第13話 出発


「……まぁ落ち着け。気持ちは分かるが今はどうにもならん。その怒りは然るべき時が来るまで取っておけ」


 激怒する私を冷静に諫めるエタン。

 流石は眼鏡を掛けているだけあって冷静さがダンチだ。

 確かに彼の言うとおり……悔しいが今はどうすることもできない。

 今の私にできることといえば、みんなをイリアさんの元へ連れて行くことだけ。

 だがその前に、先程エタンから聞いたティナちゃんの家族構成と各人の特徴を再確認のため私なりにまとめてみた。



 父親『ディアモンド』凄く偉い人。けど優柔不断。

 母親『ルビーア』派手好き。しかも強欲。

 長兄『サフィアス』紳士。でも女好き。

 長姉『エメラルダ』派手好き2号。あと面食い。

 次兄『アレクサンドル』陰険。そのうえ陰キャ。

 三兄『トパジオス』マザコン。そしてロリコン。

 天使『ティナ』最高に可愛い! 天使しか勝たん!



 改めて考えると碌なやついないなぁ……って、やっぱ納得いかない! なんでティナちゃんだけ宝石に因んだ名前じゃないの!? 私が蹴り飛ばす相手は父親!? それとも母親!? はたまたどっちも!? てか、どうせならティナちゃん以外の奴ら全員を蹴り飛ばしてやりたいよ!!


 再確認のつもりが怒りのボルテージを更に跳ね上げる結果となり、何かでこの鬱憤を晴らねば気が収まらぬ状態となったため、あ゙ーも゙ーっ! こうなったらひたすら武器を造ってやる!! と苛立ちつつ思い立ち、「早く行こ!!」と怒り口調で皆を急かした。


「なぁおい、なんであんなキレてんだ? アイツ」


「さぁな。余程腹に据えかねているのではないか?」


「ふーん、よく分かんねぇやつ。……あっ、まさか生r──」


「──そこ煩い! くっちゃべってる暇があったらさっさと動く!」


「ひぃ!?(×2)」


 急かしたにも拘らずフェルムとエタンがコソコソと何かを喋っていたので一喝すると、二人は慌ててリュックを背負い、駆け足で玄関へと向かった。


 先に外へ出た二人は周囲を警戒。異常がないことを確認してから私たちに合図を送る。

 因みに刺客の姿もないらしく、恐らくは住人の餌食となったのだろう。可哀想だが自業自得だ。


 数時間ぶりの外。雲一つない空を見上げて少しだけ気が晴れた。

 でもやっぱり武器造りで憂さ晴らしを……ううん、単純に武器を造りたいだけかも。だって、私は武器職人なんだから。

 それにさ、今なら昨日よりもっと上手く造れる気がするんだ。根拠はないけど、確かに。


 こうして謎の自信を得た私は四人の仲間、そして一人の家族と共にイリアさんとレオが待つ工房へと歩みだした。

 尤も、普通に街中を移動するだけなので魔物は出ずのうえに例の刺客も既にやっつけてあるため特段気にすることもないのだが。

 とはいえ、気になることはある。それは進化した手裏剣と弓の能力アビリティについて。

 十六人もの刺客を倒せたのもきっと能力を使ったからに違いない。


 うーん、もし仮に魔物か刺客が出てきてくれたら能力を見れたりするのかなぁ……いやいや、不謹慎すぎるから今のはナシで! と考え事をしつつ首を横に振っていたところ、この奇行とも取れる姿を見ていたフェルムから急に話しかけられることに。


「なぁ、さっきから何してんだ? ひょっとして気になることでもあんのか?」


「ふぇっ!? あぁ、うん、なんか能力アビリティってのを見てみたいなぁって。えへへ……」


「はぁ……なんだそんなことかよ」


「──ッ!? そそっ、そんなことだとぉ!?」


 フェルムの言い草にカチンときて、やっぱコイツ嫌い! と強く思い直し、武器が能力を得たという事実がどれだけあり得ないことなのかを捲し立てるように喋りだした……が、当のコイツはその話を完全に無視。それどころかエタンとプラータに声をかけるなり話し始める始末。


「あい──をみてぇ──ねぇか?」


「ふむ──やりたい──かしいな」


「おれ──きなくも──どくさい」


 会話がよく聞き取れないので内容はさっぱり分からず。

 だがそれよりも、無視されたことで腹立たしさではなく寂しさと悲しさに苛まれ、自分でも驚くほど落ち込んでは無意識に呟く。「幾ら私のことが嫌いだからって、何も無視することないのに……」と。


