慌てて【境界ボーダー】がある方向を見る。

 そこには――――


『あ、ああ……そんな――――』


 立ち昇る黒煙と火群ほむら

 高く積まれた骸の山。

 墓標のように並ぶあるじを失った武装。

 かつては前線基地だった残骸跡。


 地獄のような光景だった。


 奥には渦巻く巨大な空間の歪みがある。

 それが【境界ボーダー】。彼岸と此岸を繋ぐさかいだ。


 最悪の想像が浮かぶ。

 侵攻された――――蹂躙される故郷の光景を幻視した。


 圧倒的に絶望的な状況でも最悪は更新される。

 さらに怪物の群れが【境界ボーダー】に向かっていた。

 戦闘が続き疲弊した故郷が抑えきれないほどの大群だ。



『やめてくださいッ!!!そっちにいかないで下さいッ!!!』



 手を伸ばすが、いまの彼女に止めるすべはない。



『お願いッ!!!やめてッ!!!』



 悲痛な叫びをあげるが、いまの彼女の声は届かない。



『やめろッ…………』



 怪物たちは【境界ボーダー】目前まで迫り――――



『いくなあああああああああああッ!!!』



 ドッガアアアアアアアアアァァァァァァァァンッ!!!



 轟音とともに地面が爆ぜ、怪物たちを吹き飛ばした。



『……………………え?』



 彼女はなにが起こったのか分からず、目をパチパチさせる。

 舞い上がった土煙が晴れ、爆心地の中心にひとつの影が見えた。

 それは最初に目撃したボロい強化防護服パワードスーツを纏った怖い人だ。



「ウルアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」



 怪物を威嚇するように咆哮したその姿に彼女は目を開いて固まる。

 怖かったからではない。

 限界を迎えて剥がれ落ちていく強化服の下を見たから。

 そこから現れたのは――――



『え?アスラです?』



 自分と同じ顔の修羅だ。

 というか彼女自身である。


『え?え?え~~~?』


 自分が二人いる訳の分からない状況にハテナがいくつも浮かぶ。

 彼女は混乱してる間にも残った怪物たちは動き始める。



 怪物たちの狙いは【境界ボーダー】の先にある世界へ渡る事。

 修羅かのじょの使命は【境界ボーダー】の先にある世界を守る事。

 互いに譲るつもりはなく。睨み合い。

 そして――――



 果て無き闘争が始まった。



 ▼



『それから――――ん?アスラが二人いるのはなんでかって?』


『それは先の話で語られるよ。慌てない慌てない』


『じゃ、続けるね』


『――――アスラが再び表舞台に戻るまで百年もの長い月日が掛かりました』


『そんな気の遠くなる時間を異界にたったひとり残された少女は』


『闘って、闘って、闘い続けました。その身を異界に侵食おかされながら』


『故郷を守るため。未来を繋ぐため。【境界ボーダー】を閉じられてからもずっと』


『彼女が過ごした時代ははるか遠くに去り。未来の世界は激変していました』


『元の世界に戻れたのは偶然が重なったから。奇跡のような偶然が』



『そして――――運命と出会うことが出来たから』



 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 本日、3話同時公開します。

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