半蟲半人~蟲に苗床にされた僕だったが、その時得たチート能力を使って世界を救う~
きさらぎ
プロローグ
(もう少し……もう少しだ。アイツが範囲に入ってくれさえすれば撃てる)
後方にポジションを取っているアルは、50メートルほど前方で暴れている3体の蟲に狙いを定めていた。
その蟲と交戦するのは前衛の2人。鮮やかな身のこなしで牙や針を躱し続け、徐々に敵達を指定の場所に誘導していく。
しかし、最後の1体が警戒してしまい、目的の場所までなかなか踏み込んでこない。
「アル……まだ撃たないの?」
「うん、あと少し。ほんの少しだ」
アルの後方から痺れを切らせた女の声が聞こえたが、アルは狙いを定めたまま端的に答えた。
(まだ目的地までは遠いから、できるだけ魔力は温存しておきたい。1発で全滅を狙うためにもなんとか前衛の2人……堪えてくれ)
前衛がアルの攻撃範囲に敵を集結させるにつれて、躱すスペースが狭くなり、敵の攻撃が2人に掠り始める。
始めは当たる気配の無かった攻撃がヒットし始めれば、恐怖から体が強張り、動きに乱れが出るのが普通だが、2人の動きに乱れはなかった。
傷を負うことに恐怖を覚えないのかと錯覚してしまうほどの動きにアルは驚かされる。
(これが信頼……か。後衛に優秀なヒーラーがいるからね)
「
アルの後方から回復呪文が唱えられると、前衛の2人が負った傷は一瞬にして消え去った。
(後衛の僕たちを信頼してくれてるからこそ、あんなギリギリの戦いでも逃げずに戦ってくれているんだ!僕だって2人の気持ちに応えてみせる!)
その時、待ちに待った瞬間が訪れる。
最後の1体がアルの攻撃範囲に足を踏み入れた。
「散開!!」
アルの大声が洞窟内に響き渡った瞬間、腕輪をはめたアルの右手から真っ赤な球体が放たれる。
前衛の2人はアルの魔法が届く一瞬前に、文字通り左右に散開した。
その直後、アルの魔法が蟲達の足元に着弾し、大爆発を引き起こす。
先ほどまで、アルたちに牙を向けていた蟲たちは無数の肉片となり飛び散った。
「よし!命中だ!」
仲間の無事と敵の排除を確認したアルの口から、安堵と喜びが混じった声が飛び出た。
「アル、ナイスゥ!だいぶ連携にも慣れてきたんじゃない?」
「ありがと!良い感じだったよね。そう言ってもらえると自信に繋がるよ」
「AGI(敏捷)を上げた成果が出てきたって感じね!目標の50までは足りてないけど、最初の頃よりはだいぶマシになってる!」
そこへ前衛の2人が笑顔でこちらへ歩み寄り、話に加わった。
(ホントに良い連携だった。これが毎回できるようになれば戦闘が楽になるぞ。僕自身、敵の動きもだいぶ見えてきたし、ちゃんと特訓の成果が出てきてるんだ!)
前衛の2人とヒーラーは笑顔でお互いの健闘を称え合っている。
(それにしても、剣も魔法も使えなかった僕がこんな簡単に蟲を殺せるなんて、あの時は夢にも思わなかった)
リラックスした表情で話す3人を横目に、アルは悲劇の始まりを思い出していた。
(最初から僕が力を持っていたら、村の皆を救えていたのかな?村長と一緒に戦えてたら……)
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
読んでいて
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