第31話 虫がつかぬうちに

 結婚式の衣装について急遽打ち合わせすることになり、

わたしがモンテローザとマリアに相談していた。


そのタイミングでカルロ様が訪ねて来た。

婚礼に向けて動き出したと聞いて、カルロ様は驚きのご様子だ。


「ふぅん、そうなんだ。それは、それは、おめでとうございます。

でも、随分と急な話だね」


「カルロ、君みたいな虫が付かないように、急ごうと思ったので」


「僕、虫かぁ。ひどい言われようだなぁ」


侯爵はわたしとカルロ様を会わせようとしない。


「モニカさん、ここから下がってくれますか」


「はい」


モンテローザとマリアも気を利かせてくれる。


「お嬢様、厨房で料理の下準備をいたしましょう」



エントランスホールはすでに険悪な空気が流れている。


「で? 僕をここから追い出したいわけ?」


「そうは言ってません」


モンテローザたちと厨房へ行こうとするわたしの後ろ姿を見て、カルロ様が声をかけてきた。


「モニカ、畑の作り方を教えてくれてありがとう。

今日はお礼を言いに来ただけなんだ。

ありがとうな。楽しかったよ」


「……ロレンツィオ様、カルロ様にご挨拶だけでもよろしいですか?」


侯爵は厳しい顔をしていたが、「挨拶だけなら」と言って、カルロ様の前に出ることを承諾してくれた。


「こちらこそ、ありがとうございます。おかげで畑が増えてとても助かりました」


「なんだかな。モニカにもうちょっと積極的になればよかったな。

ってか、もうすでに、モニカの心の中にはロリーがいたし。

全然、僕なんか入り込む余裕なんてなかったよ、ロリー。

ロリーはいい婚約者を見つけたね。おめでとう」


「ありがとう。君との友情にひびが入るのは、わたしも避けたい」


「あ~あ、モニカと出会う順番が、僕が先だったらよかったのに」


「先に出会っていても、わたしはロレンツィオ様を好きになったと思います」


侯爵が照れて、「えっと……」なんて言いながら、首筋をかいた。

カルロ様はその様子を見て、


「言われちゃった。これ、完敗じゃん。本当に愛してなければこんな事言えないよ。

ロリー、モニカを幸せにしろよ。

モニカ、こいつがいじめたらいつでも僕のところへおいで」


「いじめはしません!」


侯爵が全否定するとカルロ様は笑った。


「こいつ、面倒くさいやつだからさ、誤解されやすいけど、

よろしく頼むよ、モニカ」


「はい、心得ております」


「モニカさん、わたしは面倒くさいですか」


「前にも、言いました。もうお忘れですか」


カルロ様は笑いながら仲裁に入った。


「はい、はい、はい、はい、喧嘩はここまで。

この先も、僕に君たちの仲裁をさせるつもりか? ま、それでもいいけどね」



そのとき、教会に結婚式の依頼をしに行っていたジョバンニの馬車が、戻って来た。


「旦那様、ただいま戻りました。司祭さまは三日後で受けてくださいました。

あ、カルロ様、失礼いたしました。いらっしゃいませ」


「ジョバンニ、そんなにドン引きしないでくれ」


ジョバンニは、カルロの冗談に笑いもせず、真剣な表情になった。


「旦那様、カルロ様、わたくしが教会へ行ったところ、ルチアーノ伯爵の領地から、煙が上がっているのを見ました。

もしかしたら、ちょっとした小競り合いが起きたかもしれません」


「何だと? 親父はどうした」


「わたくしから確認するすべはございません」


「ロリー、悪いが、僕はこれで帰るよ」


「待ってください、カルロ。何かあったらわたしもすぐに駆け付けます」


「何言っているんだ。三日後の花婿にそんなことさせられるかよ。

モニカを泣かすようなことは、絶対にさせない。じゃあな」


カルロ様は、急いで馬に乗って自分の領地へ帰って行った。


「ジョバンニ、今の情報は確かですか」


「はい、旦那様、司祭様の元にもちょうど伝令が届いたタイミングでした。

司祭さまは、三日後で受けてくださいましたが……、

もし、隣の領地の防衛に、旦那様が応援に行くのなら話は変わって来るかと。

結婚式は一か月後に変更した方がよろしいのでは…」


「それはない」


はぁ?

無理じゃない?

防衛に出るのと、結婚式を両方ともやるって。


「ロレンツィオ様、わたしは延期しても大丈夫なので」


「いいえ、ダメです。予定通りに進めてください」


なぜそんなにストイックになる。

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