第34話 相談3

 今日エディは思い切ってルイスに相談してみた、

 が、あのひとは魔術については詳しいが、相談相手としては不向きだった。

 人の気持ちに鈍感である。

 

 友人にも話してみたが、皆エディの思い過ごしだと言い、それどころかシスコンなエディのほうが気がかりだと指摘してくる始末。

 シスコンで何が悪い?

 義姉を心配しているだけだ、何も悪くない。

 

 ふう、とエディは溜息をつく。

 友人宅から戻り、庭に行く。

 すると園丁を手伝い、草木の手入れをしているクライヴの姿がみえた。

 クライヴは魔力保持者であるが、それをひけらかしたりせず、働き者で真面目だ。

 稀に見る美少年で女性使用人からの人気も高い。

 

 以前クライヴを胡散臭いと警戒していたが、気絶した義姉を彼はしっかり運んでくれた。

 エディにはできないことをクライヴはしたのだ。

 シャロンに言われ、ひとを身分だけで判断しないと、エディはそれから考えを改めた。

 

 園丁とクライヴはこちらに気づき、頭を下げる。

 エディは思った。


(そうだ。クライヴは王宮に行くときや、母様の実家に行くとき姉様に付いていくじゃないか。ルイス様よりは姉様のことをわかるはず!)


 エディは彼らの前に歩み寄った。


「若様、何か御用でしょうか」

「うん。ちょっと話があるんだ、クライヴに。忙しいなら後で構わないけど」

「ここはいいから、若様のお話を」

 

 園丁に言われたクライヴは頷いた。


「はい。若様、今伺います」

「じゃあ、ちょっと来てくれる?」


 ここでは話せない。

 大切なことだ。


「かしこまりました」


 エディはクライヴを引き連れて離れに向かった。

 内密の話をするのに最適だ。人が来ないのである。


「座ってくれ」

「はい」


 クライヴは授業で使ういつもの席に座る。

 机を挟んだ向かいの椅子にエディは腰を下ろした。


「ルイス様にご相談したが、あのかたでは駄目だったんだ。ルイス様は魔術を教えてくれ、良いかただとは思うけれど、感情に疎い。友人も力になりはしなかった」


 エディは溜息を吐き出す。クライヴは無言である。


「それでおまえに相談しようとね」


 クライヴは軽く首をかしげた。


「俺に若様の悩みの解決ができるとは思えないのですが……」

「いや、おまえは姉様の従者じゃないか。姉様の近くにいるんだし、姉様のことがよくわかるでしょ」

「お嬢様に関することなのですか?」

「そうだよ。姉様は悩んでいるとぼくは感じてて。ライオネル様との結婚を、本心では望んでない気がする。クライヴ、おまえは見ていてどう思う?」


 クライヴは戸惑ったように首の後ろに手を置いた。


「わかりかねます」


 エディは身を乗りだす。


「いや、何かわかることがあるでしょ。いつもそばにいるんだから」

「俺はただの使用人ですし、若様のほうが、お嬢様をよくご存知です」


 クライヴに聞いても仕方なかったかもしれない。

 義姉のことを一番わかっているこの自分がなんとかしないと。


「そうか……」

 

 するとクライヴはおずおずと言葉を発す。


「何かなさろうとするより、見守られるのが一番よろしいのでは」

「おまえも、ルイス様と同じようなことを言うね」


 放っておけないから、こうして相談しているのだ。


「何もせずにいて、大変なことになったらいけないでしょ」

「大変なこと、ですか?」

「そうさ。姉様の結婚が流れてしまったりとか……」


 しかし。

 それでも良いのでは?


(結婚が流れて、別にぼくは困らないよ)


 義姉にとっても、縛られることがなくなって幸いでは?

 が、シャロンはライオネルが好きである。そんなこと見ていればわかる。

 結婚が流れたらいいなどと考えるべきではない。

 義姉の幸せを祈るべきなのだ。

 

 エディは大きく息を吸いこむ。


「姉様はライオネル様が好きだから。思い悩んでいるなら解決してあげなきゃいけない」

「もし本当に悩みがあり、抱えきれないのなら、お嬢様のほうから若様にお話をされると思います。どういった内容かはわかりかねますが、そのときお力になられるとよろしいのではないでしょうか?」


 クライヴの言う事ももっともであった。


「そうだな……」 

 

 義姉が自分に相談してくれるのを待つのが最善で、今、立ち入るべきではないかもしれない。


「クライヴ、時間をとらせた」

「いえ」

 

 エディは彼と別れ、自室へと戻った。

 シャロンが話してくれるまで……。

 果たして義姉は話してくれる?

 

 頼りない義弟と思われていて、相談してくれないかもしれなかった。

 義姉に、頼もしいと思われるような男にならなければ、とエディは唇を噛みしめた。

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