第9話 事情と家族と紹介と
「……お姉様? 一体どうなされたので──いえ、妹である
名探偵ばりに得意げな表情で問いかけてきたティナちゃんに対し、更なる動揺を見せてしまう私。目が泳ぎすぎて最早痛い。
別に隠す必要はないのだろうが、今のイリアさんにこれ以上の心労を掛けてはいけないと即座に考えてのこの動揺。
そんなわけでティナちゃんたちには悪いけど、ここは誤魔化すしか──
「──お願いいたします、お姉様。どうか
「──ッ!? ティナちゃん……」
先程とは打って変わってあまりにも真剣な表情。
それに、なんて真っ直ぐで澄んだ瞳をしているのだろう。
もしここで誤魔化したりすれば、その瞬間から私はこの
だから正直に話すことにしたよ……これからもずっと姉で居続けたいから。
「……分かった。みんなでイリアさんのとこへ行こっか」
「──!! はい!」
……とまぁ、そんな感じでみんなを連れてイリアさんの元へ帰ることとなった……が、その前に互いの事情を共有するために話し合いを続けることにした。
因みに提案者は私。だって、理由も分からず連れて行くわけにはいかないもの。
「そ、それは……いえ、仰るとおりです。寧ろその提案は
「ううん、大丈夫っ! 私は全っ然気にしてないよ! それより教えてもらえる? どうしてイリアさんに会いたいのかをさ」
「はい……実は──」
ティナちゃんの話によると、現在彼女の家では家督の後継者争いをしており、ここ最近でより一層激化してきたので元々深い親交のあったイリアさんに助力を求めるため会いに来たらしい。
本来ならまだ動くつもりはなかったのだが、兄姉から刺客が送られてくるようになったことから動かざるを得ない状況へと変わり、ひと先ずはこのスラム街で身を隠しながらイリアさんに会う機会を窺っていた、とのこと。
その話を聞いて合点がいった。
あの時、チャラ男が往復ビンタで男Gを起こした理由……それは、男Gが兄姉から送られてきた刺客か否かを確認するためだ。
でも結果はシロだったのだろう、すぐに男Gを解放して私たちの所へ戻ってきたのだから。
ただその後に「くくくっ、あの野郎めっちゃションベン臭ぇwきっと俺にビビって漏らしたんだぜ?」とチャラ男が笑いながら自慢げに話してきた時は流石に二人して焦ったけど。
「なるほどねぇ……うん、みんなの事情はよく分かったよ! あとスッキリした! ……じゃあ、次は私が話す番だ」
先程までの和かな笑顔から一転、私は真顔で〝ある事情〟を話し始める。
その内容は〝今のイリアさんは心の病によって体調を崩しているためこれ以上の心労を掛けたくない〟というもの。
続けて、病の原因や復讐については伏せつつ「そういうことだから助力を得られるか分からないよ?」とだけ伝えた。
「……そうでしたか……あのイリア様が……ふぅ、気になることはございますが承知いたしました。そちらで結構です。もし助力が不得の際はまた別の方法を考えますので問題ございません」
「そっか……なんかごめんね?」
私が謝ることではないのだが、それでも何故か謝りたかった。その理由は多分、イリアさんやレオのことを家族のように思っているからだろう。
そう……たとえ出逢ったばかりでも、たとえ血は繋がっていなくても、二人──ううん、三人は私にとって大切な人であり家族なんだ。
「い、いえ、お姉様が謝ることでは──」
「──ううん、イリアさんは家族だから……といっても自称だけどね。へへっ」
「家族……羨ましい限りです。
「……無理だね」
「えっ? そ、そんな……何故そのような──」
「──だってもうなってるでしょ? 私の妹にさ。だから他の人と家族になるのはお姉ちゃんが許しません!」
「──ッ!! お姉様ぁぁぁ〜っ!!」
ティナちゃんは余程嬉しかったのか、涙を流しながら笑顔で私に抱きついてきた。それもギューっと力いっぱい。ヤバい……幸せすぎるぅ!
