[600字]脱皮

千織

[三題噺]空欄 花火 死体

私は数学のテストを全て空欄で出した。

担任に呼び出された。


「何か悩みがあるのか?」


優しい先生だ。

心配してくれる。


「彼氏と花火大会に行くのを反対されて、腹が立ったから勉強を辞めようと思って」


「そうか。花火、行きたいよな。彼氏と行くのがダメなのか? 花火大会に行くのがダメなのか?」


「母は”私が幸せになる”のがダメなんです。白紙の答案が出されたと知ったら『ご迷惑をおかけしました』と言って、泣いて先生に謝るでしょう。そして『お前は勉強しか取り柄がないのだから、それくらい頑張りなさい』と言うはずです」


「そうか。しんどいな。彼氏ってBだよな。良い奴だと俺も思う。だからって隠れて付き合えばいいとか、そういう問題じゃないよな」


「母は、頭がおかしいのです。先生が何か言って、わかる人じゃありません。でも、先生に心配してもらえたのは嬉しかったです」


「そうか。今回テストは具合が悪かったことにして、追試をしよう」


「ありがとうございます」



Bが先生との面談が終わるのを待っていてくれた。


「追試をしてくれるって」


「良かったね」


「花火大会は、行けないけど」


「みんなで行くのもダメなの?」


「私が幸せそうなのがダメなの」


「わかった。じゃあ今度、河原で手持ち花火をやろう」


「そうだね」


こうやって、私は母が呪いをかけてきたら、脱皮して捨てていく。


振り向けば、私の死体の山。


それでいいのだ。

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