第25話 一泊
「はぁ~久しぶりの宿屋はなんて素敵なの!」
やや清潔感に欠ける上、狭い部屋であったが、ベッドは最低限の清潔さを保っていた。
木製のベッドに柔らかな藁を敷き、その上に布を掛けただけの粗末なものだったが、野営を続けた2人にとっては天国だった。
「ずっと野営だったもんね。安全な場所で寝れるってこんなにも良いものだったのかー!」
アルはローブを脱ぎ、チュニックだけになろうとして、手を止める。
(左腕……見せたくないなぁ)
ジケニアの町からローブを着用し続けたせいで、アルは左腕を見せることに改めて抵抗を感じ始めていた。
そうとも知らず、リセチはローブを乱暴に脱ぎ捨て、半袖のチュニック姿になっていた。
「この瞬間が最高なのよ!冒険が終わって無事帰ってきたー!って感じ!」
リセチは両手を高々と持ち上げ、万歳のポーズを姿勢でベッドに飛び込んだ。
やや怪しい音がしたが、ベッドは華奢なリセチを受け止めることに成功したようだった。
(僕は静かに横になろう)
「今日から僕は冒険者か。なんかここまであっという間だったなぁ。最初は誰でもこんなもんなのかな?」
「……」
「新人だし節約生活をしようってことで、ランクの低い宿屋を取ったけど、これで十分だね!……ってアレ?」
数十秒前まではしゃいでいたはずのリセチの声が聞こえなくなったと思い、そちらを見てみると、既に静かな寝息を立てて寝ていた。
(は、早すぎる)
あまりの早さに驚いたアルだったが、無防備に眠るリセチを見て安心したのか、アル自身も急激な睡魔に襲われた。
(明日から忙しいぞー。講習会、呪紋屋、装備品、アイテム、仲間集め――)
まぶたが急激に重くなり、そのまま魔法に掛かるようにして眠りに落ちた。
―
――
―――
翌日、大通りから聞こえる喧噪と、町のどこからか聞こえる大きな鐘の音でアルは目覚めると、寝ているリセチを揺さぶって起こし、講習会に行ってくることを告げる。
「リセチ。じゃあ僕は講習会に行ってくるよ」
「んにゃ、もうそんな時間?がんばってねー……すぅ……すぅ」
これだけ気持ちよさそうに寝られてしまうと、このまま自分も二度寝してしまいたくなるアルだったが、首を何度か横に振り邪念を吹き飛ばした。
(ダメダメ。僕はリーダーとして講習会に行かなきゃ!)
アルは力強い足取りでギルドへ向かった。
早朝にもかかわらず、町はしっかりと機能していた。大通りのお店のほとんどは商売を開始していて、行き交う冒険者の一団は皆、強い眼差しで門を目指している。
ギルドも同様で、朝から活気に包まれていた。
(えっと……たしかこっちでやるって言ってたかな?)
受付のお姉さんに言われたことを思い出しながら辿り着いた部屋は、天井が高い大広間。
そこにはたくさんの木製の椅子が置いてあった。
既に椅子は埋まっていて、壁際には椅子に座れず居場所の無い新人冒険者達が背中を壁にもたれながら立っている。
新人冒険者ということもあって皆とても若く、ひと山当ててやろうという野望を全身から漲らせている欲望の塊のような脂ぎった男たちばかりであった。
(うわ……みんな強そう)
新人冒険者たちの様子を窺っていると、扉が軋む音と共に前方の扉から、縦も横もギガより大きい男が入室してきた。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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『野宿からのベッドはとっても気持ち良いんだろうなぁ』
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