そんな幸せ絶頂のなか、複数の視線にふと気づいたので顔を上げてみると、目の前で大の男三人が私たちを見て泣いていた。嬉しそうに「よかった、よかった」とか言いながら。
しかも後ろからは「グスッ、グスッ」って音まで聞こえてくるし……なんなの? この泣き虫どもは。
「はぁ、折角の幸せタイムだったのになぁ……まっ、しゃあないか!」
皆ティナちゃんを想っているからこそだと割り切り、やれやれと思いながらも下半身に伝わる柔らかな感触と心地よい温もりを味わうことにした……って、これじゃあ私っ、ただの変態じゃない!?
唐突に気づいてしまった真理に愕然としていたところ、ティナちゃんは透かさず顔を見上げて「……お姉様、もしや何かおありですか?」と私の異変に感づいたかの如く言動を見せる。
慌てて誤魔化そうとした私は「ななっ、なんでもないよ!? ……そっ、そうだ! みんなのこと知りたいから紹介してほしいなぁ〜、なんてね!」と余計なことを口走ってしまい、結果的にはどうにか誤魔化せたものの男たちを紹介してもらう展開に。ナンデコウナッタ?
「それでは、出発前に紹介をさせていただきますね?」
急遽、ティナちゃん仕切りのもと男従者四人の紹介が始まった。
先ず一人目は、緑髪に切れ長の鋭い目が特徴的な筆頭従者『エタン』
いつも冷静で地頭が良く思考の回転も速いので参謀的な立ち位置ではあるが、実は弓術の使い手で〝先読み撃ち〟を得意とする。トレードマークは特注のインテリ眼鏡。
次に二人目は、茶髪に2
頭を使う仕事はさっぱりだが戦闘ともなれば
続いて三人目は、白髪に童顔のなんだかのほほんとした空気を醸し出す癒し系従者『プラータ』
普段は気だるそうにしているが暗躍する際は別人の如く俊敏に動く。トレードマーク……ではなく、チャームポイントは左目の斜め下にある3つの小さな泣きぼくろ。
更に四人目は、知ってのとおり赤髪に数多のピアスを付けた従者らしからぬ格好のチンピラ従者『フェルム』
喧嘩っ早くてなんでも拳で解決しようとする知性の欠片もない男だが、一方では義理堅く仲間想いの優しい一面を持っている……らしい。トレードマークはお気に入りのサムライヘア。
「最後に五人目ですが、名はラ──あ……」
「……ラ? 五人目?」
この場にはいない五人目を口にしたティナちゃん。
話の途中で何かを思い出すと、「いえ、なんでもございません……四人目で最後でした」と何やら不自然に紹介を終わらせた。
今の感じから〝訳あり〟だと察した私は、何か情報を得られればと従者四人の顔を窺ってみる。
……うん、やっぱり訳ありだ。明らかに暗い顔してるもん、みんな。
四人とも戸惑いながら何かを思い出してる……ううん、何かを思い出したからこそ戸惑ってるんだ、きっと。
そんな彼らの姿に、これ以上踏み込んではいけない気がしたので「そっかぁ、てっきり私にだけ見えない五人目でもいるのかと思ったよぉ。あはは……」と苦し紛れの冗談を言ってみた。
すると、一斉に私を見るなりみんなの口元に力が入る。
あ、あれぇ……? 私っ、余計なこと言っちゃった!? と冷や汗を掻き始めたその時、急にチャラ男が「はははっ! なんだよ見えない五人目って幽霊かよ! ガキじゃあるまいし!」と言ってまさかの大笑い。
その笑いを皮切りに、みんなも笑いだしたことで暗い顔は鳴りを潜め、それ以降は明るい雰囲気で出発準備に取り掛かることができた。
「はぁ〜、よかったぁ……まっ、結果オーライってやつかな!」
……されど、心の中にしこりができてしまった。〝五人目の従者〟という大きなしこりが……──
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