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 銀星街は小学校から徒歩10分ほどにあるアーケードのついた商店街で、そこを抜けた先には急行の停車する駅がある。

 三人は銀星街の通路の中央を歩きながら、左右にじっくり見て回った。

「それっぽい人がいたら言えよ」

「うん」

 ゲームセンターにラーメン屋、銀行の出入り口にカラオケ、ドラッグストア。銀星街は普段と変わらずいろんな店舗がところ狭しと並び、活気にあふれている。

 しかし、こんなにガヤガヤと騒がしいところでも、お化けは現れるものなのだろうか。

「なーんか、お化けが出るって感じはしないんだけどなぁ」

「まぁ、ここはいつでもこんなだもんね」

 騒がしい商店街をゆっくりじっくり歩いてるので気づいたが、例のポスターが中央の通路から脇に逸れていく道角にある電柱に、しっかり貼られているのに気づいた。

 確かに女の人のお化けは、ここに来ている。

「そうだ遥斗。その女の人ってどんな格好してたんだっけ?」

「たしか、白いシャツに明るいグレーのスーツ、だったかな。会社に行ってる人みたいに、結構きっちりしてた」

「でも髪がすごいボサボサだったんだよね?」

「うん。肩くらいまでの黒髪だったんだけど、頭洗ってないのかな?ってくらいパサパサでしてて、変な感じだったなぁ」

「グレーのスーツか……」

 改めて銀製街を歩く人たちに目を向けてみるが、時間帯のせいかスーツ姿の人は見当たらない。カジュアルな服装の主婦っぽい人がお店の人とおしゃべりしていたり、制服を着た中高生が買い食いしたりしている。

 じっくりゆっくり、数百メートルはあるアーケード街を見て歩いたが、目当ての人物を見つけられないまま、反対側の端に着いてしまった。

「……いなかったな」

「うん」

「なんか、普通のティッシュ配ってる人もいなかったね」

 休みの日はもっと人出が多いので、何かしら配る人もいるのだが、平日の午後だとそういう人もいないらしい。

「駅前のほうまで行ってみるか?」

「そうだな」

 三人は銀星街を抜けた先にある駅前広場まで行ってみたが、チラシを配る女の人は見つからなかった。

「ぜーんぜん見あたらないねぇ」

 最初は怖がっていた虎太郎も、あまりに見つからないので怖がっていたことも忘れて息を吐いている。

 不意に遠くから、甲高いオルゴールの音で『夕焼けこやけ』のメロディが流れてきた。銀星街の出入り口にある、大きな仕掛け時計が17時を知らせる音楽である。

「やべ、そろそろ帰らないと」

「続きは明日だな」

「そうだね」

 三人は嬉しいような残念なような気持ちで家路についた。



 ☆



 銀星街を通り抜け、ポスターだらけの通学路を通り、途中の道で遥斗や虎太郎と別れた後、雪弥は夕暮れ地区にある自宅ではなく、すぐ隣にある天崎家のインターホンを押した。

 両親が共働きで誰もいない日、雪弥は天崎家にお世話になることになっている。

「ただいまー」

「はーい。おかえり、雪弥くん」

 そう言って玄関ドアを開けてくれたのは、幼馴染で大学生のお兄さん、天崎あまさきはじめだった。

 いつもなら肇の母親が出てくるはずが、予想外に肇が出迎えたので、雪弥は少々面食らう。

「あれ、肇兄? おばさんは?」

「遠方に住んでる叔母さんが怪我しちゃったらしくて、お見舞いとお手伝いに行ってるんだ」

「あー、そうなんだ」

 雪弥は勝手知ったる我が家同然に上がると、リビングのソファにランドセルを置いた。

「だから今日は僕と雪弥くんだけでお留守番! 晩御飯も僕が作るよ」

「……大丈夫かな」

「さすがに料理くらいはできるよぉ」

 妙に張り切って腕まくりをして見せる肇に、雪弥は一抹の不安を覚える。自分より八歳も年上の幼馴染であるが、虎太郎と同じかそれ以上にビビりなうえ、少し抜けたところがあるのだ。

「心配だからオレも手伝う」

「本当? ありがとう!」

 嬉しそうに言う肇と一緒に、雪弥はキッチンに立つ。

「で、何作るの?」

「今日はハンバーグでも作ろうかなって」

 キッチンの中央にあるカウンターの上に、ひき肉や卵、玉ねぎが置いてあった。

「僕はお米といでセットするから、その間に雪弥くんは玉ねぎの皮剥いてくれる?」

「ほーい」

 雪弥は手を洗うと、キッチンのカウンターに出された玉ねぎの、薄茶色の皮を剥き始める。

「今日は帰ってくるの遅かったね、どこか寄り道してたの?」

「あー、実はさぁ……」

 炊飯器の釜に入れたお米を流しでガシャガシャと洗う肇に聞かれ、雪弥は眉を下げつつ、銀星街に現れた人探しをするお化けの話をした。

 するとお米を洗い終え、炊飯器にセットした肇が顔を真っ青にして情けない声をあげる。

「えぇ〜〜〜!」

「いや、今日は女の人見つけられなかったし、大丈夫だって」

 お化けにあったら夜中にやってくる、という部分が嫌なのだろうと思い、雪弥が呆れたようにいったのだが、肇の口から出てきたのは予想外の言葉だった。

「今日、僕、商店街で買い物してた時に、そんな感じの女の人に話しかけられちゃったんだけど……」

「えぇ!?」

 夕飯の材料を買いに銀星街に行ったところ、グレーのスーツを着た女性に話しかけられたという。クリーム色のチラシを見せつけながら「うちの子知りませんか?」と聞いてきたらしい。

 話を聞く限り、女性の特徴も遥斗が言っていた人物像と一致する。

「それ、何時くらい?」

「たしか17時よりは前だったと思うけど。買い物して、チラシもらって、銀星街出た後くらいに『夕焼けこやけ』が鳴ってたし」

 おかしい。

 その時間なら、自分たちも銀星街で女の人を探していた頃だ。

 三人で銀星街を端から端まで、しっかり見ながら探し回っていたのに、女の人にも肇にも会っていない。

「ど、どうしよう……」

 よくあるビラ配りに会ったくらいのはずが、まさかのお化けかもしれないという事実に、いい大人のはずの肇が本気で泣きそうな顔をしていた。

 肇の話が本当であれば、今夜その女の人が訪ねてくるはず。

「じゃあインターホンが鳴ったら、オレも起こしてよ」

「うぇぇ、わかったぁ、ありがとうぅ〜〜」

「……普通、逆じゃね?」

 半泣きになりながらも玉ねぎを切り始めた肇に、雪弥は呆れたように息を吐いた。

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