 初めての出逢いが最悪だったし、こうなるのも当然かぁ……はぁ……と後悔のため息を吐いてすぐ、いつの間にか隣に来ていたプラータが驚きの一言を告げる。


「ねぇ、めんどくさいけど見せてあげる」


 ……ん? 見せる? 何を? ……はっ! まさかち○ちん!? ──って、そんなわけないかぁ。それじゃあ一体何を……あっ。


 この時、全てを理解した。

 プラータが何を見せようとしているのか、何故急に見せようとしてきたのか、その答えは私とフェルムのやり取りにあったのだ。

 そう気づくと、よく聞き取れなかったはずの会話の内容もまるでパズルの如く次々と当て嵌まっていく。



【アイツが武器の能力見てぇっつってんだけどよ、なんとかなんねぇか?】


【ふむ……見せてやりたいのは山々だが、私の場合は標的がないと難しいな】


【俺はまぁ、できなくもないけど……うーん、正直めんどくさい】



 ……うん、こんな感じ。

 それ以降は落ち込んでいたので全く分からぬが、最終的にはプラータが能力アビリティを見せてくれるかたちで落ち着いたのだろうと推測される。


「そっかぁ……えへへっ、そっかそっかぁ」


 フェルムに嫌われていないことを知り、またそれ以上に私のことを気に掛けてくれていた事実につい頬が緩んでしまうと、先程まで落ち込んでいたのが嘘のように心が弾み、そのままの勢いで「是非っ!」とプラータに返答した。


「ふふっ、よかったですね……フェルム。もしもお姉様の瞳から涙が零れていたら、即刻貴方を亡き者にするところでした」


 突如聞こえてきた天使の告白により、フェルムのみならずみんなの顔が真っ青となる。


 ひぇっ!? こっ、これって聞こえないフリの方がいいの!? ねぇどうなの!? と内心ドギマギしていると、私が敢えて取らずにいた作戦〝別の話題〟をプラータが取ってきたため、その勇気を讃えて作戦に乗ることにした。


「あーそーいえばー、能力を見せるんだったー、キミも早く見たいよねー」


「下手クソかよ……じゃなくてそだねー、私早く見たいなー、あー見たくて見たくて堪らないなー」


「はぁ、そうなのですね……?」


「くっ、殺せ!」


「えっ!? 何故です!?」


 だってだって、自分の芝居が壊滅的に下手クソだったの忘れてたんだもん! うわぁぁぁ〜ん!


 ……とまぁ、そんなこんなで精神的ダメージを負いながらもスラム街を抜け出し、人通りのない場所に着いてから芝居どおり手裏剣の能力アビリティ『風遁』をプラータに披露してもらう運びとなった。

 因みに捕らえていた二人の刺客は逃がしてあげたみたいで、それを後で聞いてホッとしたのを覚えている。殺生ダメ絶対。


「はぁ……仕方ない。じゃ、いくよ」


 ため息を吐き、面倒がりながらも素早く〝印〟を結ぶプラータ。


 うん、めっちゃ器用だねキミ。

 なんて思っている間に〝印〟を結び終えたプラータが「風遁……疾風の早駆け」と小声で術名を唱えた。すると……



「ひゃっ!? えっ、なにっ!? もしかして風を纏ってるのコレっ!?」


 急に柔らかな風が全身を覆い、不思議な浮遊感に思わずビックリ。

 その拍子に周りを見ると、どうやらみんなも風を纏ったらしく、各々が私と同様の反応を見せる。

 初めての感覚に戸惑いつつも、溢れ出す好奇心には逆らえずに一歩を踏み出s──


 ──軽っ! 何コレ軽っ! あり得ないくらい軽いんですけど!?


 あまりの軽さに一歩どころか走りだす私。

 それも風を切って……いや違う、風になりきっての全力疾走で。


「あははははっ!! 私は風よ! 風になったのよ!」


 好奇心が溢れすぎて最早自分が何を口走っているのかすらも分からぬ状態ではあるものの、ただ唯一分かることといえば疾走中は常に追い風ブーストが掛かるということ。

 これなら身体の負担や疲労も少なく済むし、何よりめっちゃ速く走れて気持ちがいい。ランニング好きの私にはもってこいのやつだ。



 ……結局、そのままランニングハイに突入した私は工房の近くまで独り走り続けてしまい……──

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