67. エメラルドグリーン
一通り島を回ってみたが、誰も住んでいないし魔物がいる気配もない。手つかずの無人島の様だ。前世の賑わいはどこにも見当たらない。
「誰もいないのか……。まぁ、リゾートにはちょうどいい……か」
俺は後ろを向いて半ば寝ていたドロシーをやさしく揺らした。
「着いたよ! 楽園だ!」
「う? もう着いたの……?」
ドロシーは目をこすりながら、真っ白な砂浜にエメラルドグリーンのサンゴ礁を見回し……、
「うわぁ! すごい、すごーーい!!」
と、歓声を上げる。その目は驚きと喜びでキラキラと輝いていた。
「ようこそ石垣島へ。俺の第二の故郷さ」
俺は少し誇らしげにドロシーを見つめる。彼女の反応に、かつて自分が初めてこの島を訪れた時の興奮が
「すごい綺麗だわ! ユータ、この景色、絵みたい!」
美しく澄み通る海、それはドロシーが想像もしたこともない、まさに南国の楽園だった。その美しさに、彼女の声は興奮で震えている。
俺は美しい入り江、
俺は船尾から先に下ろし、ザバッと水しぶきを上げるとそのまま静かに着水していく。
カヌーは初めて本来の目的通り、海面を滑走し、透明な水をかき分けながら熱帯魚の楽園を進んだ。水面下には、色とりどりの魚たちが群れをなして泳いでいる。
潮風がサーっと吹いて、ドロシーの銀髪を揺らし、南国の陽の光を受けてキラキラと輝いた。
「うわぁ……まるで宙に浮いてるみたいね…… ユータ、これが海なの?」
「ほんとだよね。こんな綺麗な海は俺も初めてだよ」
澄んだ水は存在感がまるでなく、カヌーは空中を浮いているように進んでいく。
俺は真っ白な砂浜にカヌーをそのままザザッと乗り上げる。
「到着! お疲れ様! 気を付けて降りてね」
ドロシーは恐る恐る真っ白な砂浜に降り立ち、足の下の感触を確かめるように少し歩いてみる。サクッサクッとサンゴ礁のかけらでできた砂が心地よい音を立てた。
「うふふ、すごいいところに来ちゃった!」
真っ青な海を眺めながら大きく両手を広げ、深く深呼吸をするドロシー――――。
俺はそれを見ながら胸が熱くなるのを感じる。
「ユータ、ありがとう!」
俺に振り向いて輝く笑顔で言った。
「どういたしまして……」
このドロシーの笑顔をもっともっと見ていたい。俺は心の底からそう思った。
◇
前世では世界の羨望のまなざしを受けていたダイビング天国石垣島。そこが今、二人だけの貸し切り状態なのだ。思いっきり満喫してやろう。
俺はカヌーを引っ張り上げて木陰に置くと、防寒着を脱ぎながら言った。
「はい、泳ぐからドロシーも脱いで脱いで! 海水の気持ちよさを全身で感じようぜ」
「はーい! でも……泳ぐってどうするの?」
ドロシーはうれしそうに笑ったが、少し不安そうな色がある。アンジューの街の人たちは一生泳ぐことなどないのだ。
「大丈夫、俺が教えてあげるから。まずは水に慣れるところからだ」
「分かったわ! それーー!」
水着になったドロシーは白い砂浜を元気に走って、海に入っていく。その姿は、まるで解き放たれた小鳥のようだった。
「キャーーーー! 冷たい! でも気持ちいい!」
うれしそうな歓声を上げながらジャバジャバと浅瀬を走るドロシー。
銀髪の美少女が美しいサンゴ礁の海をかけていく――――。
あぁ、まぶしいなぁ……。
俺は心が癒されていくのを感じていた。
「ねえ、ユータ! 早く来てよ! 一緒に遊ぼう!」
「はいはい!」
ドロシーの呼びかけに、俺も海に飛び込んだ。水しぶきを上げながら彼女に近づき、二人で笑い合う。この瞬間、俺は全てを忘れ、ただ今を楽しむことができた。石垣島は、再び俺に幸せをもたらしてくれている。
◇
「そろそろ潜ろう。水中の世界を見せてあげるよ」
俺は頭の周りを覆うシールドを展開した。巨大なシャボン玉のような透明な
俺はドロシーの手を取って、どんどんと沖へと歩く。波が二人の体を優しく包み込んでいった。
胸の深さくらいまで来たところで、ドロシーに声をかける。
「さぁ、潜ってごらん。この世界の神秘が見えてくるよ」
「え~、怖いわ。潜ったことなんてないし……」
「じゃぁ、肩の所つかまってて。俺が案内するから」
そう言って肩に手をかけさせる。ドロシーの温かい手が俺の肩に触れる。
「こうかしら……? え? まさか! ユータ、何を……」
俺は一気に頭から海中へ突っ込んだ。一緒に海中に連れていかれるドロシー。
「キャーーーー!! ちょっと、心の準備が……!」
ドロシーは怖がって目を閉じてしまう。その表情が可愛らしくて、思わず笑みがこぼれる。
俺は水中で優しく言った。
「大丈夫だって、目を開けてごらん。奇跡の世界が広がってるよ」
恐る恐る目を開けるドロシー――――。
そこは熱帯魚たちの楽園だった。
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