第28話 難攻不落
「……それ、どういう意味ですか?
ロレンツィオ様は、簡単に元に戻れるのですか」
「……」
侯爵は何も答えてくれない。
あれれ?
「あれ? なんかわたし勘違いしていたのかな。
名前で呼んでくださいって言われて喜んでいたなんて、
浮かれていたんですかね。
わたしがロレンツィオ様のこと、好きと思う気持ち…
空振りだった?
これって、最高にかっこ悪いやつだ」
涙がポロポロこぼれて止まらない。それなのに、顔が笑ってしまうのは何故。
わたし、たぶん今、笑っている。
泣きながら笑っている。
そして、こんな時に笑うなんて、もっと軽蔑された。
「失礼します」
わたしは、食堂を出て自分の部屋まで走った。
終わった。
放置されて、叱られて、甘えられて、崖から突き落とされた。
それから、また優しくされて、また放置されて、最後にトドメを刺されて、イマココ。
荷物をまとめよう。
*
「お嬢様、本当に荷物をまとめてよろしいのですか?」
マリアが心配そうに言った。
「いいの。やっぱり、カンパニーレ侯爵は難攻不落な城だったってことがよくわかった。
わたしには無理だったのよ。
侯爵にはそれがわかっていたから、いつでも契約破棄前提の婚約にしたんだわ。
いつかはこうなっていた。早いか遅いかの違いだけよ」
*
下に降りると、家政婦長のモンテローザがいた。
「お嬢様、まさか……」
「ごめんなさい。わたしは侯爵の婚約者には不適格だったみたい。
みなさんによろしく伝えてください。わたしはとても幸せでした」
「なりません! お嬢様。
お嬢様がいらっしゃってからこの屋敷の者たちはどれだけ救われたか。
ここに残ってくださいませ」
「ありがとう、モンテローザ。
その言葉だけでとても嬉しいです。では、お元気で」
カンパニーレ邸の外に出た。
はて、どうやって帰ろう。
「マリア、馬車の用意は」
「バトラー・ジョバンニにお願いしてみます」
「マリア、それをあなたに頼むのは酷だわ。いいわ、歩きましょう」
「お待ちください。オオカミの出る森も徒歩で行くつもりですか?
わたくしがジョバンニを呼んできますから、ここでお待ちください」
マリアはカンパニーレ邸の中へと急いで戻った。
その後ろ姿を見送ってわたしは決心がついた。
マリア、あなたはそのままここに残った方がいいわ。
マリアが戻ってくる前にここから消えよう。
わたしは一人で歩き始めた。
だが、しばらく歩いただけで、力尽きてしまった。
*
どれくらい意識を失っていたのか、
気が付いたら、マリアとジョバンニにがわたしの名を呼んで、水を飲ませようとしていた。
「モニカお嬢様、気がつきましたか」
「お嬢様、うわぁぁーーん!」
マリアがわたしに抱き着いて大泣きしている。
「ここは……」
「馬車の中です。モニカお嬢様、今すぐお屋敷にお戻りください」
「わたしは戻りません」
「お願いです。このジョバンニのお願いを聞き入れてください。」
「ロレンツィオ様には嫌われました。戻れません」
「旦那様からは命令を受けておりませんが、わたくしの勝手なお願いです。
帰って来てください。
旦那様が……、今朝から一歩も部屋の外に出てこないのです。
部屋の内側から鍵をかけられて、呼んでも返事が帰ってきません。
モニカお嬢様、どうか旦那様のご様子を確認していただけませんか」
「残念だけど、ジョバンニ。わたしはもうロレンツィオ様の何者でもないの。
わたしが行ったら、かえって混乱するでしょ」
「それでもいいです。婚約者じゃなくてもいいですから、お屋敷に戻ってきてください!
旦那様の固く閉じた扉を開けられるのは、お嬢様しかいません」
「それって、力づくでも開けろと? 頼む先を間違えてません?」
「旦那様の無事を確認できたら、帰りの馬車を出してもいいです!」
そこまで言うか。
一旦、戻って扉を開けたら、また出て行っていいと。
ジョバンニがこれほどまでに取乱しているということは、よほどの事かも。
考えたくはないけど、なにか最悪なことが起きている?
部屋の内側から鍵をかけるって尋常じゃないわ。
「わかりました。戻ります。無事を確認したら、馬車を出してくださいね」
「お約束します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます